今年8月、ブロックチェーン技術を活用したNFTマーケットプレイス「HABET(ハビット)」がオープンした。
運営するのはFORO株式会社。クリエイターやインフルエンサー事業で知られるUUUMの創業者でCEOの鎌田和樹さんが代表取締役を務めている。
鎌田さんは、「YouTuber」という存在が知れ渡る黎明期から数々のクリエイターをサポートし、可能性を切り開いてきた。
そんな鎌田さんが手がける次の一手、NFTのマーケットプレイス「HABET」とは一体なんなのか。NFTの可能性について話を聞いた。
そもそも「NFT」とはなにか
鎌田さんの話の前に、「NFT」についてざっくり説明する。「NFT」とは、非代替性トークン(Non Fungible Token)のこと。画像やGIFなどのネット上のコンテンツにNFTを付与することで、自分がその画像の所有者であることや画像がコピー品ではないことを証明できるのだ。
世界に一枚しかない絵画のデジタル版と考えるとイメージしやすい。
通常、インターネットやデジタル上のコンテンツは簡単にコピーや加工、改ざんができてしまうため、価値をつけることが難しかった。しかしブロックチェーンの技術を使いNFTが付与されることで、そのコンテンツは偽造できない唯一無二の状態、アートのような作品となり、価値が生まれる。
この「NFT」を活用すると、どのようなことが起きるのか。たとえば海外では、Twitterの創業者であるジャック・ドーシーさんの初めてのツイートが約3億円で落札された。
NFTを応用すると、他にもYouTuberが撮影した写真や描いたイラスト、音声、動画などのコンテンツをNFTマーケットプレイスに出品することだってできる。
ファンはそれらをクレジットカードで購入し、そのコンテンツの所有者であることが情報として記録され、証明される。その仕組みを提供する場所が、今回の「HABET」というわけだ。
鎌田さんはそんな「HABET」を、どうしてこのタイミングで作ったのだろうか。
クリエイターのすべてのコンテンツが売れる時代
ーーまずは「HABET」を作った理由を教えてください。
鎌田:僕らはもう、UUUMを創業してからずっと「個人がメディアになる時代」を掲げていて、その先にクリエイターやインフルエンサーの「個人経済圏」を作るということを言い続けてきました。
今回の「HABET」は、そんな個人経済圏をさらに拡大するためのものです。
僕は個人経済圏の最終的なゴールは、クリエイターのすべてのコンテンツが売れるようにすることだと思っています。
今だと見られた動画につく広告やグッズ、イベントの物事に対して価値がつきますよね。
でも今後、個人経済圏をもっと拡大していくには「無形なデジタルコンテンツ」にも価値が可視化されていく仕組みを作らないといけない。
そう考えた時に、僕たちが今抱えているクリエイターやインフルエンサーたちの最終的なゴール地点として、無形なモノの価値を生み出す場所が必要なんじゃないかと。
そういう思いを込めて、「HABET」を作りました。
ーーNFTはまさにネット上の形のないコンテンツに価値を生み出してくれますね。
鎌田:僕はビジネスにおいて、無形なモノを売れる人ほどすごいというロジックを持っています。わかりやすく言うと、たとえば保険も無形なモノですよね。保険のような無形なモノが売れるには、お互いの信頼関係がないと難しい。
そういった意味でNFTはそもそもの存在自体が無形ですし、その無形なモノを作り出すクリエイターと買ってくれる人の信頼を証明する。NFTはそんな役割を果たしてくれる可能性を秘めてるんじゃないかと感じました。
ーークリエイターやインフルエンサーの無形なモノってたとえばどんなものが考えられますか。
鎌田:たとえば1人のインフルエンサーがつぶやいたことでも、そのつぶやきはコンテンツだよねって。わかりやすい動画や写真だけがコンテンツではなくて、インフルエンサーが行動することで生まれるすべてがコンテンツだと思います。
そこに価値が付くかどうかは、結局、商品として陳列されるかどうかの違いだと思うんです。こんなことをUUUMを創業した時からずっと考えていて、2018年にはクリエイターたちのコンテンツをトレーディングカードにするブロマイドサービスを企画したこともありました。
結局リリースには至らなかったんですが、そういった文脈からインフルエンサーの無形なモノとNFTはすごく相性がいいと思ったんです。
NFTとYouTuberの共通点
ーー楽天やLINE、TikTokなど大手IT企業も続々とNFTに参入しています。鎌田さんはじめ、NFT事業にこれだけ多くの企業が名乗りを上げていて、なんとなくすごいことになりそう……という感じはしているものの、まだあまりピンときていません。
NFTには、事業としてどんな可能性があるのでしょうか。
鎌田:まだみんな、半分ぐらいは探り探りなところがあると思いますよ。多分、事業にしたいと思っている人や会社は2つに分かれるんじゃないかと。
1つはマーケットプレイスを提供すること、もう一つはNFTのコンテンツ自体を作ること。僕らはその両方をやっている感じがしますけれど、たとえばNFTコンテンツのプロデュースをする側に立つことだってできると思うし、事業としていろんな可能性があるんじゃないでしょうか。
自分としてはUUUMのようなYouTuberやインフルエンサーの事業を立ち上げた時の感覚に近いですね。
ーー2013年ですね。どんな感覚だったんですか。
鎌田:今のNFTを巡る状況と全く同じ感じで、混沌としているというか。
「YouTuber」って言葉が出てきた時って、やっぱりマイナーだとか一部のオタクの人たちのコンテンツとか、正直、最初の頃のイメージって今みたいに大人に構ってもらえるほどいいものではなかったんですよね。
でも、次第にどんどん社会的な地位が向上していくところも見てきました。
今のNFTは、まさしくYouTuberの最初の頃の状況と合致していて、だからこそ可能性を感じてるんですよね。
ーーたしかに最初に「NFT」を耳にした時って、「◯億円で落札された」など高額取引のニュースからだったので、なんとなく「怪しそう」という印象もありました……。
鎌田:やっぱり今はまだNFTの市場を拡大していく段階にあるので、ある程度の流通が動く必要はあります。その点で高額取引は必要ではあるんですけれど、じゃあ高額取引だけが市場拡大に必要かと言われるとそうではないと思っていて。
僕は「HABET」でそんなに高額な金額が動くとは思ってないんですよ。
ーー出品されてるものを見ていると、数百円から数千円ぐらいのものも多いですよね。
鎌田:今回、「HABET」を作るにあたってクリエイターに「どう見られたら嫌か」ってことをずっと確認し続けながら開発してきました。
その中であったのが、売れないことよりも変に金額が上がることの方が嫌だって声があったんですよね。
ーー高い金額で取引されると、どうしても注目はされてしまいますね。
鎌田:だからNFTって面白そうだよね、楽しそうだよねって思ってもらえても、結果的にクリエイターが「嫌でした」って状態になることだけは避けるようにしていて。
UUUMの事業を立ち上げる時もそうだったんですが、やっぱり啓蒙活動ってめちゃくちゃ大事なんですよね。
それでいうと今はNFTって言葉自体をどれだけ知ってもらうかが大事ですし、そのためにはなるべく多くのクリエイターやインフルエンサーに参加してもらわないといけない。
一過性のブームに乗ってやるんだったらUUUMのクリエイターだけでやればいいし、わざわざマーケットプレイスを作る必要はないんですよ。
でも、それだと単純なファングッズにとどまっちゃうしNFTは広がらない。だからみんなに参加してもらって、いろんなクリエイターたちの作品をエネルギーにしていきたい。それで初めてNFTというものが広がって、市場が成り立つ場所になっていくんだろうと思うんです。
僕たちは、今NFTをやったら儲かるとか流行に乗る文脈とは全然違う方向でやっています。
NFTを買うと寄付される仕組みづくり
ーー確かに最初はNFT=高額取引というイメージもありましたが、少し調べてみると別の側面も見えてきました。
たとえば海外では高額取引で得た利益を慈善団体に寄付している例がいくつかあったり、今回の「HABET」も手数料の一部がYahoo!ネット募金に寄付される仕組みがあります。
なんとなく、NFTと社会貢献は近いところにいるのではと。
鎌田:やっぱりコロナって僕たちのビジネスにおいても影響があって。コロナの中でいろんな価値観が生まれていったと思うんですが、その中でただ誰かが儲かればいいってことだけでビジネスをしていると、どんどん大義が薄れていくように感じました。
その状況で、僕はなるべくお金を循環させていくことに社会的な意義があるんじゃないかと思うようになったんですよね。
お金の循環にはいろんな手法がありますけれど、「HABET」で売買が成立した時に、一部がYahoo!ネット募金を通じて寄付につながることは意義があることなんじゃないかと。
NFTを売りたい、買いたいという人たちにプラスで社会貢献までできるような仕組みを作ってあげることは、結果的にNFTに参加しやすい状態にもつながりますし。
ーー売る、買うだけじゃなくてそこに「寄付」が加わるだけでだいぶNFTのイメージが変わりました。
鎌田:NFTって存在自体がすごくふわふわしたところにあると思うんですよね。だからこそ、NFTの存在意義を何個も作ってあげる必要があって、そのうちの一つがYahoo!募金という感じでしょうか。
NFTの未来はプリクラ?
ーー今はまだNFTの知名度拡大、参加する人を増やしていく段階だと思います。それが、たとえば今の「YouTuber」のようにある程度浸透していくと、どんな状態になると考えていますか?
鎌田:大きくは2つあって、分かりやすいとこで言うと一つはアートのように高額で取引される事例が増えていくこと。
もう一つは、たとえば昔だったら商談したときに最後、Facebookを交換しましょうみたいなことがあったと思うんですけど、それが一緒に写真を撮ってお互いに出品しましょうみたいな、プリクラの延長線上のようなカジュアルな世界。
僕はさっきも言ったように高額取引だけがNFTを拡大するために必要なことだとは思っていなくて、もう少しカジュアルな世界もあるんじゃないかと。
僕のスマホの中には何千枚と写真が入ってるんですが、古い写真はだんだん見なくなっていきます。でも、そんな古い写真もNFTを活用すれば作品にできちゃうんですよね。
最近だとBuzzFeedさんでも取り上げられていましたが、子供の描いたゾンビの絵が取引されるような事例も出てきています。
NFTにはもっとカジュアルな世界があってもいいと思うんですよね。それに僕、NFTは無形なモノを売り買いするだけじゃ終わらないと思っています。
<次回に続く>
HABET - プロフィール -
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次回の記事公開について表現を修正いたしました。