アーティストの草野絵美さんのnote「8歳の息子の自由研究NFTが1.2イーサリアム(52万円相当)で取引され完売になった話。」が話題を呼んでいます。
聞き慣れない単語ばかりですが、NFT(非代替性トークン)とは、ブロックチェーン上で発行・取引されるデジタルデータのこと。偽造ができない鑑定書や所有証明書の役割を持つため、デジタル作品に唯一無二の資産価値を持たせることができるとされています。
このNFTがイーサリアム(ETH)という仮想通貨で取引されており、noteの公開後も二次流通されたりETHの価格が変動したりして、9月7日現在では1枚の絵が最高4ETH(160万円相当)で二次流通もしたそうです。そのうち転売の手数料などが売り上げになります。
8歳が描いた絵が160万円で取引されるって一体どういうこと?
BuzzFeed Japanは9月7日、NFTアーティストのZombie Zoo Keeperさんと母親の絵美さんに、zoomでお話を聞きました。
「マインクラフト」が大好きな小学3年生
この日の夕方、学童保育から帰宅したばかりのZombie Zoo Keeperさんはちょっとお疲れ気味。さっそくiPadを取り出し、なにやらゲームをはじめています。
ーーこんにちは。いま何のゲームをしているんですか?
Keeper : 「マインクラフト」です。
ーー「マインクラフト」のどんなところが好きですか?
Keeper : ゾンビを倒すところ。40体も倒したんですよ。
ーーZombie Zoo Keeper(ゾンビ動物園の飼育員)なのに、ゾンビを倒しちゃうんですか? かわいそうじゃないんですか?
Keeper : ううん、かわいそうじゃない。ゾンビを40体も倒すのはハードだけど、楽しいよ。
Keeperさんが見せてくれたiPadの画面には、古代遺跡のような荘厳な砦が築かれた世界が広がっていました。
3歳からテレビなし生活
絵美さんによると、Keeperさんが赤ちゃんの頃から、プロテクターをつけてiPadを持たせていたそう。
「主に学習系のアプリを使っていて、YouTubeなど動画サイトにはあまりアクセスしていませんでしたね」
3歳の時、「観たい番組と時間が合わないし、広告が多いから」と自宅のテレビを撤去。Amazon PrimeやNetflix、NHK for school、NHKオンデマンド、民放公式テレビポータルTverなどを契約し、好きな時間にプロジェクターの大画面で試聴しているそうです。
ローマ字の代わりに音声入力
4歳の頃にKeeperさん専用のiPadを渡してからは、学習系アプリだけでなく、将棋、パズル、イラストのアプリを入れて楽しんだり、オンラインでマインクラフトの対戦をしたり、定点カメラを設置してdiscord上のコミュニティでポケモンの交換や対戦をしたりと、活用法は無限に広がっています。
コロナで一斉休校中だった小学2年生のとき、絵美さんのお古のMacBook AirがKeeperさんのファーストPCになりました。
学校でローマ字を習うのは小学3年生なので、タイピングを練習するまで文字入力はどうしていたのか尋ねたところ、主に音声入力を使っていたそうです。 わからないことあるとGoogle Nestに「OK, Google...」と話しかけるのも習慣になっているんだとか。
現在、小学校では分散登校とオンライン授業を並行しており、学校から貸与されたiPadで授業を受けることもあるそうです。
無料アプリで5分で制作
ーーところでKeeperさんは、なぜゾンビ動物のドット絵を描くことにしたんでしょうか?
Keeper : 動物を描いてみようかな、と思ったから。
Keeperさんの作品のモチーフは、大好きな「マインクラフト」に出てくるゾンビと動物をかけあわせたもの。
「NFTの取引が活発なアメリカでゾンビは人気だし、動物は世界中でわかりやすいだろうから」と、絵美さんとの作戦会議で決定したものの、動物だけでなく昆虫、クラゲ、恐竜など、キャラも画風も多種多様で、独特の感性が光っています。
制作は、無料のドット絵アプリ上で、指を使って描いていきます。もともとアイロンビーズが得意だったということもあり、作品は1〜5分で完成するそうです。
デザインのヒントは、身近なもの。父親が身につけていたメガネやヘッドホンが、デザインに反映されることもあります。
初めての売り上げでポケモンカード
ーー描いた絵が売れるといいな、と思っていましたか?
Keeper : 売れてほしいというか、ポケモンカードがほしかっただけ。
ーーあれ、お小遣いじゃ足りないんですか?
Keeper : 前は月300円もらってたけど、(お小遣い制度が)いつのまにかなくなっちゃって。絵が売れたとき、ポケモンカードが買えたからうれしかった。
ーー海外の人にも大人気で飛ぶように売れているから、好きなだけポケモンカードを買えそうですね。
Keeper : それよりは、みんなにお年玉をあげたい。今度は、お金をあげるほうになりたい。
ーーそれはお母さんもお父さんも弟も親戚も大喜びですね!
Keeper : あっ!大学に行くためにはどのくらいお金がいりますか? 垓(がい)まではわかるんだけど、兆くらいは必要?
(しばし絵美さんと相談して解決)
ーー今から大学に行きたいと思うくらい、Keeperさんは勉強が好きなんですか?
Keeper : 学校の先生になりたいから。優しいし、いろいろな教科を教えられるし。
「楽しんで売りたい」
ーー好きな教科はやっぱり図工ですか?
Keeper : 音楽、かな。工作は好きだけど、学校より家でやるほうが楽しいかも。夏休みの自由研究でつくったロボットは「プロみたいだね」って言われました。
ーーKeeperさんの作品を買って、自らのアイコン画像にしている海外のインフルエンサーもいるそうですね。
Keeper : アイコンにしてるのを見つけて、ヤバいなって思った。
ーーそれは、いい意味での「ヤバい」ですか?
Keeper : 大人が小学生の絵をアイコンにしてて、「僕、テントウムシです(I'm a ladybug)」って自己紹介してる人もいて、ヤバいなって(笑)
ーーそれはきっと、その人にとって価値ある作品だからですよ。最後に、今後はどのような作品づくりに取り組んでいきたいですか?
Keeper : 売れて楽しければいいです!
「金額以上の価値がある」
絵美さんによると、取引の経緯をnoteで発表後、偽アカウントが登場。作品を売ってみたいという問い合わせも相次いでいるそうです。
二次流通で価値が上がったり、転売のコミッション率を変更できたり、ETHの価値が変動したりするため、「本当の価値はまだわかっていません」と、絵美さんは冷静にみています。
「NFTをやってみて初めてわかったことも多く、まだ実感はありません。彼が発信するNFTを通して世界中のおもしろい人と交流できたので、金額以上の資産を得られたと思っています」
「息子がこれだけ頑張っているので、私も次の作品を出したいです」
3月に自身の作品をNFTで売った絵美さんは、次はAIのアルゴリズムによって生成されるジェネティブNFTにも挑戦してみたい、と意気込んでいます。