• factcheckjp badge
  • covid19jp badge
  • medicaljp badge

「ワクチンで死んでいる」は誤り。ワクチン接種後の死亡事例、因果関係をどう考える? 専門家に聞きました

「ワクチン接種後〇〇人が死亡」「99%が評価不能?」新型コロナワクチン接種後に死亡が報告された事例について、人々の不安を喚起する情報が度々発信されている。接種後死亡事例はどのように理解すべきなのだろうか。

「ワクチン接種後〇〇人が死亡」「99%が評価不能?」

新型コロナワクチン接種後に死亡が報告された事例について、人々の不安を喚起する情報が度々発信されている。

ワクチン接種後に死亡したことは、ワクチン接種が原因で死亡したことを意味しない。BuzzFeed Newsは疫学の専門家にこうした接種後死亡事例をどのように理解すべきか、話を聞いた。

接種後死亡事例、どう捉えるべき?

ワクチン接種後の死亡事例について、「総論としては亡くなった方の話だけをしても、ワクチンとの因果関係がわかることはない」と指摘するのは名古屋市立大学教授で疫学の専門家の鈴木貞夫さんだ。

「我々、科学の専門家にとっては、ワクチンを接種していない人における死亡率など接種済みの人々のデータと比較するための対照群を置いていない情報について、個別のエピソードをもとに因果関係を推察してはいけないということは当たり前のルールとなっています」

個別の死亡事例については、その人がワクチン接種をしなかった場合どうなっていたかを調査することは時間を巻き戻さない限り不可能だ。

そのため、ワクチン接種が原因で死亡している人がいるのかどうかを調べる場合、ワクチン接種をしていない人々のデータを比較しながら検討をすることが重要となる。

しかし、「一部のメディア関係者など、ワクチン接種の前後関係と因果関係を混同して理解しているケースが少なくない」と鈴木さんは指摘する。

「繰り返しますが、ワクチン接種と死亡事例に因果関係があると主張する場合には、ワクチンを接種していない人々のデータと比較しなければなりません。ある個別の具体的なエピソードをもとに因果関係を語ることは絶対にできません」

「ある一例について取り上げて、因果関係があると確認されていないにもかかわらず、まるでワクチン接種との因果関係があるような雰囲気を醸成することだけはやめていただきたいです」

「ワクチン接種が原因」と確認された死亡事例はゼロ

これまで国に報告されているのは、あくまで「副反応を疑う事例」であり、接種との因果関係が確認された事例ではない。

医薬品の使用後に起きた健康上好ましくない出来事は全て「有害事象」と呼ばれ、そのうちワクチンとの因果関係が確認されたものが「副反応」となる。

これまで新型コロナワクチンの「副反応」と認められているのは接種部位の痛みや発熱、稀なアナフィラキシー(強いアレルギー)反応や心筋炎だ。

日本の「副反応疑い報告制度」では、医師に対し、有害事象の報告を義務付けている。加えて、国は「先行接種者健康調査」「接種後健康状況調査」を、製薬会社は「製造販売後調査」を実施し、ワクチン接種後の様々な症状を把握する仕組みだ。

厚労省の副反応検討部会の専門家たちは、このような仕組みで集められた有害事象について評価を行い、接種との因果関係を判定する。

厚労省はこの「副反応疑い」の報告制度について、「ワクチンと関係があるか、偶発的なもの・他の原因によるものかが分からない事例も数多く報告されます。透明性の向上等のため、こうした事例も含め、報告のあった事例を公表しています」と説明している。

現在までに、ワクチン接種後に1233人が死亡したと確認されていることに時折注目が集まるが、こうした情報について検討する場合にはその母数に注意が必要だ。

日本国内においては、これまでに1億6000万回以上のワクチン接種が実施されてきた。1回目の接種を終えた人は9000万人を超え、7000万人以上がすでにワクチンを2回接種しているが、この間、ワクチン接種が原因で死亡したと厚労省の副反応検討部会で確認された事例はない。

そうした中で、時折報じられる「ワクチン接種後〇〇人死亡」のニュースが一人歩きし、不安を喚起する。

鈴木さんは「その報道に接した人々が何を思うのか、ということについて考えを巡らせてほしい」と強調する。

「新型コロナ報道については、日々の新規感染者数の報道も自宅で亡くなった人のうちコロナ陽性であった人の数についても共通して言えることですが、その数字はどのような前提に基づくものかを伝えないものが少なくありません。こうした報道がミスリードを招いているケースが見受けられる以上、これは人々の捉え方の問題ではなく報道のあり方の問題ではないでしょうか」

因果関係「評価不能」はどう理解すべき?

10月1日に開催された副反応検討部会では、2月17日から9月24日までに報告されていた1233人の死亡事例の大多数について、現時点では「情報不足等によりワクチンと症状名との因果関係が評価できない」と総括している。

なお、これまでにワクチンとの因果関係が否定できない(認められる)死亡事例はゼロ、ワクチンと死亡との因果関係が認められない死亡事例は7例だ。

「因果関係が評価できない」(評価不能)という判定は何を意味するのか。

「ここで言う因果関係というのは、疫学的な因果関係であり、数の問題です。対照群に比べ確実に数が多いとなれば、その薬は危険であるということになります。数を数えることでしか因果関係は測れない。人の体に害を及ぼすと言うのであれば、それは必ず数字に現れます」

「僕ら疫学の専門家は常に何と何を比べるのが妥当であるのかを考えています。こうした数の比較をせずに、因果関係について語ることはできません。疫学では因果関係の前提である関連があるかどうかを、まず検討します」

「関連というものは基本的には『ない』と仮定する。その前提の上でいま現実に起こっている出来事が起きる確率が何%であるかを検討します。それが5%を切れば、関連は『ある』と考えを変える。このような考え方を踏まえなければ、個々の事例についての判断はできません。比較に基づかない因果関係論は全て誤りです」

「ワクチン接種者と偽薬接種者の死亡率が同じ」→ミスリード

NEWSポストセブンは『ワクチン接種者と偽薬接種者の死亡率が同じ ファイザー公表データの意味』という記事で、「ワクチンを打っても打たなくても、死亡する確率はほとんど変わらなかった」「打っても打たなくても、亡くなる人の数(死亡率)が変わらないなら、接種する必要性が揺らぐ」と伝えている。

記事中では、新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が次のように主張した。

《ワクチン接種群の感染者が77人で15人が死亡、プラセボ群の感染者が850人で14人が死亡しました。ここからそれぞれの感染者の『死亡率』を計算すると,ワクチン接種群が19%でプラセボ群が1.6%です。つまり,ワクチンを接種した人がコロナに感染すると、死亡する確率が異常に高くなることがわかります。原因や理由はわかりませんが、データはそう示しています》

記事で言及されている論文はファイザー社が実施したランダム化比較試験に関するもの。

この研究では、約4万人を、ワクチンを接種する2万人とプラセボ(偽薬)を接種する2万人にランダムに振り分け、ワクチンの効果を検証している。

論文は、「6ヶ月の追跡の結果、ワクチンの有効性は徐々に低下しているものの、安全性と新型コロナ予防に関する強い効果が確認されている」と結論づけている。

しかし、NEWSポストセブンはワクチン接種群とプラセボ群の死者数に着目。ワクチン接種群の死者数は15人、プラセボ群の死者数は14人であったことを強調した。

なお、ここで報告されている死亡者の死因は新型コロナ感染に限定されていない。動脈硬化や敗血症など、様々な死因の死亡者が報告されている。

この結果については、どのように捉えるべきなのだろうか? 鈴木さんは次のように語った。

「この集団の中では、新型コロナの発症予防については接種から半年が経過したタイミングでも90%を超える有効率を維持していることがわかっています。ですが、死亡率に差は出ていません。その理由はこの臨床試験に参加した人々が比較的若く、75歳以上の人が全体の4%程度しかいなかったためでしょう。この試験に参加していたのは新型コロナに仮に感染したとしても、死亡リスクが比較的低い人々だったということです」

岡田氏の主張については、以下のように問題点を指摘している。

「岡田氏はワクチン接種済みの人が77人中15人死亡した割合とワクチンを接種していない人が850人中14人死亡した割合を計算して『死亡率』を算出したとしていますが、死亡した15人全員がコロナに感染したことが確認された77人から出たわけではないので、分子と分母が呼応しておらず、比較になりません。これは死亡率ではなく、意味のない数字です」

「これまでワクチン接種によって感染した場合の死亡リスクが高くなるといったことも報告されていません。よって、『ワクチンを接種した人がコロナに感染すると、死亡する確率が異常に高くなる』という岡田氏の主張は妥当とは言えません」

こうした指摘をどのように受け止めるのか。BuzzFeed Newsの取材に対し、岡田氏は次のように語った。

「『死亡した15人全員がコロナに感染したことが確認された77人から出たわけではない』とのご指摘については、文献を改めて点検したところ、感染していたかどうかについての記載はありませんでした。したがって、この指摘については認めます。ただし、接種群で感染者が少ない割に死亡数が同程度であったという点は重大です」

岡田氏は「医療行為の評価を行う際、原因の如何を問わず死亡した人の総数が重視されます」と主張する。その上で、「少なくとも、このワクチンでは、総死亡率を改善しないということになり、『重症化を防ぐ』という主張は根拠を欠く」とした。

なお、繰り返しになるがワクチン接種済みの人のうち死亡した人は15人。15人全員が新型コロナによって死亡した事実はなく、死因は多岐にわたっている。

新型コロナワクチンの有効性を評価する上で、新型コロナに関連しないと考えられる死因(動脈硬化や敗血症)による死亡を考慮することは適切ではない。

よって、この数字をもって「ワクチンが『重症化を防ぐ』という主張は根拠を欠く」と主張することは誤りだ。

鈴木さんも一連の岡田氏の反論に、次のように語った。

「ワクチン接種群とプラセボ群で死亡率に大きな違いが見られなかったのは、もともと若い人は新型コロナで死亡するリスクは低く、この研究に参加している人々が若かったためです。両群ともに高齢者は少なく、差が出るほどの人数が参加していなかったということです」

「もし『原因の如何を問わず死亡した人の総数が重視される』ということならば,死亡をエンドポイントとしない研究は無意味だということになってしまいます。この研究のもともとの意味は、通常の方法で見つかる新型コロナ感染症がワクチン接種群では圧倒的に少なかったということです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「ワクチンの効果を評価するのであれば、『発症』の予防効果を検証することが研究の目的にもっとも合致していますし、成績は予想以上のものでした。研究の第一義的な成果は、この『発症』予防に関するデータであり。それを無視して『死亡』で比べるというやり方を、この研究は想定していません」

「ワクチンで死んでいる」→誤り

ワクチンに関して様々な誤情報を拡散している漫画家・小林よしのり氏は、ワクチン接種後1週間以内に死亡が報告されている事例が多いことなどに言及し、「ワクチンで死んでいる」などと主張する。

しかし、鈴木さんは「ワクチン接種後1週間以内に死亡が報告されている事例が副反応疑い報告制度に多いのは、ある種のバイアスがあるためではないか」と指摘する。

「人は突然亡くなることがあります。その際、ワクチン接種の直後であれば因果関係を疑い、副反応ではないか? と考える人が多いことが予想されます。そのため、ワクチン接種から日が経てば経つほど、報告される死亡事例が少なくなっていくということが考えられます」

「そのため、副反応疑い報告制度に報告があった死亡事例はワクチン接種後1週間以内のものが多いから、彼らはワクチン接種によって亡くなったのだという結論を導き出すことはできません」

「そもそも、ワクチン接種によって死亡するといった問題が起きるとなると、ここまで多くの国で使用の承認は下りません。日本の半数以上の人々がすでに接種をしても、ワクチン接種と因果関係が確認されている死亡事例はない。まずは、この前提をしっかりと踏まえて、こうした事例について考える必要があるでしょう」

BuzzFeed Newsは小林氏に本件に関する見解を尋ねた。しかし、期日までに回答は得られなかった。