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オゾン発生器の学校設置問題、製造元は「空間除菌でオゾンが効くエビデンスはない」と回答。「人体に害なし」と語る根拠は?

富田林市に寄贈された製品を製造した株式会社タムラテコは取材に対し、「弊社の推奨する安全な使い方をしてくれれば、人体に害があるといったことは起きないと認識」と回答している。

新型コロナウイルス対策として効果が証明されていないオゾン発生器を、大阪府富田林市が販売元の企業から寄贈を受け、市内の全公立小中学校、幼稚園に設置していた問題。

寄贈された製品を製造した株式会社タムラテコは取材に対し、「弊社の推奨する安全な使い方をしてくれれば、人体に害があるといったことは起きないと認識」と回答。

その上で新型コロナウイルス感染症対策としての有効性については、「空間除菌という方法でオゾンが効くエビデンスはない」と認めている。

経緯を振り返る

販売元の企業・三友商事株式会社からオゾン発生器の寄贈を受けたのは大阪府富田林市。

寄贈されたのはオゾン発生器550台、空気清浄機型オゾン発生器58台、オゾン水生成器58台の合計666台だ。

同市は寄贈されたオゾン発生器を、新型コロナウイルス対策として効果が証明されていないにもかかわらず、市内の全公立小中学校・幼稚園に設置していた。

WHO(世界保健機関)厚生労働省文部科学省は消毒剤や、ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれがあったりする場所での空間噴霧を勧めていない。

オゾンについては、曝露した場合に気道の炎症を起こすリスクが高いという研究結果が海外の医学雑誌で提示されている。

しかし、市側はオゾン発生器の設置を、新型コロナウイルス感染症対策の事業と位置づけている。

学校医も務める富田林医師会は直ちに回収を求める要望書を市長宛に送ったが、市側は要望には応じず、今後も稼働する考えだ。

今回、富田林市にオゾン発生器を寄贈した三友商事の担当者は「今回の寄贈は新型コロナ対策では全くない」と主張する。

オゾンの有効性や安全性については、奈良県立医科大学藤田医科大学における実験データをもとにしていると説明しつつ、「これは製品の安全性や有効性を示すものではない」と強調。

「厚労省は空間除菌とうたわれているものを推奨していない、としています。ですが、『空間除菌をやってはいけない』という文言ではないですよね。最終的に使用する方法、工夫等に関してはお客さまのジャッジになる。ですが、安全性を担保できるような使用方法をお客様と考えさせていただいて、利用していただくことは可能だと考えています」

このように語っている。

製造元「人体に害があるといったことは起きないと認識」

三友商事株式会社は販売代理店となっており、今回寄贈されたオゾン発生器の製造を行っていない。

製造元は大阪府の株式会社タムラテコ。同社は「オゾンのテクノロジーをもっと多くの人にもっと便利にスタンダードに」というスローガンを掲げ、「オゾン装置専門メーカー」を名乗っている。

今回の富田林市への寄贈について、タムラテコはどのように受け止めているのか。

広報担当者は取材に対し、「弊社の推奨する安全な使い方をしてくれれば、人体に害があるといったことは起きないと認識している」と語る。

富田林医師会から回収を求められていることについては、「健康被害が起きたということではなく、起きるかもしれないという懸念。なので、代理店(三友商事)さんの方にこういう使い方をしている、こういう配慮をしているとしっかり説明していただきたい」と回答した。

富田林市は新型コロナ対策として、今回のオゾン発生器を設置している。

しかし、タムラテコの担当者は「弊社では、この製品を置くことで新型コロナウイルスに感染しませんよ、という言い方では絶対に売ってほしくないと指導している」と説明。次のように語った。

「導入に当たっては、新型コロナウイルスに対して効くということではありませんということを、教育委員会にも三友商事さんにちゃんと説明しに行ってもらっています。我々の方から、教育委員会さんに説明してくださいと言ってあります」

また、8月1日に薬機法(医薬品医療機器等法)が改正されて以降は、「自社の中でもカタログやホームページの見直しなどを行った」としている。

「ですから、売り方についても表現についても気をつけてくださいと。もしも、誤解を招いているようであれば、それは弊社からも指導というか注意をやっていきたいと思っています」

製造元が主張する「安全な使い方」とは?

タムラテコが推奨する「安全な使い方」とはどのようなものか。

担当者は高濃度オゾンを出すものは「人がいる環境では使ってはいけない」とした上で、低濃度オゾンを出すものは「日本産業衛生学会が設けた基準に基づき、通常使っている限りオゾンの濃度が0.1ppmを超えることはない」という。

「この基準を超えたオゾンを使ったからといって、ただちに健康に害があるかと言われると、ないと思う。しかし、基準がある限りは絶対に超えてはならないということで、何も知らずに使っても0.1ppmを超えないよう設計しています」

「製品によっては人感センサーが付いており、人が近づくとオゾンの発生が止まります。また、弊社の製品については製品から2m以内に監視モニターを設置することにしています。この距離でオゾン濃度が0.1ppmであれば、それ以上離れた場所がより高濃度になることはありません」

なお、同社はWHOや厚労省が「空間除菌」を推奨していないことについては認識していた。

しかし、「空間除菌を推奨しないとされている消毒剤に、オゾンが含まれているとは認識していません」と述べ、「オゾンは高濃度であると人体に影響が出る可能性はある。そのため0.1ppm以下にするという基準を守っている」と繰り返し強調した。

ここで言及されている日本産業衛生学会の基準とは、労働者が1日8時間・週に40時間勤務する作業環境において許容可能なオゾン濃度を0.1ppmと1963年に定めたもの。

法的な拘束力はないが、多くのオゾン発生器はこの基準をもとに自社製品の安全性をアピールしている。

海外ではより厳しい基準値を設定している事例もある。アメリカではFDAが室内環境における基準を設け、0.05ppmを超えるオゾンを発生させる製品は規制している状態だ。

一方、日本国内ではオゾン発生器は医薬機器には該当せず、雑貨に分類される。そのため、現行法では基準や規制は存在していない。

2021年8月に日本国内で新型コロナ対策としてオゾン発生器が不適切に使用されている可能性について指摘する論文を医学雑誌「Journal of Hospital Infection」に発表した下越病院(新潟県新潟市)薬剤課に勤務する三星知さんは過去の取材に、次のように語っている。

「オゾンについてはパルプ工場の従業員に関する研究が良く知られています。紙のパルプを製造する現場では、オゾンや塩素ガスが充満していることも少なくない。そのような環境では、気道の炎症を起こすリスクが高いことがわかっています」

「もしかすると、安心感を得るためにこうした『空間除菌』の製品を購入するケースもあるのかもしれません。ですが、それで得られるのは偽物の安心感です。基本的な感染対策が緩むことにもつながり、かえって感染拡大の防止には逆効果となる可能性もあります」

「空間除菌という方法でオゾンが効くエビデンスはない」

オゾン発生器の有効性についてはどうか。

タムラテコは「低濃度オゾンによる新型コロナウイルス不活化実験(藤田医科大学)」「オゾンガスによる新型コロナウイルス不活化実験(奈良県立医科大学)」という実験結果をホームページのトップに掲げている。

藤田医科大学の実験はアクリル製の容器の中に新型コロナウイルスを付着させたステンレスのプレートを入れた上で、オゾンガスを発生させるというもの。オゾン濃度は0.1ppmもしくは0.05ppmに設定されている。

この結果、湿度などの条件次第では0.1ppmのオゾンによって10時間後にはウイルスの感染性が4.6%まで減少すると結論づけている。

また、奈良県立医科大学の実験もアクリル製の容器の中に新型コロナウイルスを付着させたステンレスのプレートを入れ、オゾンを発生させている。

この実験では1ppmもしくは6ppmという非常に高濃度なオゾンを使用し、6ppmのオゾンでは55分で最大1万分の1まで不活化、1ppmのオゾンでは最大100分の1まで不活化することを確認したと報告している。

これらは生活空間とはかけ離れた条件で実験されており、この実験結果をもとに実際の生活空間での有効性を示すことはできない。

タムラテコの担当者は「研究機関や医大さんに実験結果を提示してもらう際には、最後に必ずこの一文を掲載してもらうようお願いしています。『実際の生活空間で効くことを保証するものではありません』という一文です」とコメント。

「付着したウイルスに対しては不活化できる、ということは実験環境においては確認されている。なので、例えば弊社の0.1ppmのオゾン濃度の製品を使用することで、机の上のいろいろなウイルスが不活化される効果は期待できる可能性はあると考えています。ですが、この実験は限られた空間で行われ、付着したウイルスに対しておこないます。空間浮遊のものではありません」

このように語った上で、「空間除菌という方法でオゾンが効くエビデンスはない」と認めた。

富田林市への寄贈を伝える記事、なぜ削除?

なお、タムラテコは10月8日にBuzzFeedが富田林市がオゾン発生器を小中学校、幼稚園に設置したことを報じた後にホームページから富田林市への寄贈を紹介するページを削除した。

《三友商事株式会社様(https://www.sanyu-syoji.co.jp/)のご提供により、大阪府富田林市内の市立幼稚園・小・中学校に

当社製オゾン機器が導入されることが決定し、6月30日に贈呈式が行われました。

自治体が管轄する全公立学校にオゾン発生器を配備するのは全国で初めてです》

当初は、このように富田林市への寄贈をPRしていた。その下には動画も掲載されていたが、この動画も現在は削除されている。

この件について質問すると、担当者は「深い意図はない」と回答した。

「私がほぼほぼ管理しているものですが、導入事例を掲載したり、引っ込めたりということはよくあります」

「ちょうど、先週薬機法の改正以降、少しでも誤解を生むような表現は徹底的に見直していこうと会議で話し合っていたんですよ。そういうことがたまたまあったので、引っ込めた。特に深い意図はありません」