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ホテルを出されて消えた87人。支援を打ち切った新宿区長が謝罪

新宿区はビジネスホテルに一時宿泊をしていた98人を利用期限前に退出させていた。新宿区長は謝罪文を掲載し、「6月1日以降、14日までで宿泊できなかった期間の宿泊料相当(1泊3500円)を支給させていただく」としている。

東京都新宿区は6月9日、新型コロナの影響によるネットカフェの一時閉鎖などで行き場を失い、東京都の事業でビジネスホテルに宿泊していた人々への対応に誤りがあり、不適切に退出させたとして、吉住健一区長名の文書をホームページに掲示し、謝罪した。

この問題では、新型コロナウイルス問題などで住まいを失った人々を支援する団体が8日、ビジネスホテルに一時宿泊をしていた98人を利用期限前に退出させたとして、新宿区に抗議していた。

抗議したのは「新型コロナ災害緊急アクション」。「反貧困ネットワーク」や住まいの貧困に取り組む「つくろい東京ファンド」などでつくる。

緊急アクションによると、新型コロナによるネットカフェの一時閉鎖などで住まいを失い、東京都の緊急一時宿泊事業で区内のビジネスホテルに宿泊していた人々に対し、新宿区が5月29日、「ホテル利用は5月31日まで(チェックアウトは6月1日)」と記した文書を配り、98人がホテルを出た。

しかし、文書が配られた段階で都の事業は期間を6月7日まで延長しており、「5月31日まで」とする文書の内容は都の方針と食い違う。また、98人のうち87人のその後の所在は分かっておらず、支援を続けることができないという。そのうえで、新宿区の対応は「意図的な虚偽の説明だ」としている。

一方、新宿区は「生活困窮者の方達に事前に相談に来ていただくために、6月1日付けでホテルから出す措置を行った」と理由を説明していた。

87人の所在が不明に

住まいを失った人への支援を行う「つくろい東京ファンド」代表の稲葉剛さんは一連の新宿区の対応を「不安定な低収入がゆえに、アパートを確保できなかった人々が、困窮してやっと役所につながって支援が始まったのに、これではあまりに無責任すぎる」と批判。

新型コロナ災害緊急アクションとして、以下の3点を新宿区に求めていた。

(1)区長としての公式見解を発表すること。利用者への謝罪、再発防止のための検証の実施すること。

(2)電話、メールなど連絡先がわかる利用者に対して、早急に所在確認を行い、ホテルの再利用含む居住先の緊急確保、今後に向けた生活相談、活用できる施策の提供案内などを早急に実施すること。

(3)東京都が定める新規利用者の締め切り日以降、利用者がホテル利用を希望する場合には新宿区が責任を持ってホテルを準備すること。

新宿区「出ていただくことは趣旨ではない」

なぜ、このような事態が起きたのか。

東京都庁は5月22日付で、宿泊期限を6月7日まで延長することを通知している。だが、この通知は「一律にどなたでも延長ということではなく、真に行き場所のない生活で困っている方に対し、住居確保に代えてビジネスホテルを提供を行うという通知だった」と、新宿区福祉部社会福祉協議会担当の関原陽子部長は語る。

そのうえで新宿区は通知をそう解釈したうえで、「一度この機会にぜひ、私共のところに相談にきていただきたいということを打ち出すために文書を配布した」と話す。ホテルを「出ていただくことは趣旨ではない」という。

「支援を必要とする方に事前に相談に来てもらうため」、6月1日付けでホテルから出す措置をとったいうのが新宿区の説明だ。

「6月1日のチェックアウトで出ていただかないと困ります」

福祉部生活福祉課の片岡丈人課長はこうした措置を行う上で、区の担当職員らに対し「6月1日のチェックアウトは元々の期限」であることを伝え、「その時点で次の住まいがないということであれば、1週間延長の要件に当てはまるので、1日以降についてもホテル利用ができる対応を行うように」と、説明していたと言う。

しかし支援団体側は、5月28日にはホテルに宿泊していた男性2人が福祉事務所の窓口で「新宿区では6月1日にチェックアウトして出ていただかないと困る」と説明を受け、生活保護の利用のみが選択肢として提示された、と指摘する。

2人はいずれも生活保護を受けることに抵抗感があり、支援を受けることを一度は断念した。このため漫画喫茶に寝泊りし、都内各所の炊き出しを回って1週間食いつないでいたという。現在は支援団体へとつながり、生活保護の利用などを含め、今後の支援を受けるための準備を進めているという。

新宿区側の説明は、支援団体側が指摘する窓口での対応の実態と食い違う。

東京都は一律での延長を提案

新宿区は一連の対応を検討する中で、東京都にも事前に相談した。

その際、都の担当者からは「一律での延長をしてはどうですか?」「全員使うことはできますよ」とアドバイスを受けていた、片桐課長は語る。

しかし、結果的に新宿区はホテルに宿泊可能な期間が延長されたことを伝えることなく、98人が6月1日の朝にホテルを出た。

「生活に困窮されている方、生活保護を考えている方などというところで、私ども、居所へのご不安などある場合にこのまま居場所を手当てできますよという旨をもう一言書き加えるべきだったと、対応について反省しているところです」

今回の抗議を受けて、関原部長はこのようにコメントした。

出されたSOS「なぜ手放した?」

6月1日の段階でホテルをチェックアウトした人の数は98人。そのうち、11人が新宿区の相談窓口を訪れ、4人が生活保護の利用を開始、7人が東京都事業で就労意欲のある人を対象とする「TOKYOチャレンジネット」経由での支援につながっている。

支援につながっていない87人については、6月8日から順次、その後の生活状況について把握するため新宿区が電話で連絡を取ろうとしている。

ただ、連絡先がわかっているのは87人のうち54人。33人は連絡先が分からず、このままでは支援を届けることはできない。

稲葉さんは、「新宿区以外の区はちゃんと延長している。なんでこんなことになったのか、そこには区の意思が介在しているとしか思えない」と、なぜ新宿区だけがこのような対応を取るに至ったのか、疑義を呈す。

路上生活をしている人であれば、夜回りや炊き出しなどの活動を通じて実際に会い、コミュニケーションをとることができる。

しかし、ネットカフェで生活している人には、これまでもなかなかアプローチがしづらく、今回のホテルへの一時宿泊は、ようやくつながった支援だったと指摘する。

「様々なご事情があって、行政にも民間支援団体にもSOSを出しづらい方々がいた。なかなかつながることができなかった。そんな方々が、緊急事態宣言の影響でネットカフェが休業になり、ギリギリになってSOSを出された。それだけ困っていらっしゃる」

「新宿区は今回、やっとの思いでSOSを出した困っている人の助けを求める手を、一旦握って振り払った。振り払われた人の絶望感を考えてみてください」

新宿区長が謝罪

新宿区の吉住区長は6月9日、新宿区のホームページに謝罪文を掲載。

「ご利用者の皆様に対して、寄り添った対応が出来ていなかったことを、率直にお詫び申し上げます」とした上で、「6月1日以降、14日までで宿泊できなかった期間の宿泊料相当(1泊3500円)を支給させていただく」と発表した。

抗議の翌日に謝罪文を掲載し、宿泊料相当額を支給する決定を下したことについて、福祉部生活福祉課の片岡課長は「申し入れと各社の報道を受けて、6月1日のチェックアウトから1週間が経過していることを踏まえ、迅速な対応が必要と判断した」と、9日のBuzzFeed Newsの取材に答えた。

今回の件について「窓口でどのような対応がなされていたのか含め、再発防止へ向けて検証が必要だと考えており、内部でその方向性を検討している段階です」とした。