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所持金はゼロ。炊き出しに並び、仕事を探す人も。住まいを失った人への東京都の支援に潜む課題

支援団体は住まいを失ってしまった人への支援を強化する緊急要望を実施。現在、支援を受けていても、現金給付がない、食事の提供がない、いつまでホテルに宿泊できるかわからないといった問題が生じている。

5月26日、一般社団法人つくろい東京ファンド、ビッグイシュー基金など5団体が東京都に対し、住まいを失ってしまった人への支援を強化するよう求める緊急要望を行った。

支援団体は現在の支援制度には現金給付がない、食事の提供がないといった問題点が存在することを指摘し、改善を求めている。

緊急時の支援、その後の見通しは不透明

現在、住まいを失った人への支援策は3つ存在している。

【1】TOKYOチャレンジネットによる支援
3ヶ月以内に自立し、就労できる見通しが立つ人のみを対象にした東京都独自の制度。

【2】生活困窮者自立支援制度による支援
生活保護の一歩手前で、生活が立ち行かなくなった人を支える国の制度。自立相談、家計相談、就労訓練等を行う。

【3】生活保護による支援

入り口は都の支援事業・TOKYOチャレンジネットと各区市の窓口の2つに分かれており、各区市の窓口につながった人たちの7割は生活困窮者自立支援制度を、3割が生活保護を利用している状態だ。

それぞれの支援策について、支援団体は改善を要望している。今回、5団体が要望したのは以下の5点だ。

(1)TOKYOチャレンジネット利用者への対応
・TOKYOチャレンジネットを利用してホテルに滞在している方への相談体制の強化
・既存の支援の利用要件の緩和
・就労のための現金給付
一時住宅への早期の移行
・雇用が回復するまでの一時住宅の利用期限の柔軟な延長。

(2)生活困窮者自立支援制度の利用者への対応
・生活困窮者自立支援制度を利用し、ホテルに滞在している方と同様の支援を各区市から行うこと。

(3)生活保護利用者への対応
・生活保護を利用してホテルに滞在している方について、ホテルから直接、アパート等への移行を実施するよう指導すること。
・TOKYOチャレンジネットや生活困窮者自立支援制度を利用している場合にも、要保護と思われる場合は生活保護利用を促し、同様の支援を受けられるよう徹底すること。
・そのために、都はあらゆる手段を講じて住居確保を図ること。

(4)支援の周知について
・支援の全体像をわかりやすく示すこと。
・SNSや動画やチラシなど多様な手段で積極的に広報し、より支援にアクセスしやすくなるよう周知を徹底し、相談体制を強化すること。

(5)今後の対応について
・今後、住まいを失う人に対応するために生活支援策を再構築すること。
・これまでの支援実績や統計データ等の根拠に基づき、今後の支援需要を推計した上で、包括的かつ量的に十分な支援システムの構築を図ること。

課題はどこに?

TOKYOチャレンジネット利用者、生活困窮者自立支援制度の利用者、生活保護の利用者それぞれが問題点を抱えている現状を、一般社団法人つくろい東京ファンドの代表で長年、住まいの貧困の問題に取り組んできた稲葉剛さんは以下のように指摘した。

「東京チャレンジネットから入った方は、まずは現金の給付がないことが一番の問題となっています。所持金が既になくなった方も多い。ホテルにいる間は住民票を持って来ることができないので、特別定額給付金を早くもらいたい、それを生活再建のために使いたい人が多いんですけれども、一時住宅に移らないと住民票を置くことはできず、特別定額給付金を受け取ることはできません。そのため、ホテルにいる間はお金がない方が多い状況です」

東京チャレンジネットを利用している人に対しては3食提供されているという。それでも、求職活動を行うためのお金がなくて困っているといった相談が寄せられているという。

「3つの制度を利用されている人の中で、一番困っているのは各区の困窮者支援からつながった方々ですね。この人たちについては、ほとんどの区市で食事も提供していません。本当にホテルでの宿泊だけ。チャレンジネットで入った人よりも困窮している状況です。住民票を置くこともできないので定額給付金も受付できません」

こうした人々は現在、各地域のホームレス支援団体の炊き出しに並んでいる状況だと稲葉さんは言う。

「また、いつまでホテルにいられるか、出口も示されていません。チャレンジネットの方々は一時住宅が用意されていますが、困窮者支援の窓口から入った人については何も示されていません」

上記のTOKYOチャレンジネット利用者、生活困窮者自立支援制度利用者に対し、必要な場合には支援団体が生活保護への切り替えを支援している。

「現在、生活保護を利用してビジネスホテルに入っている方は百数十人いらっしゃいます。この方達に対しては、生活保護から現金は支給されています。ホテルを出た後の生活のためにアパートを見つけるように言われている状態です。ですが、アパートを探そうにも、住民票がないとなかなか探せない。ホテルには住民票をおけないことがここでもネックになっています」

「携帯電話がない方も多いのですが、携帯電話がないと今は都内で物件を探すのはすごく難しい。保証会社の審査が通らないので、そこがネックで困っているという相談も個別で受けているところです」

現場では「仕事がほしい」という声が

池袋で路上生活者の支援を行うTENOHASIの清野賢司さんは、「チャレンジネットに行っている方に何が欲しいですか?と聞いたら、やっぱり仕事と答えます」と支援を行う中で耳にする声を紹介した。

「仕事があれば、3ヶ月も家賃無料ならばお金を貯めて余裕で自立できるんだけれども、仕事がなくなっていていて、現在では週1回くらいしかない。1回8000円。何の足しにもならなくて、都が仕事を出してくれないかという要望もあります」

清野さんはすぐに実現することは難しいかもしれないとの認識を示した上で、それでも「就労して自立しろと言っていて、就労したい人がいて、でも現実に仕事がないという状況を脱するには必要なことではないか」と語った。

東京都が過去に生活困窮者や路上生活者向けに仕事を提供した前例は存在する。

地域生活移行支援事業という2004年から2009年まで実施されていた東京都の事業では、民間の空室を東京都が借り上げ、月3000円で路上生活者や生活困窮者に提供。合わせて、入居者に対しては公園清掃の仕事も提供されていた。当時は1900人以上がこの制度を利用した。

そのため、仕事と住宅をセットで提供する取り組みは「都としても、やろうとすればできる」と稲葉さんは話す。

東京都の回答は?

東京都福祉保健局の担当者は「あくまで居宅移行が大前提ですが非常に多くの方が利用されているので、その後についても区と市と調整をしている」と話した上で、「調整が済み次第、改めてご説明させていただければ」と回答した。

生活困窮者自立支援制度を利用している人々についても、ホテルを出た後は家賃相当額の支援を受けることができる住宅確保給付金などを活用し、基本的に居宅移行を支援する方針を示した。

しかし、この点についても「一斉に移れるのかという問題はありますので、区と市と調整しているところ」としている。

住宅確保給付金を利用した場合、月々の家賃は支給されるが敷金・礼金などの初期費用は支給されない。また、支給額は地域ごとに上限が設定されており、東京23区で生活する単身世帯の場合、支給されるのは5万3700円だ。

支給額に上限があること、初期費用などは支給されないなど住宅確保給付金によってカバーできる範囲には限界があるため、生活困窮者に対してこの制度を使うことを促すことが適切であるか疑問は残る。

住まいを失った状態では、仕事を見つけることも困難となり、生活再建が難しくなる。緊急要望を行った5団体はTOKYOチャレンジネットを利用する人だけでなく生活困窮者支援制度を利用する人にも、一時住宅の提供を行うよう求めている。