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再選確実の小池知事、コロナで生活が苦しい人々への支援に関心なし? 2期目に突きつけられた課題

「人が輝いてこそ、東京が輝く」、6月12日の出馬表明会見で小池都知事は「人が輝く東京」を目指すと宣言。しかし、解雇が増え続ける中で、生活困窮者への支援には課題が多い。

東京都知事選の投開票が7月5日に行われ、現職の小池百合子氏の再選が確実となった。

いま社会の人々が一致する最大の課題は、新型コロナウイルス対策だ。

新型コロナは様々な形で都民の生活を直撃している。なかでも経済は大きな打撃を受け、非正規雇用の人々を中心に雇い止めなどが相次いでいる。

そして、コロナの影響で生活に困窮した人々を支援する団体からは、「小池都政は貧困対策に冷淡」との声も上がる。

小池都政の1期目を振り返り、2期目の課題を考える。

「働きたいけど、仕事がない」

厚生労働省は7月2日、新型コロナ関連の解雇、雇い止めが3万件を超えたと発表した。傷口は広がり続けている。

暮らしへのダメージを最も大きくを受けているのは、アルバイトや派遣など非正規雇用で働く人々やフリーランスの人々だ。

「5月末で勤務先を解雇されてしまった。この先、どうすればいいのか」
「ホテルのベッドメイキングのパートをしていたが、1月以降シフトが激減。コロナ前は月10万円ほどの収入だったが今はほとんどない」
「減収で住宅ローンが支払えない」

全国各地で6月6日、一斉に行われた電話による「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る何でも相談会」には、1217件の相談が寄せられた。4月にも同様の相談会を開いたが、寄せられる相談内容は、より一層深刻になったという。

BuzzFeed Newsは、新型コロナウイルスの影響で暮らしに困窮した人々を支援する現場を、継続的に取材してきた。炊き出しや生活相談に集まる人の中には、新型コロナの影響で仕事を失った非正規雇用の人々が少なくない。

ある男性は、これまで訳ありでも働ける職場で働いていたが、このタイミングで仕事を失い、同時に住まいも失った。

ある女性は、3年間働き続けてきたコールセンターの仕事を突然解雇された。家賃の支払いすらどうなるかわからないギリギリの生活が抜け出すために頼る最後の手段は、生活保護だった。

「働きたいけど、仕事がない」。口々にこう語る。

仕事を失い、住まいを失う。生活の基盤すら失った状態では、生活再建はより困難になる。

減らし続けた公営住宅。住まいの支援はより手薄に

日本では、西欧や北欧の国々に比べ、住まいの確保を公的に支える仕組みが弱い。欧州では5分の1近くが公営住宅となっている国もあるなか、東京都はこれまで公営住宅を減らす方向へと舵を切ってきた。

1999年に発足した石原都政以来、東京都では公営住宅が増設されていない。2016年には、東京都は国立競技場近くにあった「都営霞ヶ丘アパート」を取り壊し、五輪開催に向けた準備を進めた。

小池都政も、この方針を踏襲している。

小池氏が2016年に都知事となって以来、貧困状態にある人々や住まいを失った人々に対して行った政策で「特筆すべきものが何もない」と語るのは、稲葉剛さんだ。

一般社団法人「つくろい東京ファンド」の代表を務め、長年、生活困窮者や路上生活者の支援を続けている。新型コロナが感染拡大する中、独自に部屋を借り上げシェルターとして活用するなど、行政の支援からこぼれ落ちる人々のサポートを続けてきた。

東京都は2017年、東京都におけるネットカフェ生活者の調査を行い、約4000人がネットカフェで暮らし、そのうち半数が20代・30代という実態を浮き彫りにした。

しかし、この調査は「やりっぱなし」のまで終わった、と稲葉さんは苦言を呈す。

「通常、こういった調査結果は何らかの対策を行うことを前提としているものが多いのですが、この時は調査だけが行われ、その後の対策についてはそれまで存在していた制度が継続されただけ。新たな対策は何も行われていません」

「この当時から把握されていた問題が、新型コロナウイルスの感染拡大と同時に、改めて浮き彫りになっていると言えると思います」

十分に行われなかった住宅支援

小池都知事は4月6日の記者会見で、「今回ウイルスの影響で失業される方が多数出ておられる。住む場所も失ってしまう。そういった方々に一時住宅等を提供する」と宣言した。

そのうえで、失業などで住まいを失った人への支援に、12億円を計上したと表明した。

この時に東京都が行ったのは、ネットカフェの一時閉鎖などで住まいを失った人々が、ビジネスホテルの部屋に宿泊できるという施策だ。

この取り組みについて稲葉さんは「埼玉県、千葉県、神奈川県といった他県と比べ、個室のホテルの借り上げを行ったことは評価できると思います」と一定の評価をした。

しかし、「対策が場当たり的で、窓口も相当混乱した」と明かす。

主な問題点は、以下の3つだ。

(1)当初、東京都がホテルの部屋を提供する際には対象が都内に6ヶ月以上いた住居喪失者に限定された(その後、この条件は撤廃)
(2)都が行う支援の窓口と各区や市が行う支援の窓口に分離し、支援を受けた人にとってわかりづらい構造になった
(3)住宅支援への接続が十分に行われていない

稲葉さんは、特に3点目を問題視する。

3ヶ月以内に自立して就労できる見通しが立つ人のみを対象にした東京都独自の制度「TOKYOチャレンジネット」経由で支援を受ける人々には、原則3ヶ月の一時住宅の支援が確約されている。

一方で、生活保護の一歩手前で、生活が立ち行かなくなった人を支える国の制度「生活困窮者自立支援制度」の支援を各区市の窓口経由で受ける人々には、一時住宅の支援は行われていない。

生活困窮者を支援する団体はかねてより、住宅支援への接続を徹底するよう呼びかけている。5月26日には稲葉さんらも東京都に対し、緊急要望も行っている

しかし、そうした願いは聞き入れられず、営業を再開したネットカフェ暮らしに戻る人々も相次いでいる状態だ。

「私たちも、生活困窮者自立支援制度を使う人たちにも、しっかり『出口』を用意して欲しいと要望していた。しかし、結果的に何も行われなかったということになります」

貧困対策に「冷淡」

東京都新宿区では、コロナで行き場を失い都の施策でビジネスホテルに滞在していた98人が、利用期限前の6月1日に、区役所の意向でホテルを退出させられていたことが明らかになり、批判が殺到。新宿区の吉住健一区長は6月9日に謝罪した。

この件について稲葉さんは「これは新宿区の問題であると同時に、東京都の問題でもある」と指摘する。

「根本的な原因は東京都が、ビジネスホテルに滞在している方々の出口を用意しなかったことにあります。いつまでホテルに泊めておけばいいのか、先が見通せない中で、新宿区が強引な対応に出てしまったと考えています」

「最近では、都庁の真下で雨の日に行われていた炊き出しの現場に都の警備員が押しかけ、都庁下のスペースから追い出そうとしたといった出来事もありました。小池都知事は貧困対策について冷淡だという印象です。あまり関心を持っていないのではないでしょうか」

都の12億円は適正に使われたのか?

小池都知事が会見で大きく打ち出した、住まいを失った人々への12億円の支援策

実際にどれだけの資金が投下されたのか、なぜ積極的な広報が行われなかったのか。「検証を行う必要がある」と言う。「もっと積極的な広報が行われたら、もっと使える人がいたのでは」

続く影響、そして第2波にどう備えるか

東京都では、再び感染拡大の兆しが見えてきた。

「一度目の緊急事態宣言で、家計も事業も、既に蓄えは出し切ってしまった方も少なくない。次はもたないと言っている方は多い」と稲葉さんは危惧する。

様々な条件をつけ、対象を小分けにした上で行う支援ではこぼれ落ちる人々がいる。コロナ禍でも、「支援の入り口でふるいにかけられ、住宅支援を受けられない人が続出した」。

だからこそ「ハウジングファースト型の支援が必要だ」。

「災害時と同様に、住まいを失ってるということだけを持って、無条件に住宅を提供すべきです。その上で、就労支援なり、医療福祉支援をやっていくべきだと考えます」

「感染が拡大する度に、『Stay Home』と呼びかけるのなら、StayするHomeがない人々への支援は最優先で行われるべきではないでしょうか。同時に、住まいを失わないための取り組みも必要です。場合によっては国とも連携して、家賃補助なども検討すべきです」

東京では「安定した住居を手に入れるハードルが高い」

なぜ国だけでなく東京都にも、住まいを失った人々への支援を行う責任があると考えるのか。

そこには、東京特有の住宅事情がある。

稲葉さんが全国各地の支援団体と情報を交換する中で見えてきたのは、毎月の賃料が高く、初期費用の負担も大きいという東京の状況だ。

東京は他地域に比べ、安定した住居を手に入れるハードルが高い。だからこそ、「東京都がより積極的にこの課題解決に取り組むべきだ」と稲葉さんは主張する。

「路上生活者や生活困窮者を支援する中で、これまでも東京23区内での押しつけあいや、たらい回しを目にしてきました。こうした問題は、1990年代からずっと続いてきた。区や市のレベルに任せていると、結果的に多くの人が取りこぼされることになる。だからこそ、東京都がもっと前面に出て、支援をすべきだと思います」

セーフティーネットは誰のため?

新型コロナウイルスが突きつけたのは、社会経済活動が停止する大きな出来事が起きたとき、一人ひとりの暮らしを支える最後の砦である日本のセーフティーネットが、脆弱なものだったという現実だ。

「人が輝く東京、女性、お子さん、障害を持った方々。人が輝いてこその東京です。最大の資源は人。人を中心とした予算編成を行って、実行して参りました。人が輝いてこそ、東京が輝く」

6月12日、東京都庁で都知事選への出馬表明を行った小池都知事は「人が輝く東京」という言葉を繰り返し強調した。

「人が輝く東京」、そこには取りこぼされてしまっている人はいないだろうか。

ちょっとしたボタンのかけ違えで、生活が成り立たなくなるリスクは誰もが抱えているものだ。

社会福祉の充実は遠くの誰かのためだけの政策ではない。明日の自分たちを支えるための政策でもある。

本当の意味で「人が輝く東京」は実現するのか。そこに、様々な事情で生活に困窮する人々は含まれるのか。

小池都政のこれからの4年間に課せられた課題だ。


BuzzFeed Newsでは、小池都政の課題をシリーズで探ります。