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このままでは命を絶つしか… なぜ、風俗業は持続化給付金の対象外? 中小企業庁「過去の政策との整合性がとれない」

中小企業庁の持続化給付金の給付対象から、性風俗業の事業者が除外されている。中小企業庁はこれまでも性風俗業関連の事業者がこうした給付金の対象から外されてきたこととの「整合性がとれない」点を強調し、判断は変わらないとしている。


「ナイト産業を守る会」が、6月15日、性風俗業の事業者が持続化給付金の対象から外されていることについて抗議するため、中小企業庁に申し入れを行った。

「ナイト産業を守る会」は性風俗業や接待を伴う飲食業(キャバクラ / ホストクラブなど)の事業者などで構成される団体。2020年3月に、新型コロナウイルスの影響が続く中で「夜の街」と名指しされることに危機感を抱いた行政書士の佐藤真さんが立ち上げた。

今回の申し入れは佐藤さんと大阪府で無店舗型ヘルス(デリヘル)を経営する女性、群馬県でラブホテルを経営する市東剛さんの3名によるもの。この日、3名は書面で集めた416名の署名、オンラインの署名サイト「change.org」で集めた533名の声も合わせて提出している。

性産業に関わる事業者も経営が苦しい中で、持続化給付金の対象から外されることは「職業差別」であると訴え、そこで働く人を守るためには事業者を救済する必要があることを強調した。

性風俗業の店舗が風俗嬢を守っている実状

今回、申し入れを行った大阪府でデリヘルを営む女性は、依然として持続化給付金の給付対象から性風俗業の事業者が外されていることを問題視する。

女性が経営するデリヘルは4月、5月半ばまで休業。4月は売り上げが9割減った。5月の営業再開後も客足は例年と比べれば、まだまだ少ない。

「風俗嬢が働くには店が必要です。基本的には、お店があって、風俗嬢の安全が守られている」、女性は言う。

女性が経営する店舗では、過去にお店を介さず、直接利用者とやりとりをしてた風俗嬢がいたという。しかし、利用者はその後ストーカー行為を行うようになり、店側に店を介さずに客をとっていたことが判明した。

その風俗嬢はルール違反であるため、クビになった。

デリヘル経営者の女性は「ルール違反をしているという負い目があるため、人に相談できず抱え込んでしまう」傾向があると話す。また、「店を通さないということで、相手が足元を見る。それによってトラブルも起きやすくなる」。

彼女自身、以前は風俗嬢として性風俗業に従事していた。自身の経験をもとに、店舗に勤務することの重要性を語る。

接客時に危険があれば、店舗のスタッフは現場に駆けつける。ストーカー行為があれば対処し、ネットに個人情報や誹謗中傷が書かれた際にも対応を行う。

「店は、ルールを守らない客からキャストの安全を守る役割を担っています。店に在籍するキャストは、スタッフや他のキャストに困りごとを相談することで、孤立を避けることができている一面があることも事実です」

「正しく営業して、納税しているお店は今回のコロナの影響で、法律に則り納税などをしていないお店に比べて、経営的に厳しくなります」

「もちろん納税していないお店があることは問題ですが、きちんとしている私たちまで救われないとなると、悪質なお店だけが生き残ります。そのため、風俗嬢が結果的に危険な状況で働くことになりかねません」

「私たちに死ねと言っているのですか?」

群馬県内で市東さんが経営するラブホテルの売り上げは3月の段階で2割減少した。

「このままでは倒産する人、困窮する人が出てくる。自殺するしかない、もう死ぬしかないと考えてしまう人がたくさん出てきます。(支給対象から外すという決定の)後ろには、死ぬ人がいることを理解してください。そうした人の大変さを理解して欲しいです。私たちに死ねと言っているのですか?」

申し入れを受けた中小企業庁の担当者に市東さんは、こう訴える。

合わせて、風営法に該当する業種として届出をしているラブホテルは持続化給付金を受け取ることができないが、実態はラブホテルでありながら届出をしていないホテルが持続化給付金を受け取っている現状があると市東さんは説明。法律に則り経営し、納税している事業者が結果的に不利益を被る状況にあることを明かした。

性風俗業以外の業種であれば、資金繰りに困った際に金融機関から融資を受けるという選択肢も存在する。しかし、性風俗業は融資も対象外だ。

市東さんは正規の金融機関で融資を受けることができないために、闇金融など違法な手段でお金を借りる事業者が増えることを危惧している。

中小企業庁は過去の政策との整合性がとれないことを問題視

中小企業庁の担当者はこれまで、庁内でも持続化給付金を性風俗関連の事業者へと支給する是非を検討してきたと説明。

その結果、「相当、色々なご意見をいただき、調整がついていない」とした上で「もともと対象外であるということを変える判断には至っていない」「対象に入れるべきでないという意見もあり、折り合いがついていない」と説明した。

同時に担当者はこれまでも性風俗業関連の事業者がこうした給付金の対象から外されてきたこととの「整合性がとれない」という点を特に強調する。

申し入れに同席した立憲民主党の本多平直議員は、そうした前例がなぜ生まれたのか追及したものの、明確な答えは提示されなかった。

これまで性風俗関連の業種やそこで働く人々を給付の対象としてこなかった雇用調整助成金や子育て世代への支援金について、厚生労働省は今回、給付の対象とすることを決めている。

なぜ、中小企業庁は持続化給付金について、同じようにその給付対象を変えることができないのか?大阪府でデリヘルを経営する女性は疑問を呈す。

佐藤さんもそこで働く労働者を守る施策は充実していく一方で、事業者の負担が軽減されない現状を伝えた。

中小企業庁の担当者は「ご指摘は受け止めます」と回答。しかし、「現在の対象から外す判断は変わらない」との認識を示している。

「国の対応が曖昧だから…」

一連の中小企業庁の回答を受け取り、大阪府でデリヘルを経営する女性は「国の対応が曖昧だから、グレーなものが生まれる。全て国の責任です」と言葉を強める。

「これは命に関わることです。今回も、どのような方が性風俗業への持続化給付金の支給に反対し、どのような議論の結果で今回の決定がなされたのかも明かされませんでした」

安全に働ける環境、国も支援を

セックスワーカーの安全・健康のために活動する団体「SWASH」の代表・要友紀子さんは、これまで性産業は産業として見なされておらず、そこで働く人々も労働者と見なされていなかったことで、こうした問題が表面化したと指摘する。

その上で、「こうした問題は男女共同参画の課題ではなく、労働者の問題です。他の労働者と同じように、セックスワーカーたちも助けられるべきではないでしょうか」と問題提起した。

望まずに性産業で働く人の問題について注目が集まる一方で、「そこで働いている人が何に困り、どうして欲しいのかが見えなくなってしまっている」。そう、要さんは語る。

「性風俗店が存続することで、個人売春でサバイブしたり、立ちんぼや街娼として路上に立たずに済んでいる人も多くいます。セックスワーカーが客と安全に合法的に出会う場、機会がなくなるほど、違法なブローカーに頼らざるを得ない状況を作り出し、セックスワーカーの脆弱性は高まります」

「人身売買禁止法制定(刑法の人身売買罪新設)から15年、持続化給付金の不給付要件は時代に逆行するような流れと言わざるを得ません。犯罪に巻き込まれずに安全に合法的に働ける労働場所、性産業を国として支えていただきたいです」