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Go To トラベル、東京追加はまだ早い? 感染拡大すれば「信頼を失う」、新型コロナ分科会が提言した理由

政府が示した「Go To トラベル」キャンペーンへの東京追加、イベント開催規模の制限緩和、大都市の歓楽街における感染拡大防止対策等について議論を行った新型コロナウイルス対策専門家分科会。会見で尾身茂会長が繰り返し強調したこととは。

新型コロナウイルス対策専門家分科会は9月11日、第9回目の会合を開き、現在の感染者数の増加状況を確認した上で、政府が示した「Go To トラベル」キャンペーンへの東京追加、イベント開催規模の制限緩和、大都市の歓楽街における感染拡大防止対策等について議論を行った。

国民の注目が集まる中、会見で西村康稔・経済再生担当相は10月1日に「Go To トラベル」キャンペーンに東京を追加する方針を改めて明示した上で、9月後半の東京都の感染状況を注視して最終的判断を下すと説明した。

尾身茂分科会長は分科会で出た意見を紹介し、どのように「Go To トラベル」キャンペーンに東京を追加するということを判断すべきか、専門家の視点からコメントを加えた。

Go Toの東京追加、感染拡大すれば見直しも

西村大臣は冒頭、感染防止対策を徹底していくことを大前提としながら、イベントの制限を9月19日から緩和すること、「Go To トラベル」キャンペーンに東京を10月1日から追加する予定であることを発表した

なお、「Go To トラベル」キャンペーンへの東京追加をめぐっては、「9月後半の感染状況を見極めて、最終的に判断をしたい」とコメントしている。

また、イベントの制限緩和や「Go To トラベル」キャンペーンへの東京追加をした後に再び感染拡大の傾向が見られた場合には「事業のあり方を見直すこと含めて考えていく」とした。

イベント制限緩和に向けた提言、その中身は?

分科会としての現在の感染状況への評価は「未だ医療機関への負荷が続いている状況にあるが、全国的に見れば新規の新型コロナウイルスの感染者の報告数については減少傾向にある」というものだ。

尾身会長はその上で、イベント開催制限の緩和について「スポーツ・文化活動に関わる大規模イベントを開催したいという期待が高まっている」と語り、そうした場所で感染を拡大しないために、以下の4つの提言を行ったことを発表した。

(1)地域の感染の状況がステージ1またはステージ2相当と判断されれば、マスク着用などの感染防止策を徹底することを前提として、5000人という人数上限を解除することを検討していただきたい。また、歓声や声援などが想定されないクラシックコンサートなどについては収容率を100%以内とすることなども検討していだきたい。

(2)ある都道府県で感染の状況がステージ3以上と判断された場合には、イベントの人数制限をもとに戻すことやイベントを中止することを含め、慎重な対応をとっていただきたい。

(3)国民向けに、イベント参加の際に気を付ける点やイベントの前後にも感染リスクがあることについて周知をしていただきたい。

(4)感染防止と社会活動の両立に向けて、民間企業や自治体などとも連携し、大規模イベントに係る科学的知見や好事例の分析およびAI等技術を活用したシミュレーションなどを用いて、より有効な対策についてさらに検討していただきたい。

収容率を100%とすることが検討されているのは、大声での歓声や声援が出ないものだ。クラシックコンサートや演劇、歌舞伎などの伝統芸能や入学式や卒業式などが例示されている。

一方、ロックコンサート、サッカーや野球などのスポーツイベと、競馬や競輪、ライブハウスやナイトクラブでのイベントは大声での歓声や声援が想定されるとして、引き続き収容率の上限を50%とする方向で調整が続いている。

なお、各都道府県がどのステージにあるか、判断を行うのは各都道府県知事だ。

ステージは1から4まで4段階存在し、①病床の逼迫具合、②療養者数(自宅療養者 / 宿泊療養者 / 入院者の合計)、③PCR検査の陽性率、④感染者の新規報告数、⑤新規報告数の直近1週間と先週1週間の比較、⑥新規報告数のうち感染経路不明の割合という6つの指標を加味して判断される。

西村大臣は会見で、自身も毎日各都道府県の指標を確認し、それぞれどのステージにあるのか注視していることを強調。少しでも数字が上がっている都道府県に対しては個別に相談に対応していることなどを明かし、政府と都道府県が連携して対応にあたっているとした。

「Go To トラベル」、東京追加する上でのポイントは?

今回、最も注目を集めたトピックが「Go To トラベル」キャンペーンへの東京追加だ。

7月のキャンペーン開始当初、①東京の感染状況が他の都府県と比較して「別格」であること、②東京から全国に感染が広がったことが疫学調査でわかっていたこと、③東京へ向かう人の流れ、東京から他の場所へ向かう人の流れが圧倒的に多いことを理由に、東京のみキャンペーンの対象から除外された。

そのような中で、政府は10月1日に東京を対象に加える方針を示した。

今回の分科会では、専門家がこうした政府方針を受けて議論を行い、提言をまとめている。

尾身会長は「感染対策を社会全体が徹底すれば制限を徐々に緩めることは可能であると我々は考えています」との認識を示しつつ、「感染レベルが落ち着く前に社会経済活動を再開すると、人の移動が活発化し、(感染が)再燃する可能性が高くなる」と注意を促した。

そのため、社会経済活動を促進する際には、各都道府県の判断で感染レベルがステージ1またはステージ2相当まで下がっていることが求められると分科会は結論づけている。

また、今回の「Go To トラベル」キャンペーンが、行く場所や行く時期を分散させる「小規模分散型旅行」が定着する1つの契機になることを期待している点を強調した。

分科会から、政府への提言は以下の5点だ。

(1)「小規模分散型旅行」が普及するようなインセンティブをGO TOトラベル事業の中に組み込んでいただきたい。

(2)GO TOトラベル事業を開始する目安としては、当該都道府県の感染の状況が、ステージ1またはステージ2相当であることを基本としていただきたい。

(3)全国的にGO TOトラベル事業を実施したとしても、ある都道府県がステージ3相当と判断された場合には、当該事業に係る感染リスクを総合的に考慮して、当該都道府県を除外することも検討していただきたい。

(4)全国的にGO TOトラベル事業を開始する前に、既存のガイドラインをもとに、交通機関、宿泊、観光、飲食など旅程の場面ごとに、わかりやすいガイドラインを業界が中心になって作成していただきたい。

(5)人の移動に伴う感染拡大のリスクを最小限にするために、その感染拡大が具体的にどのような状況下で生じたかについて、詳細な分析を進めていただきたい。

分科会が前のめりな政府に呈した苦言

分科会は「Go To トラベル」開始の条件は感染状況が下火になっていることだと強調している。

西村大臣は東京の感染状況について、いくつかの指標はステージ2のステップにあるとした一方、いくつかの指標はステージ3のステップにあると各指標の現在の最新情報をもとに語り、「(東京の感染状況は)ステージ3にあるとは言えない」とコメントした。

「さらに言えば、減少傾向が明確になってきています。改善はしていっていますから、状況について説明申し上げ、10月のスタートについて(分科会に)基本的には了解いただきました」

「ただ、今後の状況次第、現在は実効再生産数が1を下回っていますが、1に近い。クラスターが出ればどんと増える。そうした状況を見極めて判断。このまま改善状況が続けば10月1日から開始をしていきたい」

※実効再生産数:1人が何人に感染させるかを示す指標

このように述べ、基本的には10月1日に東京を「Go To トラベル」キャンペーンに加える方針であることを繰り返し強調した。

「もうブレーキから足を外して、アクセルを踏む状況ではない」と現在の状況を慎重に表現しながらも今後は「ブレーキを踏んでいる足を慎重に上げていく」段階であるとしている。

尾身会長は会見で時間を割き、分科会でどのような議論を経て、今回の提言がまとめられたのかを詳しく語った。

ポイントとして提示されたのは、分科会の提言には詳細な日付が記載されていないということ、あくまで感染状況のステージについて言及したということだ。

東京は現在、感染者が減少傾向にあることは分科会としても認識を共有したとしながら、実効再生産数が1をギリギリ下回って状態が続いているため、「これからどうなるかわからない」ということが議論の争点となったことを明かした。

「感染は下火にはなっているけれども、本当に定着するところまではいってないのではないか」

感染状況は下火になっているものの「盤石ではない」というのが医療界から参加しているメンバーの意見だという。そのため、会見では現在は感染状況が下火になりつつあるものの、常に感染が再燃する可能性があることを強調した。

「今、Go TO キャンペーンから東京を外している中で、仮に、ステージ1とか2という条件を満たさないでやってしまって、感染が拡大してしまうということが起きた場合、せっかく始めたGo To トラベルというものが信頼を失うのではないかというのが今回、私たちの根拠です」

「せっかくこれだけ税金を使ってやる事業ですから、ある程度の基準があって説明ができないと一般市民が納得できないのではないか」との認識から、具体的なステージの記載がなされたという。

国が前のめりになって、東京を「Go Toトラベル」キャンペーンの対象に追加することについては「気持ち、考えはわかる」と理解を示しながら、「ステージ3にある時にやってしまえば、信頼を失う」と分科会が苦言を呈した形だ。

「もちろん国が、10月1日ですかね、そういうふうに準備することは当然でしょう。けれども、それを前提として決めて、何がなんでもやるんだということについて、私たち分科会は『待ってくださいよ』と。『(ステージが)1あるいは2になってからやった方がいい』と今日かなり強くお伝えしました」

歓楽街が感染対策の「急所」、安心な街づくりのために対策徹底へ

合わせて、今回、尾身会長からは「大都市の歓楽街における感染拡大防止対策ワーキンググループ」が設置されることが発表された。

ワーキンググループ座長の今村顕史医師は、分科会の構成員でもあり、都立駒込病院感染症センター長を務める感染症の専門家だ。

過去にはHIV感染者に「寄り添って、感染対策をするという経験を持っている」(尾身会長)。

そのような経験や、今回のコロナ対応でも最前線で治療にあたってきたことから座長に任命された形だ。

現在感染が少しずつ収まりつつある第2波も、新宿など東京の歓楽街から東京の他エリア、そして全国に感染が拡大したということが報告されている。

そのため、分科会は大都市の歓楽街を感染防止対策の「急所」とした上で、友好的な信頼関係を築きながら、感染防止対策を徹底していくことで、歓楽街で働く人々やその地域を守り、『安心な街づくり』につながる取り組みを模索していくとしている。

具体的には新型コロナに感染した疑いがある従業員や利用客がすぐに相談/検査できるセンター等を歓楽街に設けることなどが検討されている。