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期待が集まる新型コロナワクチン…でも、「理想的なものはない」。新型コロナ分科会、尾身会長が語ったこと

「今回のワクチンの安全性、有効性については科学的にはわからないことばかりと言ってもいいくらい不確実性がある一方、国民の期待は極めて大きいことから正確な情報を国民の皆様に伝えることが重要だと、かなり強調して伝えています」

新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会は8月21日、第6回目となる会合を開き、現在の感染状況の評価とワクチン接種に関する現段階での提言をまとめた。

現段階で専門家のコンセンサスが得られた点として政府に提言した内容を、尾身茂会長が会見で発表した。

「今回のワクチンの安全性、有効性については科学的にはわからないことばかりと言ってもいいくらい不確実性がある一方、国民の期待は極めて大きいことから正確な情報を国民の皆様に伝えることが重要だと、かなり強調して伝えています」

尾身会長は冒頭、こう語った。提言も、正確な情報を発信することの重要性を何度も強調している。

ワクチンの安全性への監視強化を

ワクチン接種実施の検討にあたって議論を前もって行うのは、「死亡者や重症者をできる限り抑制し、国民の生命及び健康を守るために、ワクチン接種の実施体制を整えていく必要がある」からだという。

安全性、有効性については「リスクとベネフィットの双方を考慮する必要がある」とし、「現在のところ、開発されるワクチンの安全性及び有効性については不明な点が多いが、継続的な情報収集を進める必要がある」とした。

現在、開発が進められているワクチンには、新たな技術を用いる種類のものがある。また、副反応(副作用)が発生することもありうる。そのため、「特に安全性の監視を強化して接種を進める必要がある」と提言した。

接種が開始されるのは、安全性及び有効性について薬事承認が行われた後だ。他の薬品と同様、このプロセスに変わりはないという。

性能評価に関しては第三者機関である「医薬品医療機器総合機構(PMDA)での検討、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会での議論をかなりディテール(詳細)に行っていただきたい」と尾身会長は要望した。

「その後、見解をお示しいただければと思います」と語った。

同時に尾身会長は懸念も示した。

「新規性の高いワクチンである場合、市販後に多数の人々への摂取が開始された後になって初めて明らかとなる安全面の課題も想定される」という。

こうした点や副反応については、情報収集ならびに適切な情報発信が必要であるという見解を示した。

ワクチン「理想的なものができる保証はない」

「一般的に呼吸器ウイルス感染症に対するワクチンで、感染予防効果を十分に有するものが実用化された例はなかった」

尾身会長は前提として、一般的な理解を伝えた上で、「重症化予防効果は期待されるが、発症予防効果や感染予防効果については今後の評価を待つ必要がある」と説明する。

「安全性及び有効性の両面で理想的なワクチンが開発される保証はありません。有効性、安全性の二軸で捉えると、様々なバリエーションがある。どこに落ち着くのか、それぞれのワクチンで様々であることが予想されますし、徐々にわかってくると思います」

「ワクチンによっては重症化予防の効果のみならず、発症予防効果を有することも当然ありうる。ありうるが、感染予防効果はない可能性もあり、理想的なものはないんだという現実を、早い段階で国民の皆様に周知する必要があります」

「安全性、有効性を踏まえ、どこまで使えるのか。どこまでなら使わないのかという許容範囲についての議論も、必要になってくると思います」

まずは高齢者、基礎疾患を持つ人、一部の医療従事者にワクチンを

「様々なメーカーが製造を進めていますが、単独では必要な供給量を確保できない可能性があります。安全性や有効性が異なる複数のワクチンが流通する可能性があり、対象者に分配しながら、接種を進めていく必要があります」

そのために今から議論を進める必要があるのが、接種の優先順位だ。

「国には、国民に必要なワクチン確保のために全力を挙げてもらいたい」と要望している。しかし現実的には、接種が必要な人、及び接種を希望する人に一気に接種することは、供給面からも不可能に近い。

こうした点を踏まえ、尾身会長は以下のように語った。

「これまで我々が感染拡大防止と重症化防止を目指してきたことを踏まえると、接種を優先すべき対象者は高齢者や基礎疾患を有する者の重症化を予防することを中心とし、さらに、それらのものに対し新型コロナウイルス感染症の診療を直接行う医療従事者を含めることを考えるべきです」

「なお、特定の医療従事者を優先する場合、新型コロナウイルス感染症の患者への直接の診療を行わないまでも、新型コロナ感染が疑われる患者を積極的に診療する医療従事者や救急隊委員、積極的疫学調査に携わる保健所の職員を含めることについても議論が必要です」

「高齢者及び基礎疾患がある人が集団で居住する施設で従事する人、妊婦を含めるかどうかについても、これからの検討課題です」

こうした優先順位を考える上で、高齢者や基礎疾患がある人以外にも、仕事上の感染リスクが非常に高く、感染した際に社会的影響が甚大な人がいることも考えられる。

だが、「新型インフルエンザ対策で想定したような国民のほとんどが短期間に感染し、欠勤者や死亡者が多発することは、今のところ想定されておりません」という。

こうした点を踏まえ、「特定の医療従事者、高齢者及び基礎疾患がある人へのワクチン接種を優先すべきであり、社会機能維持者に対する特定接種を行うことについては、現段階では優先的な課題とはならないのではないか」との認識を示した。

同時に、接種を拒否する権利も「十分の考慮する必要がある」とし、接種した場合に健康被害が生じた場合の救済措置についても「検討する必要がある」としている。

臨床試験を経て、正規ルートで承認を

現在、ロシアで新型コロナのワクチンが使用承認され、試験が始まるという報道が一部で出ている。

この点について尋ねられた尾身会長は「ロシアのワクチン行政について私共が多くの情報を持っているわけではない」と前置きした上で、「一般論として治療薬とは違う、何もなっていない人に投与するということですから、有効性や安全性が極めて大事」と強調した。

「ワクチン生産は国がパブリックの仕事として、国民の命を守るという側面だけでなく、リアリティでは経済競争という形で企業の論理も働いているんですよね。ただし、私共がこうして(分科会が示したような方針に基づき)考えていったらいいと思います」

国立感染症研究所の脇田隆字所長も、感染研が日頃行っているワクチンの品質管理の業務について言及した上で、以下のように語った。

「フェーズ1、2、3という臨床試験をしっかりやって、承認申請をして、感染研のようなラボがしっかりと品質を確かめる。国民、健康な方に接種をするのでダブルチェックをしっかりとするのが、非常に大事だと思います」

「透明性を持って伝えることが私共の仕事」

ワクチンに関して国民から寄せられた意見には、「長い間、国民に理解を求める努力をしてきたが、副反応への懸念が諸外国に比べて強く、ワクチンがなかなか普及しなかった歴史がある」というものも。

こうした声に、尾身会長は「副反応への反応が諸外国に比べて強く、ワクチンが浸透しなかったことは事実だと思います」とコメント。その上で、「国民が納得できるような十分な対話を行なっていくべきだと思います」と語った。

尾身会長はこうした対話の重要性を繰り返した。

「国民からのワクチン開発への期待は極めて高いと思われますが、開発が進むにつれて、特定の社名や製品が話題に上りやすくなり、様々な誤解を与える情報の発生につながりやすい」

「国民がワクチンに対して抱く懸念や誤解されやすい点を調査や対話を通じて理解し、リスクとベネフィットや供給体制の考え方をしっかり知ってもらう取り組みが必要です」

この対話を進めるため、分科会ではどのような取り組みを検討しているのか。

「新しい情報がわかれば、その都度、現状をしっかりと説明するのが我々の責任だと思うので、厚労省のアドバイザリーボードや分科会、あらゆる場所で情報が集まり次第、議論し、説明することが必要だと思います」

「必ずしも期待されていない事実が出てくるかもしれないですよね。そのことが分かった時点で、早く国民に知らせるかどうか。100%理想的でないものが出てきた時に、国民はがっかりしますよね。だからと言って、情報共有せず、後からわかるというのは私はすべきではないと思います」

「分かった時点で、それがリアリティですから、どこまで効いて、どこまで効かないのか、副作用はどこまであるのか、ないのか。透明性を持って伝えることが私共の仕事だと思いますし、国民の方もそれを期待しているのではないでしょうか。好ましい結果でないからと言って、情報共有しないという選択肢は私や分科会メンバーにはないのではないかと思います」

「分かった時点で、なるべく早く国民の皆様にお知らせします」