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感染者数など6つの指標は「あくまで目安」。なぜ、総合的判断が重要? 新型コロナ分科会、尾身会長が語ったこと

尾身会長は政府に提言する「現時点で早急に取り組むべき対策」に2つの点が加えられたことを発表したほか、「感染拡大状況を掴むための予兆」として具体的に6つの指標を提示した。

新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の第5回目の会合が8月7日、開かれた。

会見で尾身茂・分科会長は政府に提言する「現時点で早急に取り組むべき対策」に、「人権への配慮、社会課題への対応等」という項目と「制度的仕組みや効率的な財源の活用の検討」という項目を追加したことを発表した。

また、7月31日の会見で数日以内に検討を進めるとの方針を示していた「感染拡大状況を掴むための予兆」として具体的に6つの指標を提示した。

病床の逼迫具合や感染者の新規報告者数などを踏まえ、「総合的に判断する」ことを尾身会長は強調し、都市圏と地方部では重視すべき指標は異なるとしている。

早急に取り組むべき対策に加わった2つのポイント

尾身会長は現在の状況では、各地域における感染レベルを「できる限りのことをしていただいて、なるべく早期に減少へと転じさせることが大事」と語った。

そうした中で、これまで5つ提示していた「現時点で早急に取り組むべき対策」に、2つのポイントを追加することを発表した。

加えられたのは「人権への配慮、社会課題への対応等」と「制度的仕組みや効率的な財源の活用の検討」という項目だ。

「偏見とか差別ということが社会問題になっているので、これを大きな柱の1つに加えて、これから対策を打っていただきたいということであります」

「休業要請、するかしないか、色々な知事さんのもとに行われていますけれども、そういう中で、いろんな県での対策の実効性を上げるためには、どうしても国における制度的な仕組み、効率的な財源の活用を今まで以上に検討していただきたいという意見が出て、これもコンセンサスとして採択をしました」

ステージ4は緊急事態宣言を出す時期

「目標は迅速に対応し、感染レベルを早期に減少へ転じさせること。あるいは、これまでも言っている、死亡あるいは重症化を防ぐことが極めて重要になっています」

このように改めて目標を振り返った上で、変更点を発表している。

7月31日の会見では、感染漸増段階、感染拡大段階、感染爆発段階と名付けていたが、今後はステージ1、ステージ2、ステージ3、ステージ4と呼ぶ方針へと改めた。

現在の東京や大阪など感染拡大が進む地域は「漸増段階」にあると位置付けられており、ステージ2に当てはまる。

「その理由は、漸増期、急増期と言うと、一見わかりやすいんだけれども実は我々は感染者の数だけを考慮しているわけではなくて、医療体制とか検査体制という全体を考慮してるので、ちょっと単純化しすぎたのではないかという意見がございまして、ステージ1、2、3、4という言葉に変えさせていただきました」

「また、前は各ステージにいく前に予兆を示して、対策を打つということでステージと対策が一緒になっていなくて、ちょっとわかりにくいということで、今回は打つ対策とステージと指標はパッケージで一緒にするということん表現を変えました。しかし、考え方は全く一緒で、なるべく悪化する前に予兆を早く探知して、素早く行動、対策を打っていただくという意味では全く一緒で、ただ表現を少し、ステージと指標と対策を1つのパッケージにした」

その上で、「ステージ4のボタンを押すときは緊急事態宣言を出す時期ということが理論的に言えると思います」と尾身会長は語った。

指標に基づく機械的な判断ではなく…

「かなりここについては議論が出まして‥」と前置きをした上で、発表したのはステージの判断にあたって考慮した要素だ。

「指標について、今回こういう形で示したそのバックグラウンドをわかりやすく説明した方が良いということで、このページを設けました」

前提として、現在の状況と3月、4月の状況では「単なる感染者数では現在の感染状況を十分に評価できない状況」であると説明し、「感染者の累積とともに医療機関や保健所の負荷が高まってきており、その視点も重要になってきている」としている。

現在、各都道府県は異なる感染の状況にあるものの、「感染レベルを早期に減少に転じさせるべく、社会経済への影響に配慮しつつ、できる限りの取組を行っていただく状況にある」というのが分科会の見解だ。

「できる限り、今取り組める取り組みをやっていただきたい。これはメインメッセージです。ステージ3、4があるからそれまで待ってなんてことは絶対あり得ないので、今の段階でやっぱりやるべきことを十全にやっていただきたい」

そうした中で、様々な取り組みを行ったとしても、状況が悪化し、ステージ2からステージ3へ、ステージ3からステージ4へと移行する可能性もあるため、「最悪の事態を想定しながら、次の段階が起こりそうな兆しを早期に検知し、先手の対策を講じることが危機管理の要諦である」と語った。

こうした背景からステージの移行する指標を分科会は提示することとした。

しかし、この指標は「あくまで目安であり、一つひとつの指標をもって機械的に判断するのではない」と尾身会長は言う。

各ステージを判断する上で、都道府県はこうした目安をもとに「総合的に判断」する必要がある。

「機械的というのは色々な指標がありますよね。その中の1個でも指標が条件満たしたら次のステージへいくという考えではなく、国や都道府県はこれら複数の指標を総合的に判断して感染の状況に応じ、積極的かつ機動的に対策を講じていただければと思いました」

「都市部と地方部では医療提供体制はじめ様々な環境が異なるため、新規報告数が多い都市部においては医療提供体制に関する指標をより重視したいという傾向があるかもしれませんよね。一方、地方部においては感染の状況に関する指標、感染者がいくつかということを重視するなど地域の実情に応じて判断することが必要だと思います」

「みんな同じように一律にするのではなく、各地域の特性に合わせて知事たちにリーダーシップを発揮していただきたいと思います。また、医療提供体制が脆弱な地域もある。それらの地域では、これらの指標に満たない段階でも積極的に対策を講じる必要があるのではないかということも書かせていただきました」

「オールジャパンで、大きな方向で1つになることが重要」

分科会が提示した指標は以下の6点だ。

(1)病床の逼迫具合
ステージ3
病床全体:最大確保病床の占有率5分の1以上 / 現時点の確保病床の占有率4分の1以上
重症者用病床:最大確保病床の占有率5分の1以上 / 現時点の確保病床の占有率4分の1以上

ステージ4
病床全体:最大確保病床の占有率2分の1以上
重症者用病床:最大確保病床の占有率2分の1以上

(2)療養者数(自宅療養者 / 宿泊療養者 / 入院者の合計)
ステージ3:人口10万人あたりの全療養者数15人以上
ステージ4:人口10万人あたりの全療養者数25人以上

(3)PCR陽性率
ステージ3:10%
ステージ4:10%

(4)新規報告数
ステージ3:10万人あたり15人/1週間 以上
ステージ4:10万人あたり25人/1週間 以上

(5)直近1週間と先週1週間の比較
ステージ3:直近1週間が先週1週間より多い
ステージ4:直近1週間が先週1週間より多い

(6)感染経路不明割合
ステージ3:50%
ステージ4:50%

このタイミングで指標を定めた背景について、尾身会長は「だんだんと感染が全国に拡大している」との認識を示した上で、「一般の市民の間でこれからどうなるのかについての不安(がある)というのは当然のことですよね。心配があって、一体どういう状況になれば、何をすべきか。最悪の場合には何をすべきか、全体像をお示すすることが分科会の責務であると考えた」と語っている。

これまでにも、沖縄県や岐阜県などで県独自の緊急事態宣言が発出されている。

沖縄県については2つの指標がステージ3に、2つの指標がステージ4の段階となっていると、尾身会長は言う。

そうした中で、各都道府県が基準としている指標と分科会が示す指標が食い違うことにより混乱を懸念する声も記者からは上がった。

そうした懸念に対しては、「都道府県によって実情が違いますから、具体的レベルで全く同じ対策を行うことはできないですけれども、同じ方向を向いているとならないと国民はますます不安になるという思いがあった」「オールジャパンで、大きな方向で1つになることが重要」と回答した。

同時に、現場での対策を進めるためには各都道府県知事の役割と責任が大事であるとの見解を示し、沖縄県が独自に緊急事態宣言を出し、県民に協力を求めたことについては「尊重したい」とした。

合わせて尾身会長は「これからどうなるか不安に思っていますよね」と感染状況を注視する国民の気持ちへ理解を示した上で、「今の状況を正しく、みんなで理解して行動することが求められる」とコメント。

「そのためには、単なる(感染者の)数ではなくて、いわゆるリスクコミュニケーションということで、政府には国民に説得力のある状況分析とともに現場における対話の積み重ねやわかりやすい明確なメッセージを発信していただきたい」と要望している。

「ステージ4、我々はここまではいかない。悪くても3で止めたいと思っています」