• medicaljp badge
  • covid19jp badge

東京の感染状況評価、過去の発言への反省、休業の要請検討も… 感染拡大の中、新型コロナ分科会が提言したこと

「爆発的な、いわゆるオーバーシュートの軌道で感染者が爆発的に増加している状況ではない」というのが専門家の結論だ。感染拡大防止と社会経済の両立を前提としながら、感染を「十分制御可能なレベルに制御する」ことで「死亡者、重症者数を減らす」ことを改めて強調した。

新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の第3回目の会合が7月22日、開かれた。

分科会メンバーは現在の感染拡大状況に対する評価を行い、政府に対し現時点で早急に必要な対策を提言した。

また、西村康稔・経済再生担当相は当初8月に一部解除を予定していたイベントの開催規模については引き続き現在の収容人数の50%、上限5000人までとする方針を示した。

現段階では休業要請などを即時行うことはない。しかし、今後、現在の形での対策で感染者数が減少に転じない場合には、より厳しい対応を行う必要があるとしてる。

「少しずつ増加していると考えて、ほぼ間違いない」

分科会の尾身茂会長は「3時間ほどの分科会の中で最も多くの時間をかけたのが今の感染状況をどう評価するということでした」と語る。

今回、分科会では発症日別のデータを揃え、感染動態についての評価をまとめた。

現在、報道で大きく打ち出されている感染者数はあくまで報告日別の感染者数であり、事務作業の状況など様々な要因で上下する。正確な感染状況把握のために必要なデータは報告日別の感染者数ではなく、発症日別の感染者数だ。

「多くの皆さんが知りたいのは傾向がどうであるのかということ。ところが、報告日ベースのデータは処理の状況で左右される。発症日ベースで見ると、ずいぶんとイメージが違います」

会見で尾身会長は発症日別の感染者数のデータを分析し、年齢別に色を変えたグラフを提示。緊急事態宣言を出した4月当初は高齢者が占める割合が大きかった一方で、現在はまだ若い世代を中心に感染が拡大していることを説明した。

「(報告日別のデータでは)感染者数が今日は多かった、少なかったと見てしまう。私も一都民としては、少なければ安心します。(発症日別のデータに基づく)エピカーブは普通、小さなくぼみを作りいながら、上がっていく、もしくは下がっていく」

「この発症日別のデータをもとにいろんなことをこれからは議論していきたいと思います」

分科会では国立感染症研究所の疫学センター長である鈴木基さんがSRIモデルというモデルを用いて、今後の東京の感染拡大の傾向を予測した。

7月9日の段階で東京における実効再生産数(1人の人が何人に感染させるのかを示す指標)は1.17だ。今回、予測を行う上では「慎重を期して」、この実効再生産数を1.3と仮定した。

「これはあくまで推定ですが、このカーブが少しずつ上がっていくのではないか。今の東京の状況を我々分科会はどのように判断したか。東京都の場合は(感染者数のグラフが)下がっていることはまずないですね。平行に移動しているというよりは、少しずつ増加していると考えて、ほぼ間違いないのではないか」

その上で尾身会長は「神様ではないので、100%の正確さはない」と前置きしつつ、「爆発的な、いわゆるオーバーシュートの軌道で感染者が爆発的に増加している状況ではない」との専門家の結論を発表した。

「もう少し、言い方を気をつければよかったと反省しています」

現在の感染はどこから広がっているのか。

「いわゆる3密と言われる場所、家庭内感染、施設内感染が主であり、基本的感染対策が行われていれば近隣のスーパーでの買い物、公共交通機関で感染が拡大する状況ではない」

「クラスターにおける感染を分析すると、基本的感染対策を守っていないか、3密で大声を出すといった状況が見えてくる。劇場、ライブハウス、あるいは飲食店と場所は違いますが、ほとんどの場合は3密、大声を出すことが感染拡大の1つの大きな契機になっている」

尾身会長は専門家分科会による議論の末、確認されたのはこれまでもリスクとして認定されていた環境や行為であったことを強調した。

「感染者が若年層が中心であり、中高年層への拡大が懸念される。改めて、若年層に行動変容をお願いすることが必要」と分科会は指摘する。

この点について、「かなり議論しました」と尾身会長は言う。

振り返ったのは北海道で感染が拡大した中で、専門家らが発信したメッセージだ。そこには課題もあったことを認めた。

「都市部では若者だけで高齢者に接触する機会がなかった。たまたま北海道の中心部を離れていって、高齢者と接触して感染者広がったことが後からわかってきた。明日、私だって、皆さんだって感染するかもしれない。ただ、気がつかないうちに感染するかもしれないので、どうか気をつけてくださいとメッセージを出しました」

「しかし、若い人からしたら、なんだ自分たちに責任がくるのかと、多少、我々に対して不満があったと思う。もう少し、言い方を気をつければよかったと反省しています」

こうした反省点を踏まえ、今後は「上から目線ではない、そういう方法で政府として、メッセージを伝えてください」と要望するとしている。

分科会が政府に求めた迅速な対応、その中身

分科会はこうした現状を踏まえ、4つの提案を政府に対して行った。

以下がその対策だ。

(1)合理的な感染症対策のための迅速なリスク評価
(2)集団感染(クラスター)の早期封じ込め
(3)基本的な感染予防の徹底(3密回避等)
(4)保健所の業務支援と医療体制の強化

感染拡大防止と社会経済の両立を前提としながら、感染を「十分制御可能なレベルに制御する」ことで「死亡者、重症者数を減らす」ことが最大の目標だ。

「今、少しずつ感染が拡大しているというのが我々の評価ですから、これをなるべく早期に減少へと展示させること。それを目標にやってくださいというのが我々のメッセージです」

(1)個人・事業者:ともに協力し、感染拡大しにくい社会を作る
(2)社会:集団感染の早期封じ込め
(3)医療:重症化予防と重症者に対する適切な医療の提供

こうした基本的な戦略に基づき、政府には対策を講じることを分科会メンバーは求めている。

「具体的なアクションを現時点で、政府にはもう明日から、とにかく早急にやっていただきたい」

会見では以前から提唱されている3密対策などで対策は十分なのかという疑問の声も上がった。

尾身会長は「感染拡大防止ということだけを考えれば、前と同じようにかなり強力な、激しいステイホームや自粛を呼び掛ければ、間違いなく今の方法よりも短期間で感染が減少傾向になることは間違いない」と断言する。

しかし、現在、日本が目指しているのは感染拡大防止と社会経済活動の両立だ。

「緊急事態宣言があけて、ほっとした気持ちがありますよね。仕事はみんな大変だし、国民全員がストレスを感じている中で、ちょっといろんなことでお酒を飲みたい部分はありますよね。そういうところで、大声の問題だとか、3密の問題だとかが起きているので、まずは強力な対策をやる前に、はっきりわかってることをみんなで思い出して、特にそれ(3密回避など)をやる」

「それをやっても効果がない可能性には最初から備えて、上手くいかなかったら、次へ行く必要が出てくる。そのことをオープンに国民に知ってもらう。それは誰も嫌ですね。だから、一生懸命、感染リスク高いところを話しているんです」

営業時間の短縮、休業の要請についても言及

分科会の中で議論になった点はもう1つある。それが、感染対策の徹底されない店舗などへの積極的な介入を是とするかどうかだ。

尾身会長は現在は「事業主、自治体の人、国の人が集まって、上から目線ではなく、一緒になって感染に強い街、またみんなで楽しめる街にしていこうという動きがある」と説明。

その上で、こうした対策が上手くいかないケースへの対策を考えるべきとの認識を示す。

「これからも今までのように、一緒になってやるということは非常に重要だと思っています。分科会の人はみんなそう思っている」と強調しつつ、並行して、「場合によっては、積極的介入、例えば営業時間の短縮や休業の要請」についても政府で検討し、必要であればそうした対策を講じるよう求めた。

西村大臣はこの点について、「メリハリが大事」と強調する。協力的な店舗も多いことを繰り返し伝えながら、以下のように語った。

「協力関係の中で勧める対策をこうじてくれない事業者や講じていない事業者に対してはですね、メリハリ効かせながら遵守してくれるよう要請し、(利用者には)行かないように呼びかけをする。休業要請や営業時間短縮などをしてはどうかというご指摘もありましたので、早急に議論を進めていきたいと思います」

「さらに感染症法や建築物衛生法など、現行の法令の中で取れる対策がないか、急ぎ検討を進めているところです。特措法についても、解釈の通知を行いまして、24条9項でも個別店舗への要請ができると確認いたしましたので、活用によってさらにできることがないのか。現行法令の中で、急ぎ検討をしていきたいと思います」