• covid19jp badge
  • medicaljp badge

無症状者を徹底的に検査すべきか、議論を。 始動した新型コロナ分科会、尾身会長が検査について語ったこと

新型インフルエンザ等対策有識者会議の下に新設された「新型コロナウイルス感染症対策分科会」。そこではどのような議論がなされたのか。尾身茂会長の口から語られたのは、政府に提言した検査体制拡充のための戦略と今後とるべき対策の3つのポイントだ。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議に代わり、新たに設置された新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の第1回目の会合が7月6日開催された。

専門家会議は新型コロナウイルス感染症対策本部のもとに設置されていたが、政府はこれを廃止し、新型インフルエンザ等対策有識者会議の下に「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を7月3日に新設した。

これまでは感染症の専門家のみで構成されていたが、分科会には経済学者や自治体の首長など、幅広い分野の専門家が集う。

初めて開かれた分科会は当初の予定を大きく上回る形で長引いた。そこでは、一体どのようなことが議論されていたのだろうか。

会合後に開かれた会見で尾身茂会長の口から語られたのは、政府に提言した検査体制拡充のための戦略と今後とるべき対策の3つのポイントだ。

「4月上旬とは状況が異なるとの共通の認識を得た」

会見の冒頭、西村康稔経済再生担当大臣は首都圏で見える感染拡大の兆しについて、「医療提供体制、逼迫はしていない。検査体制は整備されてきた。こういった点を踏まえると、緊急事態宣言を発出いたしました4月上旬とは状況が異なるとの共通の認識を得た」と説明した。

その上で、今後の対策を取る上では、迅速に感染者に関するデータを共有する仕組みが必要であるとの認識を示した。

会議の中では、「日々、毎日、感染者数の数字だけは報道されることで、不安が広がっている側面がある」との指摘も上がったと言及。改めて、丁寧にコミュニケーションを重ねていくことの重要性を強調している。

「二次感染防止の観点から、積極的にPCR検査を受けてもらって増えている側面もある。特定のエリア、特定の業種などに集中していることを(国民と)丁寧にコミュニケーションすることが大事だとのご指摘をただきました。引き続き丁寧に進めていきたいと思っております」

政府は7月10日にイベントの開催制限について、もう一段階解除する方針だ。これにより、コンサートや展示会、プロスポーツの試合などの入場者の上限は施設の定員の50%の範囲内であれば、5000人まで認められることとなる。

この点について、西村大臣は「今後もガイドラインを踏まえて、感染防止策を徹底してもらうことを前提」としながら、制限解除することに変わりはないとした。

検査体制の議論、ネックは無症状者への検査

尾身会長は今回の会合では7月10日以降に予定している社会経済活動の緩和について、専門家として意見を述べると共に、分科会メンバーから政府に提案を行ったと語った。

その中でも特に強調されたのが、検査体制拡充を戦略的に進める必要性だ。

「検査体制についても、極めて高い関心がある。検査は国の方も拡充した方が良いと思い、様々な努力をしていただいた。もう少し拡大して欲しい。ここは、多くの方の関心だと思います」

「実は検査拡充をするため、一体どういう風な戦略を取るのか、今まで十分に議論されていなかった」と尾身会長は振り返り、「経済との両立が求められており、感染リスクをどこまで許容できて、どこまで防ぎたいのか、コンセンサスが必要」との認識を示している。

その上で、感染リスクを評価すると同時に、検査を受ける段階で予想される陽性率(事前確率)を踏まえて、検査体制を考えていくことが「感染症対策の王道」と説明し、3つのカテゴリーに分けて必要な検査の戦略を示した。

(1)有症状者

(2)無症状者+事前確率が高い

(3)無症状者+事前確率が低い

受診の目安も改善され、医療現場ではPCR検査と精度の面ではほぼ変わりのない抗原検査や唾液を用いたPCR検査が導入されている。そうした、検査体制の整備が進む中で、新型コロナと思われる症状を有している患者には、医師が必要と判断した場合には今後も検査を行う方針に変わりはない。

また、無症状者でありながら、事前確率が高い人々にも「PCR検査を徹底的に行う」ことが重要だ。

このカテゴリーには感染が1例でも出た病院あるいは高齢者施設の濃厚接触者、夜の街クラスターの関係者といった人々が当てはまる。

その上で、議論をする必要がある対象として提示されたのが、無症状者かつ事前確率の低い患者に対して検査を行うべきかどうかという点だ。

一部では、無症状者に対しても検査を徹底的に行うべきとの意見も上がっている。尾身会長は「このカテゴリーに対する検査のあるべき姿についても、一定のコンセンサスを構築する時期にきたのではないか」と語った。

もしもリスク低い人々に検査をしたら、どうなる?

なぜ、このカテゴリーに対して検査を行うことが合理的でないのか。ポイントは検査による偽陽性・偽陰性が出る確率にある。

偽陽性とは、陽性でない人を誤って陽性と判定すること。偽陰性とは、陰性でない人を陰性と判定することだ。

PCR検査の感度(陽性を正しく陽性と判断する割合)は70%、特異度(陰性を正しく陰性と判断する割合)は99%とされている。単純計算で100人の検査を行った際には、30人の陽性者を見落とす可能性がある。

「リスクが低いところで、ほとんど感染者のいないポピュレーション(集団)を対象にやると、どんどんと偽陽性が増え、偽陰性が減っていく。これは感染症対策の常識なんです」

仮に1%の人が感染していると思われる1万人に対して検査を行った場合、99人が偽陽性と判定される。この99人は実際には陽性ではないにも関わらず、隔離措置をとられることになる。

また、30人は感染をしているが陰性と判定される可能性がある。この30人は安心して、知らず知らずのうちに感染を拡大する可能性がある。

こうした問題が生じることを理解してもなお、無症状かつ事前確率の低い人々にも検査を徹底的に行うべきなのか。議論を行う上での土台となる、検査の基本的な考え方を尾身会長は改めて提示した。

感染拡大の地域での調査、個人情報を守って

検査体制の戦略の必要性を改めて訴えたと同時に、尾身会長が示したのは東京を中心とした感染拡大に対して取るべき対策だ。

そのポイントは3つある。

(1)感染拡大の核になっている場所、人に対する重点的な対応

(2)保健所機能の強化

(3)疫学情報の迅速な集計と自治体間の共有

感染拡大の核になっている場所や人に対する重点的な対応を行う上では、①個人情報、②健康、③生活を守ることが必須であると尾身会長は断言。

新宿区ではこの3つを守りながら、感染者が相次いでいるエリアで事業者、従業員と相談をしながら感染対策に取り組んでいると明かし、そうした取り組みを他地域でも展開するよう求めた。

また、(1)クラスターを特定し、濃厚接触者の調査等を行うサーベイランスと、その情報に基づくリスクの分析について、そして(2)感染者に対する偏見・差別とプライバシーについてはワーキンググループを作り、別途検討すべきとしている。