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「日本から出て行け」新型コロナ感染者に差別や暴言 専門家「事件・事故のような報道やめて」

暴言、嫌がらせ、いじめや登園拒否…新型コロナに関しては差別や偏見も問題に。専門家は「事件とか事故のような報道のスタイルは避けて」と要望した。

11月12日に第15回目の新型コロナウイルス感染症対策分科会が開催された。

会見で西村康稔・新型コロナ担当相や尾身茂会長は現在の感染拡大は3月〜5月、7月〜8月の波と同レベルのものであると危機感を示し、対策を強化することの重要性を訴えた。

感染拡大の波は「最高水準」

冒頭、西村大臣は改めて会食や職場で感染が拡大していることを強調し、会食の場で会話をする際にはマスクやフェイスシールドを着用することの検討や職場での休憩室や更衣室、喫煙室などでの感染拡大への注意を求めた。

また、イベント開催規模については引き続き声を出さないものは収容率の100%、声を出すものについては収容率の50%以内とする制限を行うことを決めた。

メディアからは現在の感染拡大は第3波なのかを問う声も上がった。こうした質問に西村大臣は「公式見解を決めているわけではない。一定のルールを設けているわけではない」とした上で、「明らかなことは3月、4月、5月あるいは7月、8月のような大きな波になりつつあるということ」と説明。

「もはや最高水準に1日の数日を見ればきておりますので、そういった状況にあることは強い危機感を持って対応しなければいけないと考えている」と述べるにとどめ、明言を避けた。

「第何波と呼ぶか、あまり定義を気にしてどうこうではなく。これ以上大きな流行にしないために力合わせてやっていければ」

感染拡大が続く中で、Go Toキャンペーンを継続していることに疑問の声も上がる。こうした声を受け、尾身会長は「私はGo Toキャンペーンは一部だと思います」と断言。

「(Go Toキャンペーンは)感染を広げた一助にはなっているけど、経済活動が活発になっている。その(経済活動の)一部がGo Toキャンペーン。それを止めるのは他の経済活動も止める時期だと、それは当然の帰結」

このように感染拡大が加速すればGo Toキャンペーンのみならず、社会経済活動全般に制限が必要との見解を示した。

暴言、嫌がらせ、いじめや登園拒否も…

今回の分科会後の会見には「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」の中山ひとみ座長、武藤香織副座長も参加。これまでの議論の取りまとめを発表した。

なお、このワーキングループで取りまとめられた提言は政府の基本的対処方針に反映される。

9月以降、同ワーキンググループは4回の会合を実施。様々なヒアリングや調査を通じて、新型コロナウイルスに関する差別や偏見の実態が明らかとなった。

中山座長は「違法行為と言えるような悪質なものもあれば、感染を恐れる不安な気持ちが高じて会社に来ないで欲しいという命令を出してしまったという例もありました」と指摘した。

特に構成員たちが危機感を持ったのは医療機関や介護施設で働く職員とその家族への偏見や差別の問題だ。職員への暴言や嫌がらせ、子どもたちへのいじめや登園拒否などが確認されているという。

他にも新型コロナ感染を理由とする雇い止めや出勤停止、インターネット上での個人情報や行動履歴の暴露なども確認されている。

新型コロナの国内最初の死亡者が入院していた相模原中央病院では誹謗中傷だけでなく、実際にオムツが配送業者によって置き去りにされたり、クリーニング業者にも立ち入りを拒否されて病院職員が搬入から搬出まで代行せざるを得なかった等の風評被害が発生していたことが報告されている。

また、108名の感染を確認した島根県の立正大医学淞南高校には電話で「日本から出て行け、お前たちは日本人じゃない。殺人者を100人も作って」や「私の家族は買い物も我慢している。しょうもない学校」、「何やってんだ、テレビで学校が悪いと言っているぞ、ドンドン拡散してバカ!」といった誹謗中傷が寄せられていたことも明らかとなっている。

こうした実態を踏まえ、情報公表のあり方にも問題があるとワーキンググループは総括しており、「新型コロナウイルス感染症の特性を踏まえた情報公表に関する統一的な考え方の整理」が必要であるとまとめている。

「情報の公表については、蔓延防止に資する情報に限って公表すること。新型コロナに即した国としての情報公表のあり方を検討してほしい」

偏見や差別が行われることは受診やクラスター対策への協力を妨げ、感染を拡大させることにもつながるとし、中山座長はこのように訴えた。

事件や事故のような報道スタイルは避けて

こうした偏見や差別の背景には「個人に関連する情報を含む詳細な報道」による問題があるとワーキンググループは分析しており、中山座長は報道陣を前に「これまでの報道をめぐっては、自律的に不断に検証を」と訴えた。

「感染当初の時期はやはりウイルスについてわからないことも多かった中で、非常にセンセーショナルな報道も多かった」

中山座長はこのように問題を指摘した上で、「こういうような感染症が起きた当初、わからない時期の報道は(メディア側も)はじめて経験すること。そういう中でどういうものが求められるか、一緒に考えたりすることが必要になる」と語った。

武藤副座長は「今しか、当初の1月、2月の報道を振り返る機会はないのではないか」と問題提起。

「その時点での確からしい知識が変わってくる中でやりにくかったのではないか」とメディアの論理にも理解を示しつつ、「事件とか事故のような報道のスタイルは避けていただけたら」と要望した。

今回の取りまとめではメディアに対し、「ウイルスの特性に適した問題設定を持った報道、知る権利への奉仕と感染者の個人情報保護のジレンマに正面から向き合った報道、誤った風説に対するファクトチェックなどの役割に期待する」とまとめられている。

外国人コミュニティへの差別の懸念も

新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会はこれまで、一部の外国人コミュニティで発生したクラスターが探知しにくいことを公表している。

そこには言語の壁や医療機関へのアクセスの問題もあり、クラスター対策が一層難しいものとなる現状がある。

武藤副座長は日本人の間ではすっかり定着した「3密」の考え方すら、まだまだ一部の外国人コミュニティでは知られていない可能性にも言及し、外国人に関する偏見や差別の問題も大きな問題になりうると話す。

「実践されていない外国人を見かけた時に、それでも優しく接することができるのか。外国人の方を支え、医療やその他の支援を受けにくい状況にあると理解した上で乗り越えるためのことをやっていかなければなりません」

また、尾身会長は一部の外国人コミュニティのクラスターが抱える課題を広く周知することについて、専門家の中では色々な議論があったとし、「出し方によっては外国人のコミュニティについて差別の問題が起きてしまう」という懸念があったと明かした。

尾身会長は改めて外国人を差別するのではなく支援する方向で力を合わせる必要があることを強調し、今後も必要に応じて偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループと政府が連携する方針を示した。