• covid19jp badge
  • medicaljp badge

外国人のクラスター、なぜ対策が取りづらい? 無症状者へのPCR検査は必要? 分科会で議論された3つのポイント

第13回目の会合を開いた新型コロナ分科会。歓楽街での対策、無症状者へのPCR検査などについて議論が行われた。

新型コロナウイルス対策専門家分科会は10月29日の第13回会合で「大都市の歓楽街における感染拡大防止対策ワーキンググループ」が取りまとめた対策を共有し、メリハリのある感染対策の重要性を確認した。

新型コロナの疑いのある人が気軽に相談、検査できる体制を整える重要性を専門家らは訴え、政府に必要な支援を提言している。

閉じにくいクラスター、その特徴は?

会見の冒頭、尾身茂分科会会長は現在、「一部の地域で感染が増えている」ことに触れ、「少し心配な状況が出ている」と現状への見解を述べた。

クラスター対策が引き続き感染を抑える上で重要な役割を果たしている。対策が遅れる場合があるが「クラスターはいち早く閉じることが極めて重要」と尾身会長は指摘する。

そのような中、専門家から例示されたのは閉じにくいクラスターの特徴だ。

(1)濃厚接触者の確認ができない(歓楽街等での発生)
(2)クラスター対応の経験がない一部の病院や福祉施設での初動の遅れ
(3)探知が難しいクラスター感染の発生(若者や一部の外国人コミュニティ等)

「報道することで差別にならないように」と前置きし、一部の外国人コミュニティでクラスター探知が難しくなっていることを「外国人が多く来て、感染を広げていると書かないように」と釘を刺しながら、「実は外国人の人たちの家、集団で生活しているところ含めてクラスターが色々な県で起きている」と尾身会長は明かした。

このような実態を踏まえ、分科会は以下の5点を政府に提言している。

(1)大都市の歓楽街における感染拡大防止対策ワーキンググループの報告に基づく対応の推進(気軽に検査等について相談できる環境づくり等)
(2)モニタリング体制の更なる強化
(3)今までに情報が届かなかった人へ情報提供
(4)保健所・医療機関への支援
(5)地方自治体との連携によるクラスター対策のベストプラクティスの収集・共有

尾身会長は外国人のクラスターに関しては、その前提に「言葉の問題や医療へのアクセスの問題もある」と語り、情報提供体制を充実させる必要性を強調する。

「何か問題があっても、どこへ問い合わせたら良いかわからないということがありますよね。色々な感染の情報、例えばこの前提案した5つの感染リスクの大きくなる場面などについて、日本語を解する人だけでなく、ぜひ(外国人にも)伝えてほしいということを政府に強くお願いをしました」

感染拡大の急所、信頼関係構築して対策を

今回、会見の中で時間を割いて発表されたのは分科会のワーキンググループで取りまとめられた歓楽街における感染対策の方針だ。

「大都市の歓楽街で感染拡大が把握された後、それをきっかけとして感染が色々なところへ広がっていくことがわかっています」

専門家分科会の構成員でこのワーキンググループの座長を務めた今村顕史医師はこう語り、歓楽街における感染対策を充実させることの重要性を示す。

歓楽街から職場や家庭へ、そして中高年へと感染が世代を超えて広がることも確認されている。年齢層が上がれば、重症化する人の数も増加する。また、大都市の歓楽街から地方の歓楽街へ、そして地方部へと感染は伝播する。

大都市の歓楽街はまさに感染対策の「急所」だ。

対策を行う上では方向性を定め、国や地方自治体が同じ方向性、同じ視野を持ちながら現場で対策に当たることが重要と今村医師は言う。

【各地域、各取り組みに共通する「5つの視点」】

(1)事業者、従業員そして支援団体など現場と対話する時間を惜しまないこと
(2)信頼関係を構築しながらきめ細やかな予防策の行き届いた安心できる街を目指すこと
(3)差別や偏見にも十分な配慮を行いながら、慎重に対策を進めること
(4)早期に感染拡大の予兆を検知し、早期に対策を講じること
(5)以上の取り組みに重要な役割を果たす保健所に対して十分な支援を行うこと

ワーキンググループはこれら5つの視点が重要であると提示した。その上で、通常時、早期介入時それぞれの場面でどのような対応を行うべきかが示されている。

「色々なチャンネルを通して、関係性を蓄積しておくことはいざというときに役に立ちます」

感染がどこでどのように広がっているのか、的確に把握する上では日頃から信頼関係を事業者らと構築している必要がある。

歓楽街の場合、人の出入りも多く、病院のように感染拡大が疑われる集団だけを隔離するような措置は難しい。そのため感染拡大が疑われる場合には「幅広の検査を迅速にやる必要が出てくる」という。

その際、保健所や検査体制へとかかる負担は非常に大きい。だからこそ、感染が拡大する前から保健所をはじめとする支援体制を整えるべきだとした。

「その時にやっていると準備は間に合いません。他からの援助も要りますし、マンパワーも足さないといけなかったりする。(そうした準備は)通常時からやるべきことであります」

クラスター対策で間に合わない場合には特措法に基づく措置も止むを得ないとしつつ、「全体にやるわけではなく、タイミングや期間をどうするのか、範囲をどうするのか。業種も絞った方がいいかもしれない。メリハリの効いた対策を行うことが必要」と訴えた。

歓楽街でクラスターが発生した場合、風評被害が発生することはこれまでも報告されている。こうした事例を踏まえ、「今までの経験から言っても、(風評被害は)避けることはできないかもしれない。でも、やっぱり最小限にする必要がある」と今村医師は話す。

「そこで働く一人ひとりは社会の中で一緒に生活している一員だと思っています。そこで経済を支えている一人ひとりなので、風評被害ができるだけ出ないように、それは常に思っています」

「今回お話ししたのはステップワンです。スキームはできましたが、これから国と地方協力して、このスキームに息を吹き込むことによって現場に生きる対策へつながっていきます」

無症状、事前確率の低い人への検査は引き続き推奨せず

歓楽街での感染対策と合わせて分科会から提示されたのが検査体制に関する戦略だ。

既に分科会は7月の段階で検査に関する方針を示している。だが、今回渡航や興行以外にも自費検査が行われている現状を受け、分科会が改めて濃厚接触者ではなく、事前確率(感染している可能性)が低い人への検査についての考え方を示した。

基本的には症状のある人、無症状だが事前確率が高い人への検査を推奨する方針に変わりはない。

【無症状かつ事前確率が低い人への検査を考える上でのポイント】

(1)検査時は陰性でもその後は陽性になる可能性もあり、絶対の安心にはつながらないこと
(2)一定数の偽陽性・偽陰性が存在すること
(3)広範な地域において一斉かつ頻回に検査を行うことは実務的に極めて困難であり、検査の負荷が増大すること
(4)検査の実施に伴い医療機関及び保健所の負荷が増大すること
(5)国際的にも、広範な地域において無症状の人に対して広範な検査を行うことで、感染制御に成功したエビデンスはないこと

こうしたポイントを踏まえ、無症状かつ事前確率が低い場合には検査を受けることは「広く一般に推奨されるわけではない」としたものの、「社会経済活動の観点から個別の事情などに応じて検査を受ける際は、検査の内容やその際の留意事項などを理解した上で受けることが重要」とまとめている。

尾身会長は社会からの期待を踏まえ、以下のように語った。

「経済活動などの観点から、そういう期待が社会にあることは分科会メンバーも知っています。しかし、行政検査ではなく、民間の機関がおこおなっている場合はクオリティーがどうなっているのか、あるいは費用が適正か、感染者が出た場合にどのようにして医師が関与しなくてはいけないのか。かなりキメの細かい議論が必要です」

「事前確率が低い人。そういう人に検査をしても、なかなか感染防止に役立たない」、尾身会長は無症状かつ事前確率の低い人に対して検査を行うことは非合理であると改めて強調する。

むしろ、歓楽街での重点的なPCR検査などにリソースを割くべきとの認識を示した。