• covid19jp badge
  • medicaljp badge

新規感染者は減少傾向も医療体制の圧迫は続く。専門家が発表した「今後の見通し」のポイント

これまでの評価を今後の見通しを専門家会議が検討。長丁場への覚悟が必要というメッセージが発信された。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が5月1日、開かれ、これまでの緊急事態宣言下での取り組みへの評価と今後の見通しを検討した。

脇田隆字座長、尾身茂副座長らは会議後、記者会見を開き、「現時点では、オーバーシュートを逃れ、新規感染者数は減少傾向に転じるという一定の成果があった」と評価した上で、長丁場を覚悟することが必要としている。

新規感染者数は減少傾向に

最初に説明されたのは、4月10日前後は700人近くにのぼっていた確定日別の新規陽性者数が、直近では200人程度に留まる日も増えてきているという点だ。

発症日別新規感染者数を確認しても、新規の感染者数が減少に転じていることがうかがえると尾身副座長は言う。

そんな中で、「3月20日過ぎから生じた発症者数の急増のスピードに比べれば、減少のスピードが緩やかに見える」と思うように感染者数が減っていないことを指摘した。

その要因として大都市圏から人が移動し、地方に感染が拡大する中で、地方での感染縮小のスピードが鈍いためであるとまとめた。

「我が国では医師が必要とした場合、濃厚接触者を対象にしてPCR検査を実施してきたわけですが、そのために感染者のすべてを把握しているわけではありません」

現在把握できているのは感染の一部であることを示しながら、それでもなぜ新規感染者数が減少傾向に転じていると明言できるのか。

検査件数が徐々に増加している中で陽性者数が全国的に減少傾向にあること、東京では、新規感染者の数が倍増するまでの期間である「倍加時間」が伸びていることから「減少か増加か大きな傾向で言えば、減少していると間違いなく判断できる」とした。

行動変容が呼びかけられた結果、1人当たりが生み出す二次感染者数の平均数値、「実効再生産数」は以下のように変化した。

全国:2.0(3月25日)→0.7(4月10日)
東京:2.6(3月14日)→0.5(4月10日)

この結果について、「市民の行動変容が成果を上げた」と一定の評価を下しつつ、「現在の水準はデータが明確に立ち上がりはじめた3月上旬やオーバーシュートの兆候を見せはじめた3月中旬前後の新規感染者数の水準を下回っていない」と結論づけている。

課題は生産年齢人口の接触頻度

これまで呼びかけられてきた行動変容はどれだけ達成できたのか。都市部の人の流れと一人当たりが経験する接触の割合をかけた「接触頻度」によって今回から評価が行われている。

例として渋谷駅と難波駅の昼間と夜間の接触頻度を年齢別に示したグラフを提示し、尾身副座長は「年齢群によって達成状況が異なる」とコメントした上で、休校などの影響で10代をはじめとした若年層は接触頻度の8割減を達成できたと発表。

一方で「30歳代以上の生産年齢人口(労働に従事できる年齢の人口)の接触頻度の減少率は8割に達していない」と課題を明らかにした。

また都道府県をまたぐ移動についても、3割から5割の減少に留まるところが多く、「都心への通勤を続ける限り、生産年齢人口の接触頻度の減少度合いは少ない」状況だ。

「新しい生活様式」での生活と「徹底した行動変容」を繰り返す

尾身副座長が5月1日の会見の「ハイライト」と語って提示したのが、ある自治体における感染状況に応じた今後の見通しを示したイメージ図だ。

一度、感染者数が減少したものの、再び増加傾向が確認されている北海道のように感染者数の波が上下する可能性を示唆した上で、感染状況が変化した際にどのように対応するべきかの方針を明らかにした。

断続的に医療提供体制のキャパシティの拡充と効果的なクラスター対策を行う体制を整えていく一方で、劇的に抑え込まれた感染者数が再び増加した場合には再度、「徹底した行動変容を要請」することが必要であると強調している。

仮に感染者数を抑え込むことができたとしても、当面の間求められるのは「新しい生活様式」での生活だ。

新しい生活様式に関しては、感染した人あるいは感染の疑いのあると思われる人との物理的距離をとること、3密を回避することなどを中心に基本的なことを行う必要がある一方で、「職場や学校ではAll or Nothing、二者択一ではなく色々な工夫ができる」と呼びかけた。

「全ての可能性を語ることはできませんので、職場などで工夫をしていただきたい。我々も考え方を示しますし、皆様にもやっていただきたいと思っています」

なお、新しい生活様式に関する考え方のポイントについては、専門家会議から今後速やかに示される方針だ。

このような取り組みを行い、感染者数が増加する波を抑え込みながら、早期診断を行うための迅速診断キットの開発・普及や重症化予防の治療法の確立、ワクチンの開発を進めていくことを期待した。

医療現場への負担はしばらく続く

「感染者の平均的な在院期間は約2〜3週間程度。新規感染者数が減少傾向に移行しても、入院患者による医療機関への負荷はしばらく続く。新規の感染者が減少しても(逼迫した状況が)すぐには解消するわけではありません」

「したがって、しばらく減少させる取り組みを継続する必要性があります」

医療体制への影響について、尾身副座長はこのように語る。

新規の感染者数が減少傾向にあることが認められる中で医療現場ではどのような影響を感じているのか、BuzzFeed Newsが質問したところ、会見に出席した都立駒込病院感染症科部長の今村顕史医師が答えた。

現場で治療にあたる今村医師は、これから必要となる都道府県単位での取り組みについても言及し、患者数の減少がすぐには医療現場の負担減につながらない背景を説明した。

東京都では指定医療機関の病床が埋まっていく中で、その他の医療機関での受け入れが進められてきた。同時に軽症者の患者をホテルへと移す取り組みも始まり、「患者数の圧迫が減ってきた面がある」という。

そんな中で、様々な医療機関は緊迫する状況の中で新型コロナウイルスの患者への対応を「やらざるを得ないので、腹を決めて進めてきた部分がある」と今村医師は言う。

「一般の医療機関が今まで診ていなかった患者を診るには、それなりの準備が必要です。それが緊迫した中で進められたわけです」

これら必要な準備を行う重要性は東京以外の都道府県でも変わらない。今、特に必要とされているのは、「地方の医療基盤が弱いところで準備をする時間」だ。

また、新規の患者数が減ったとしても、重症患者や人工呼吸器や人工心肺などを必要とする重篤患者が長期の入院を必要とすることに変わりはない。こうした重症患者によってかなりの病床が埋まっているのが実態だ。

「今の軽症者の中にも重症になり、重篤になる患者さんも含まれています。重症、重篤患者さんの治療というのは続けなくてはいけない。重篤な患者さんの場合ですと、かなりの人がいりますし、集中的治療を24時間続けなくてはいけません」

「その方達の治療が続いていることを知っておいていただきたい。そちらが落ち着いてこないと、通常の救急医療体制も圧迫されます。それが緩和されるまでというのは、ある程度時間が必要だということです」

「そういう意味で、(新規の)患者数が減ったからと言って、医療の現場の負担がすぐに減るわけではないということを知っておいていただければと思います」