• electionjp badge

「とにかく仕事をさせてくださいと言うしかない」生活のため1日15時間勤務も… ある男性が16年ぶりに選挙に行く理由

間もなく投開票を迎える衆議院選。ある男性が政治に望むこととは。

「政治家たちは、僕らの生活の状況を本当にわかっているのか。雲の上から眺めて、あれこれ決めているだけのように感じるんです」

10月31日に投開票を迎える衆議院選挙。

16年ぶりに国政選挙で投票することを決めたという男性は、BuzzFeed Newsの取材にこう語った。「変化がほしい」という。

基本給の保証はなし。収入は激減

Obachyan / Getty Images

(写真はイメージです)

取材に答えてくれたのは、都内に妻と2人で住む現在54歳の森山さん(仮名)。

会社を経営していたが、15年ほど前に倒産。コロナ前は警備員として働いていた。

しかし、新型コロナの感染拡大を機に、生活は一変した。

「飲食店が入っている施設やデパートなどの警備を担当していたのですが、そもそも施設に人が来ない。だから、警備も必要なくなってしまって。警備にあたる人員が半分に減らされ、会社に所属してはいるけど、仕事がない状態が続きました」

森山さんが勤務していた警備会社では、基本給が保証されていない。どれくらい現場に入ったかで、月々の収入が決まる仕組みだった。

そのためコロナで仕事に入れなくなると、収入は激減した。

妻はホテルで勤務していたがコロナ禍で解雇され、今も仕事を探している。

「さすがにこれでは生活できないという状況が続いて…昨年10月から厚生労働省が支援している『バスジョブ!』というプログラムに参加しました」

「バスジョブ!」は、バス運転手を目指す人を支援する厚労省の委託事業。35歳〜54歳の就職氷河期世代を対象にしている。

教習所までの交通費や保険料など一部は自己負担となるものの、基本的には無料で大型二種免許を取得することができる。

森山さんはこのプログラムを通じて、バス運転手に転職することを決めた。

「この年になって、まさか国語とか数学の筆記試験を受けることになるとは思っていませんでしたよ」

森山さんはそうつぶやき、自嘲気味に笑う。複数のバス会社の採用試験を受けた。どこも希望者であふれていたと振り返る。

今年3月、男性はある自治体のコミュニティバスの運転手として働き始めた。

「今はめちゃくちゃな時間働いてます」

Tony Studio / Getty Images/iStockphoto

バス運転手としての生活も決して楽ではない。

ベースの給料は決まっているものの、それだけでは手取りで毎月12万円ほど。

「夫婦2人で12万円で暮らせますか? 暮らせないんですよ。無理です。運転してなんぼの世界ですから。バスに乗れば乗るだけ手当が付く。だから、今はめちゃくちゃな時間働いています」

森山さんは、長い日で午前5時半から午後9時まで勤務していると明かした。これだけ働いて、手取りはようやく24万円ほどになる。

こうした長時間勤務が常態化していると、国の基準に抵触する恐れもある。だが、森山さんは「収入を確保するためには仕方がない」とつぶやく。

「休みはいらないんで、とにかく仕事をさせてくださいと言うしかないんです」

Ken226 / Getty Images/iStockphoto

始発のバスの準備から1日は始まる。

バスは始発から終点まで、おおよそ70〜120分ほど。一通り運転すると終点で別の運転手と交代する。休憩時間は30分程度。

その後は終点まで別の運転手が運転してきたバスに乗車し、始発へと折り返す。

終バスの運転を終えると、車庫までバスを運び、洗車をして1日が終わる。

1年半で届いたのは10万円の給付だけ

コロナ禍で苦しい生活を1年半以上送る中、森山さんのもとに届いたのは全国民一律10万円の定額給付金だけだった。

「バスジョブ!」に参加するにあたり、仕事を辞めるため、社会福祉協議会の貸付を利用しようとしたこともあったという。

しかし、少ないながらもそれまで収入があったことを理由に利用を断られた。

貯金もかなり食い潰した。電気代やガス料金、水道料金を滞納したのも1度や2度ではない。

それでも、森山さんは「苦しいのは僕だけではない」と言う。

「バス運転手の同僚たちも、みんな同じような生活を送っていますよ。下手すると、僕の方がマシな生活かもしれない。夫婦共働きで子どもがいる家庭なんて、もっと大変ですから」

「何も変わらない」と思っていた。でも…

時事通信

多くの有権者らの前で、衆議院解散後初の遊説演説をする当時の小泉純一郎首相(2005年8月20日)

森山さんが最後に投票した国政選挙は、2005年の衆議院選。選挙では、当時の小泉首相が郵政民営化の是非を問いかけたことで注目を集めた。

「選挙に行ったところで何も変わらない」

「誰が首相になっても、結局同じ」

これまでは、そう感じていた。

「政治家が自分の声に耳を傾けてくれていると感じたことはない」

「聞く姿勢を見せていても、本当に届いているとは思わない」

政治に対する不信感も口をついて出る。

そんな森山さんが、今回の衆院選で16年ぶりに投票することを決めたのはなぜなのか?

「総理が変わったこともありますが、今度こそ何か変わるかもなと。別にどこに投票しようと決めているわけではないんです。どこに投票したところで、結局はダメかもしれませんしね。でも、声を上げないと、やっぱり変わらないのかなって」

「ここまで生活が切羽詰まってきているので、何か意志表示をしないとダメだろうなと思うんです。じゃあ、投票してみようかと思いました」

望むのは、暮らしや生活の「変化」

Kazuma Seki / Getty Images/iStockphoto

「僕はね、1回限りの給付金ではどうにもならないと思います。例えば毎月2万円出しますとか、5万円出しますとか。そうやってしっかりと生活を支えてくれないと、どうにもなりません」

「それでは財政赤字が大変なことになる、将来の負担が大きくなるという意見もありますが、だから今はお金を出さないというのはおかしいですよ。未来の話ではなく、まずは今、目の前の状況をなんとかしないといけないでしょ」

森山さんは自らの一票の先に、今の暮らしや生活が改善することを期待しているという。

望むのは「変化」だ。

「選挙に行く時間を割いて、投票して、それでも変わらないのだとしたら『選挙に行く意味なんてないじゃん』と思いますよね。一体、投票に何の意味があるのかって。ただでさえ、生活が苦しいのに、何も変わらないのであれば、わざわざ選挙になんて行きませんよ。その分、働いた方がお金になりますから」

「でも、今回は一縷の望みをかけて、選挙に行ってみようかなって。本当に国が変わるのであれば、政治が変わるのであればね」