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「永久不妊の可能性」「接種者の息や汗から…」立憲の候補者がワクチンめぐる誤情報拡散→削除

「感染予防効果は見込めない」「接種者の息や汗からスパイクタンパク質が放出される」次期衆議院選への立候補を予定している立憲民主党の北條智彦氏が新型コロナワクチンをめぐる誤情報を拡散。その後、投稿を削除した。

「卵巣の損傷や永久不妊の可能性が否定できません」

「子供や若い方への接種は絶対ダメ」

「接種者の息や汗からスパイクタンパク質が放出される」

立憲民主党の東京都第13区総支部長で、次期衆議院選への立候補を予定している北條智彦氏が、Twitterで新型コロナワクチンをめぐる誤情報を拡散。医師や専門家からの批判が殺到している。

BuzzFeed Newsは、北條氏が発信した情報をファクトチェックした。

①「感染予防効果は見込めない」→誤り

北條氏は11日、「立憲民主号外版」の記事をTwitterに投稿。そこには

《ワクチンに感染予防効果は見込めないため、免疫力の高く、発症するリスクが低い若者や子供がワクチンを接種する理由がありません》

《子供や若い方への接種は絶対ダメ》

などと書かれていた。

BuzzFeed Newsの取材に対し、北條氏は書面で次のように回答した。

「ワクチンを接種すれば、他人に感染させることもなくなり、自粛生活から脱することもできると考えている方が多いと思います。しかし、厚生労働省は、ワクチンの効果として『発症の予防』『重症化を抑える』の2点を挙げています。感染させるリスクを低減させるかは明言しておりません」

「高齢者の発症率及び重症化率は高いですが、30歳以下の重症化はありませんし、子供の重症化は皆無です。副反応や長期的なリスクが不明確な人類初のワクチンを、急いで接種する必要があるでしょうか」

だが、「感染予防効果は見込めない」とする北條氏の主張は誤りだ。

新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」は、BuzzFeed Newsの以前のファクトチェックに対し、こう回答している。

「アメリカでは 4000名弱の医療従事者などを対象に毎週PCR検査を実施した結果から、mRNAワクチンを2回接種することによって 90% の感染予防効果が得られることがわかったことがCDCから発表されています」

「イスラエルにおける大規模な臨床研究で、感染予防効果は 92% であったとの報告もあります。複数の研究の結果から、感染予防効果があるということに関して疑いはありません」

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会は、重篤な基礎疾患のある子どもへのワクチン接種を推奨し、健康な子どもへの接種にも「意義がある」とする見解を発表している。

②「卵巣の損傷や永久不妊の可能性」→誤り

《独立行政法人PMDAのファイザー社ワクチン審査報告書等には、ワクチン接種によって体内に掲載されるスパイクタンパク質が、肝臓や卵巣などに分布し、蓄積することが明記されています。卵巣に蓄積することから、卵巣の損傷や永久不妊の可能性が否定できません》

(「立憲民主号外版」)

北條氏は「号外」で、ワクチン接種が不妊につながる可能性があるとも主張。この点について、取材では以下のように訴えた。

「ファイザー社の筋注には劇薬と記載されています。卵巣というデリケートな部分に劇薬が分布することは本当に影響がないと言えるのですか? また、ワクチンは複数回に渡る接種を想定しているため、微量の蓄積が続けば、人体に影響を及ぼす可能性があるのではないでしょうか?」

こうした主張はネット上で広く拡散されているが、河野太郎ワクチン担当相もブログで「不妊デマ」を明確に否定している。

「号外」で言及されている独立行政法人PMDAの資料は、ワクチンによってつくられるタンパク質が、体のどこに分布するかを研究した「薬物動態試験」の結果だ。

こびナビは、BuzzFeed Newsの以前のファクトチェックに対し、次のように回答している。

「今回の新型コロナウイルスの mRNAワクチンでは、動物実験やヒトでの研究において、女性の生殖機能に悪影響を与えることがあるのか、多くの研究が行われており、不妊や妊娠中に悪いことが起こることは確認されていません」

「そもそも、卵巣に『蓄積する』ことを示す実験結果はありません。また、卵巣にワクチンの成分が影響を与えるというデータもありません。動物実験及びヒトでの試験においても、卵巣機能・卵子への影響を示す結果は一切ありません」

アメリカではすでに妊娠中の人が13万人以上ワクチンを接種している。接種後の追跡調査に基づいた報告によると、ワクチンが妊娠に悪影響を及ぼすという結果は出ていない。

日本産婦人科感染症学会も「現時点で胎児や胎盤に毒性があるとかワクチン接種を受けた人が不妊になるといった報告はありません」「ワクチンを接種することのメリットが、デメリットを上回る」との見解を出している。

③「接種者の息や汗からスパイクタンパク質」→誤り

《ファイザー社が公表している研究計画書には、ワクチン接種者の息や汗など体液からスパイクタンパク質が放出され、妊娠中や妊娠計画中、授乳中の女性や乳児に有害事象を引き起こす可能性が示されています》

(「立憲民主号外版」)

号外には、「ワクチン接種者の息や汗など体液からスパイクタンパク質が放出される」とある。

北條氏が根拠としているのは、臨床試験の「実施計画書」のことだとみられる。

BuzzFeed Newsがこの件に関して「こびナビ」に取材したところ、以下の回答が得られた。

「この文章は、mRNAワクチンではない薬剤の臨床試験でも、妊婦を対象から除外する場合に使用される『定型文』の誤訳です。実際には、ワクチン接種者の息や汗などの体液からスパイクタンパク質が放出されるという記載はなく、妊娠経過や胎児に悪影響を及ぼす可能性はほぼ考えられません」

「なお、この基準に従い、ファイザーの臨床試験中に妊娠した方の経過が確認されました。妊娠していた12名の方の妊娠経過や赤ちゃんの経過に異常は認められていません」

23時間後に投稿を削除。北條氏の見解は?

北條氏はツイートから23時間後の12日、問題の投稿を削除した。BuzzFeed Newsは削除の理由を尋ねたが、回答は得られなかった。

北條氏は取材に「VAERS *によると、7月7日時点でワクチン接種後の死者が9048人、流産が985件報告されています。また、欧州でもワクチン接種後に303件の失明が報告されています」とコメント。

新しいワクチンであるため、「従来では想定されない副反応や死亡事例も報道され、因果関係を調査していくべき」と回答した。

※VAERS:日本における「副反応疑い報告制度」に類似するアメリカのモニタリングシステム。ワクチンを接種後の健康状況に関する情報を広く集めている。

だが、北條氏が挙げた数字はワクチン接種との因果関係が証明された「副反応」ではなく、「有害事象」であることに注意する必要がある。

有害事象とは接種後に生じた、ありとあらゆる好ましくない症状のこと。別の原因による病気や、極端な例で言えば交通事故や、雷に打たれたケースなども含まれ得る。

日本で接種が進むファイザーやモデルナのmRNAワクチンに関して、稀なアナフィラキシーや心筋炎のリスクは指摘されているものの、現時点で接種による死亡者の増加は確認されていない。

「副反応」に関しては、ワクチンを接種した人で、ある症状がどれくらい起きているかという「数」だけでなく、ワクチンを接種していない人と比べてどれくらいの「比率」で起きているのかに注目することが大切だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。