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「ワクチンが卵巣に蓄積、不妊の原因に」は誤り。「一生妊娠できなくなる」とYouTube動画も拡散、若い女性に影響か

新型コロナウイルスのワクチンが「不妊を引き起こす」「流産の原因になる」「卵巣に蓄積する」などという女性をターゲットにした悪質な誤情報が拡散している。

新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、「卵巣に高濃度に蓄積する」「不妊になる可能性が懸念」などという情報が拡散している。こうしたSNS上の書き込みは「ファイザーの極秘資料」が根拠と主張しているが、これは誤った情報だ。

現時点における研究結果や調査では、ワクチンが卵巣そのものはもとより、妊娠に影響するという報告はない。また、拡散している資料は極秘でも内部資料でもない。審査申請のために提出、公開されているもので、卵巣に蓄積するという研究結果を示したものではない。

BuzzFeed News は新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」監修のもと、ファクトチェックを実施した。

Kota Hatachi / BuzzFeed

noteやYouTube、Facebookなどを通じて広がっている誤情報(コラージュ)

こうした情報は、ワクチン接種に反対している医師の「note」などを通じて拡散。3,000以上のいいねがついている。

このnoteでは、「ファイザー社の内部資料が流出」したとして、その資料をソースにして「脂質ナノ粒子抱合mRNAは、卵巣に高濃度に蓄積します」などと主張。

「卵巣を構成する細胞のDNAに取り込まれ、次世代に悪影響を与えるのではないか。つまり、不妊になる可能性が懸念される」とし、不安をあおる内容となっている。

また、YouTubeでも「ファイザーワクチンは卵巣に多く行く」とする動画の再生数が11万回を超えている。動画内では「一生妊娠できないと思います」などという言葉を用いていた。

まとめサイト「ツイッター速報」も海外の情報をソースに同様の記事を掲載し、Twitterで1,200回以上リツイートされていた。ブログで「初潮前の女子の卵巣で成分が抜けづらい」などという主張をしている都議選候補者もいた。

さらに、同様の言説はSNSで拡散。Facebookでは2000シェアを超えている投稿もあったほか、InstagramやDMなど直接のやりとりを通じて若い女性に広がっていることも確認できた。

妊娠や生殖器への影響は確認されず

Kota Hatachi / BuzzFeed

Instagramでも同様の誤情報が広がっていた。「いいね」が3桁を超えるような投稿もあった(コラージュ)

しかし、これらの主張は「誤り」だ。「こびナビ」の専門家は BuzzFeed News の取材に対し、こう明言する。

「今回の新型コロナウイルスの mRNAワクチンでは、動物実験やヒトでの研究において、女性の生殖機能に悪影響を与えることがあるのか、多くの研究が行われており、不妊や妊娠中に悪いことが起こることは確認されていません」

「そもそも、卵巣に『蓄積する』ことを示す実験結果はありません。また、卵巣にワクチンの成分が影響を与えるというデータもありません。動物実験及びヒトでの試験においても、卵巣機能・卵子への影響を示す結果は一切ありません」

ワクチンについては、卵巣そのものはもとより、妊娠や生まれてくる子どもへの影響がないことは動物実験による研究から明らかになっている。

「ラットにファイザーワクチンを筋肉注射して、妊娠から出産、生まれてきた仔ネズミの胎児期および出生後の成長発達への影響を確認した研究では、妊孕性(*妊娠するために必要な能力)、妊娠経過、授乳および胎児、生まれた仔ネズミへの影響はないことが確認できています」

この研究では、人間の成人1人分のワクチンと同じ量を体重200gのラット1体に、妊娠前2回と妊娠中2回の計4回接種していることも特筆すべき点だという。

「子宮のみならず卵巣は黄体(*排卵後の卵胞)にいたるまで、さらに母ネズミおよび仔ネズミの身体には形態異常や内臓、骨格の異常などについても解剖のうえ、文字通りくまなく調べられています」

DNAが取り込まれることはない

Pool / Getty Images

また、ヒトの場合も、同様に卵巣に対して影響が出ないことを示唆する報告もある。

「たとえば、体外受精での不妊治療中の36組のカップルに関する報告では、ワクチンを受けた前後で、採卵までにかかるかかる日数や採卵された卵子の数などに変化はありませんでした」

さらに、ワクチンの成分が卵巣に分布し、さらに「卵巣を構成する細胞のDNAに取り込まれ、不妊につながる可能性がある」という主張についても、心配はないという。

「新型コロナワクチンにおいて、遺伝子組込みの心配は現時点で不要と考えます。海外では特殊な環境下で新型コロナウイルスに感染させた細胞において『遺伝子組込み』が生じるとした論文がありましたが、人工的に生じたエラーではないかなどと多くの専門家から批判を集めています。ヒトで実際に起きるのかについての考察やデータは示されていません」

「ワクチンでは、こういった組込みが起こるとする報告は1つもありません。不安を感じる必要はないでしょう。別の論文では、実際のCOVID-19に感染した患者の遺伝子配列解析結果から、感染後にも実質的にウイルスRNA配列がヒト細胞の染色体に組み込まれている現象は認められなかったとも述べられています」

「なお、『初潮前の女子の卵巣で成分が抜けづらい』というのは、全くなんの根拠もない明らかなデマであることも付け加えておきます」

「高濃度に蓄積」は悪質なミスリード

では、この情報の根拠として拡散している資料はいったい何なのか。実は「ファイザーの内部資料」でも「極秘資料」でもない。

ワクチンを含む医薬品の審査などを行う日本の政府系機関、「医薬品医療機器総合機構 (PMDA)」のサイトで公開されている資料(写真)で、ワクチンによってつくられるタンパク質が体のどこに分布するかを示す、「薬物動態試験」の結果を示したものだという。

「こびナビ」によると、この動物実験では、ワクチンに使用されている「脂質ナノ粒子」に放射性物質(RI)で標識をつけたり、抗体をつくるために必要なスパイクタンパクの遺伝情報の代わりに、特定の条件で発光する酵素の遺伝情報を入れたりして、分布を調べる。

「ルシフェラーゼという酵素は、ルシフェリンという物質とエネルギー源があると発光する作用があるので、この光の場所やひかり具合をみて生体内で発現したタンパク質の分布を調べることができます。また、RI 標識された物質からでる放射線の量によって、どこの臓器にどれくらい分布しているかを調べることもできます」

そのうえでこの資料を読み解くと、ワクチンの成分やつくられたタンパク質が血流にのって、ほかの臓器と同様、卵巣にも一次的に「分布」することがわかるという。「高濃度に蓄積した」ことを示すとは、全く解釈できないとも言える。

「試験の結果から言えることは、動物実験において脂質ナノ粒子が、ごく少量、卵巣に分布するという結果です。審査申請書にはより詳しく記載があり、投与量に対して卵巣に分布した量は投与後48時間で0.095%に過ぎません」

「なお、これは肝臓で最も高く18%、脾臓で1.0%以下、副腎では0.1%以下です。一過性の分布でもわずかな割合で、これを『高濃度に蓄積した』と述べるのは明らかに誤った表現であり、悪質な誘導と言えます」

「不妊を起こす」「流産する」も誤り

BonaFidr

特にコロナワクチンが不妊を引き起こす可能性があるという誤情報は、ファイザー社の元「Vice president」(日本では“元副社長”の訳で拡散)であるマイケル・イードン氏の発言として、日本のみならず世界中で広がっていた。

この資料については英語版も拡散しているが、「こびナビ」は「日本語で公開されている資料を自動翻訳したものが『逆輸入』されている可能性が高い」と指摘する。

「紹介されている英語の最初の目次のページをみても、ページ数が4や5の代わりにFour、Fiveと表示されていたり、使用する用語・略語、成分の名前が間違ったスペルで表示されていること、本文の英語が明らかに間違っていることなどから、きちんとした英語翻訳ではなく、日本語の資料を自動翻訳したものでしょう」

「日本で広がるワクチンについての不安を煽るような情報の多くが海外ではじめに発信されたものであることはよくあることです。日本語の資料を英語に自動翻訳した資料をいわば『逆輸入』して使用しているこの事例は、ワクチンに関する不安を煽る情報を発信する人が、海外からの情報や英文でかかれた情報を元にして発信していることを示す良い例だと言えます」

ワクチンと妊娠の関係性に関しては、「不妊」や「流産」をめぐり、全く根拠のない誤った情報が大量に拡散している。

しかし、ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンの大規模臨床試験でも、「妊娠に影響しないことを示すデータ」が出ている。

アメリカではすでに妊娠中の人が12万人以上ワクチンを接種している。接種後の追跡調査に基づいた報告によると、ワクチンが妊娠に悪影響を及ぼすという結果は出されなかった。

日本産婦人科感染症学会なども以下のような見解を発表している。

「COVID-19 mRNA ワクチンの生殖に関する研究はまだ完了していませんが、現時点で胎児や胎盤に毒性があるとかワクチン接種を受けた人が不妊になるといった報告はありません」

なお、同学会などは6月17日に発表した見解で「ワクチンを接種することのメリットが、デメリットを上回ると考えられています」とした。そのうえで、接種については事前に妊婦健診先のかかりつけ医に相談するようにも求めている。

「こびナビ」は誤情報や偽情報に対し、以下のように警鐘を鳴らした。

「ワクチンに関しては、子どもや女性をターゲットにし、将来の健康に関わるような不安などを煽ろうとする内容のものがつくり出されることが多くあります。一見、科学的根拠があるようにみせかけて、誤った情報をつくりだし意図的に流そうとしている様子が明白です。誤情報・デマが増えており、こういった情報については受け手も拒否するとともに、プラットフォームへ通報するなどして、流通しないようにしていくことが大切であると考えています」


こびナビ監修者:岡田玲緒奈、黑川友哉、峰宗太郎、安川康介、池田早希、内田舞

BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説の一部は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知、参考にしました。

また、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

UPDATE

一部表現を修正しました。


Contact Kota Hatachi at kota.hatachi@buzzfeed.com.

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