新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの民間企業がPCR検査ビジネスに参入している。
しかし中には、感染の不安を抱く人をターゲットに「無料で検査できる」「優先的に検査が受けられる」などと、怪しい誘い文句で検査を促す事業者も。
国民生活センターは「新型コロナに便乗した詐欺的なものも見受けられます。不審な電話や訪問などには応じず、不安に思ったら身近な家族や消費生活センターへ相談してください」と注意を呼びかけている。
国民生活センターには検査に関する相談も
国民生活センターによると、民間企業が提供するPCR検査をめぐって、以下のようなトラブルが報告されている。
【実際に寄せられた相談の例】
・自力で見つけた「医師が監修している」と売り出されていたPCR検査を受けたものの、検体を自分で採取する形式であることや「陰性」という結果が通知された後に再度検査を売り込まれたため不信感を抱いた。(南関東地域、30代女性)
・「新型コロナに感染してないか調べるため優先的に検査が受けられる」という不審な電話がきた。(南関東地域、50代女性)
・知人に「無料で検査を受けられる」というメールが届き、メールの情報通りにアクセスすると通販サイトで利用できるギフト券を用意して交換するよう案内されていた。(南関東地域、30代男性)
・届いた検査キットで自ら検体を採取し送るタイプのPCR検査をインターネットで購入した。その後、行きつけの病院で検査を受けることになったためキャンセルをお願いした。しかし、キャンセルできなかった。(東海地方、20代女性)
その相談内容は様々だ。民間の検査機関は玉石混交であり、自分自身で事業者を見つけて申し込む場合には注意が必要であることがわかる。
経産省「規制する仕組みはない」
民間企業が提供するPCR検査は増え続けている。
民間企業による検査はDTC(Direct to Consumer)遺伝子検査と呼ばれ、出生前診断をはじめ、その市場は拡大傾向にある。だが、その実態には不透明な部分も残る。
検査の質は保証されているのか、事前に適切な説明はなされているのかなど懸念点も多い。「誰にも知られず、こっそり!お届け」とうたって検査キットを販売し、「陽性」が出た場合にも保健所への報告が不要であることをアピールする事業者も存在する。
検査キットで十分だと考えた人が医療機関の受診を避ければ、適切な治療や感染対策などの助言を受けられなくなってしまう事態も起こりうる。
専門家からは、報告義務のない民間事業者のPCR検査が増え、自治体の感染状況の把握に遅れが生じることを危惧する声もあがっている。
経済産業省の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、民間企業によるPCR検査を「規制する仕組みはない」とした上で、事業者には「個人情報保護ガイドライン」と「遺伝子検査ビジネス実施事業者の遵守事項」を守るよう求めていると回答した。
厚労省「ちゃんと検査をしてください」
厚労省は民間PCR検査をめぐる問題を認識しており、10月28日には民間検査機関の検査手法、費用などを調査し、その一覧を同省のウェブサイトで年内に公開すると発表している。
サイトでの情報公開によって、検査機関の説明内容や検査にかかる費用を可視化し、比較しやすくすることで利用者の判断材料にしてもらう狙いだ。
調査に協力した事業者の情報を掲載するが、記載された事業者に厚労省の「お墨付き」を与えるようなものではないという。
また、厚労省は民間の検査機関に対して「陽性となった場合は医療機関等を受診すること」「検査には偽陽性・偽陰性があること」などを利用者に説明するよう求めている。
これらの対策で、民間検査が抱える問題点を改善することができるのだろうか。
厚労省の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「調査の結果、法律違反などあまりに検査の基準にそぐわない事業者が確認された場合には、ホームページへ掲載すべきかどうかも検討します」と話した。
保健所への届出義務がないことを売り文句として広告に掲げるような事業者については、「厚労省がホームページで情報を公開した後に、それでも(そうした事業者を)利用したいという方がいるのであれば、それはあくまで市場における自由な取引なので現時点で国が介入できるものではない」とコメントした。
国民生活センターに寄せられたトラブルの事例を伝えると、担当者は次のように語った。
「私たちから現段階でお伝えできるのは、ちゃんと検査をしてくださいということです。問題が報告された民間の検査機関については、今後対応を検討する可能性もあります。ですが、まずは実態について調査をして、情報を集めることが必要です」