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感染の心配なく、自宅からオンラインで受診可能に。医療現場への負担軽減にも期待

政府はオンライン診療での初診を解禁すると同時に、対象の疾患の制限も大幅に解除した。現場でいま、何が起きているのか?

厚生労働省は4月10日、新型コロナウイルスの院内感染を含む感染拡大を防ぐためにオンライン・電話による診療と服薬指導を可能とすると発表。13日から新型コロナの終息までの期間限定で、オンライン診療の条件が大幅に緩和された。

これまでもオンライン診療そのものは制度上は利用が可能となっていた。だが、これまでは再診のみ認められており、対象の疾患もごく一部の慢性疾患のみとなっていた。

院内感染や医療従事者への感染も進む中で、医療機関そしてそこに通う患者からのオンライン診療へのニーズが大きくなっている。

だが、同時に通常の診療で得られるはずの情報が得られない場合もあるため限界もある。

今後、これまで以上に導入が進むことが予想されるオンライン診療。より適切に運用されるためには、どのようなことに注意すべきなのだろうか。

なぜ、これまで導入進まなかった?

これまでオンライン診療が医療現場に浸透してこなかった背景にはどのような事情があるのか。

「対象疾患が限定されていたこと、診療報酬が対面での診療に比べて低すぎること、対面診療での受診回数など厳しい実施要件があること、そして服薬指導を対面で行わないといけないことが大きなハードルだった」とオンライン診療サービスを提供するMICINの代表取締役、原聖吾さんは言う。

MICINはパソコンやタブレットなどで予約から問診、診察、決済、処方箋や医薬品の配送までを行うことができるオンライン診療サービス「curon(クロン)」を全国2000施設を超える医療機関に提供している。

今回の厚労省による抜本的な規制緩和について、原さんは「オンライン診療の対象患者が限定的であったこれまでの制度に比べ、より多くの患者がこのような感染症流行下でオンライン診療という形で医療にアクセスできることは望ましいこと」と語る。

ユーザーガイドで現場の負担減を

オンライン診療は問診と視診が中心だ。触診、聴診、検査等の実施が難しく、対面診療で得られるものと同程度の情報は得られない。そのため、「初診患者や急性疾患患者への活用は留意すべき点も多いと考えられます」と指摘する。

再診で経過観察を行うと同時に、薬を処方する場合には処方は最大7日間を原則とし、医薬品による副作用などが出ていないかを注意深く観察する必要がある。

こうした事情を踏まえ、MICINは4月13日に「初診オンライン診療を実施するクロン(curon)利用医療機関向けユーザーガイド」を策定し、公開した。

「検査や触診、聴診ができない中、今回初めてオンライン診療で初診から診断、投薬を実施する医療機関が増えるとともに、実際の運用や判断に戸惑う事例が増える可能性があります。今回、これまでオンライン診療を活用されてきた先生方の監修のもと、オンライン診療を臨床で活用される先生方や患者の一助になるようユーザーガイドを策定致しました」

ユーザーガイドには「新型コロナウイルス感染症疑い患者を初診で対応する場合の注意点」という項目を盛り込んだ。

これらは厚労省が4月10日に発出した事務連絡において通達されている新型コロナの患者への対応方針に基づいて作成されたものだ。

「症状が悪化する可能性も否定できない新型コロナウイルス感染症をオンライン診療で対応するということは、医師にとっても不安があるものと考えられ、事前に取りうる準備対応を記載しました」

新型コロナに感染した場合、多くの場合は軽症のまま改善していくが、発症から7日目から10日目にかけて急激に症状が悪化する場合があることが確認されている。

そのため、ユーザーガイドにも新型コロナ感染が疑われる患者に対しては、軽症者であっても再診を行うなど経過観察を慎重に行うよう記載した。

また症状が改善しない場合や悪化した場合などPCR検査が必要と見られるケースについては「速やかな対面診療でのさらなる情報収集・検査実施や相談センターへの連絡の検討」が適切であるとしている。

「オンライン診療で不安なく開業医の先生方が新型コロナ感染の可能性があるかどうか見立てをつけること、検査を受けるべきか家で様子を見るべきか判断をしてくださることができれば、指定医療機関の負担も大きく減ることが期待され、全体として医療体制の維持に寄与するのではないかと考えています」

MICINは今後、このユーザーガイドを制度や医療者側からの指摘に応じて適宜アップデートしていく予定だ。

最大のリスクは治療を続けられなくなること

医療現場にはどのようなニーズが寄せられているのか。

オンライン診療をこれまでも活用してきた山下診療所の理事長、山下巌医師は新型コロナの流行を受けて、これまで通院で慢性疾患の治療を行ってきた患者からのオンライン診療へのニーズが劇的に増えてきたと取材に明かす。

3月のオンライン診療を利用した患者数は従来の2倍に。現在、オンライン診療を利用している7割近くの患者が、これまでは対面での診療を希望していた患者だ。「新型コロナウイルスへの感染リスクを心配する患者にオンライン診療が選ばれている」という。

基本的に定期的な受診をする患者は何かしらの慢性疾患を持っているケースが少なくない。もしも新型コロナに感染した場合、重症化のリスクも高い。オンライン診療をすることでこうしたリスクを回避できることも利点の1つだ。

「糖尿病など慢性疾患を持っている患者にとって最大のリスクは病院へ通わなくなること。オンライン診療を導入することで、医療を必要としている人が治療を継続するハードルが低くなる」

「大事なことは自分の健康状態について相談できる医療関係者とつながっていること。それだけでも安心感を持つことができるはずです」

同時に医療機関で働く人たちも感染リスクを低減させることができることも、こうしたオンライン診療を後押ししていると山下医師は説明した。

診療ではない、相談へのニーズも

山下診療所では3月上旬、厚労省がオンライン診療の初診解禁を発表する前にオンラインでの健康相談窓口を開設した。保険は適用されないため相談費用は患者の実費負担だ。

現在までに7人の人がこの相談窓口を利用したという。利用者は様々な判断を行う上で医療の専門家にアドバイスを受けたいといった人や不安を抱えている人たちだ。

「保健所がパンク状態だと言われています。微熱が続くような方の中には大丈夫かな?と不安に思う方もいる。そうした方達への初期対応のほとんどは現在、保健所に寄せられている。しかし、保健所で最優先されるのは重症化を防ぐための対応です」

だからこそ、オンラインでの健康相談が患者の不安の受け皿となりうるのではないかと山下医師は考える。

症状がない人にとって「受診」をすることはハードルが高い可能性がある。

オンライン診療の初診が解禁されたいまも、山下診療所では引き続き健康相談窓口を開設し続けている。もしも何か不安なことがあったとき、誰でも医療にアクセスできるようにすることがねらいだ。

初診解禁はゴールではない

新型コロナ感染を心配する人の受診が減ったことや厚労省の初診解禁の流れを受け、オンライン診療に新たに挑戦しようとする医療機関も少なくない。

通常の診療と比較し、触診や聴診そして検査をすることができないオンライン診療の限界を指摘する声も根強い。だが、山下医師は「診療しないことのデメリットとオンラインで診療することのメリットを比較すべき」と説明する。

「オンラインでの初診だけでは診断が下せないという声もある。でも、初診で確定診断を下す必要はないし、そもそも対面での診療ですら初診で確定診断を下すことは難しいものです」

オンライン診察の初診解禁を求める署名活動なども行われてきたが、医療現場としては「オンラインでの初診を認めることがゴールではなく、オンライン診療を活用していくことこそ重要だ」と強調した。