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「我慢の限界、ある意味で当然」尾身会長が若者や自粛疲れの人たちに伝えたいこと

「人流をこれまでの5割まで削減してほしい、とお願いしているのは、誰かのためではなくあなた自身のためです」

1年半近く続くコロナ禍で、多くの人が様々な我慢や制限を強いられている。

自粛頼みの限界を指摘する声をどう受け止めるのか。そして、ワクチン接種後に見える未来とは?

政府分科会の尾身茂会長に聞いた。

「我慢の限界」との声も

ーー1年半近く、様々な制限を求められている中ですでに我慢の限界を迎えたといった声も聞こえてきます。大学生は大学生活の4年間のうち、その半分近くが自粛生活です。こうした現状をどのように受け止めていますか?

新型コロナ対策のために、あらゆる人々に我慢や自粛をお願いしてきました。おそらく辛くない人はいないでしょう。

その中でも学生など若者や飲食関係者、非正規雇用の方々などに特に大きなしわ寄せがいっていると思います。

影響が大きいからこそ、不安も大きい。我慢の限界を迎えてしまう、というのもある意味で当然のことだと私は思います。

たとえば大学生活は一般的には4年間ですよね。そのうち半分近くがすでに過ぎ、様々な制限をお願いしている状態です。

私が今、大学へ通う学生だったならば、「いいかげんにしてくれ」と思うと思います。

ーー若者世代からは、若者ばかりに感染対策への協力を呼びかけることに不満の声も上がっています。

日本においては諸外国と比べても、多くの人に感染対策へ協力していただいていると考えています。

自主的な取り組みがメインとならざるを得ない日本で、ここまで感染拡大を抑えることができたのは、非常に苦しい状況でも感染対策に協力していただいた人々のおかげです。

ここまでコロナ禍が長く続いていても、しっかりと感染対策を続けてくれる多くの人々に感謝しています。

そうした前提の上で、一部の方々の協力が得られていないこともリアリティですよね。

私は、そうした人を決して非難するつもりはありません。

ですが、聞こえのいいことだけを言ってもリスクコミュニケーションは成立しない。

当初から申し上げてきましたが、このウイルスの性質上、知らず知らずのうちに感染を広げてしまうことがある。そして、それが家庭内で広がり、家族が重症化するといった場合がある。

こうした現実もしっかりと伝えていく必要があると考えています。

現在では、40歳から64歳の人流も時間帯によっては若年層よりも多くなっているということもわかってきました。若者だけでなく、こうした人々への呼びかけも重要になってきています。

現在の感染状況では、「私は感染しないから大丈夫」ということはありません。あらゆる人が感染する可能性がある、それほどリスクは高くなっています。

若いから自分は重症化しない、ということはありません。また、たとえ軽症であったとしても、後遺症がかなり長く続くということもわかってきました。

すでに現在は平時の医療提供体制が崩壊している状況です。誰だってケガをすることはありますし、突然病気になることだってある。ですが、このままの状況が続けば、いつもならば救える命が救えないということが増えてしまいます。

人流をこれまでの5割まで削減してほしい、とお願いしているのは、誰かのためではなくあなた自身のためです。

ワクチン接種で見える未来、現時点で確かと言えるのは?

ーー現在、ワクチン接種が進んでいます。政府は10月中に希望者全員への接種を終えることを目指していますが、ワクチン接種の先に私たちはどのような景色を見ることができるのでしょうか?

私は今が一番危機的な状況で、マラソンで言えば最終コーナーに入っていると考えています。

目の前の感染状況は非常に悪く、もうしばらく医療提供体制が逼迫し続けるでしょう。

ですが、ワクチン接種が一定程度に行き渡る中で、感染拡大の波もピークアウトし、医療への負荷も下がっていきます。

感染対策を続けるためには、やはり見通しも重要です。どこまで頑張れば、どんな未来が待っているのかを知っているからこそ頑張れる、という人もいるはずです。

たとえば、旅行やイベント、ライブなどに行くためにはワクチン接種あるいは検査を受けることを求めるといった方法で徐々に社会経済活動を再開していく。

あるいは、飲食店に入店する際にはQRコードをかざして、誰がいつ来店したのかをしっかり記録し、そこで感染者が確認された場合にすぐに連絡がいくようにする、など考えられないか?

仮にこうしたルールが設けられたらば、皆さんはどう思うか?

ワクチン接種後の未来については、様々な検討すべき論点があると考えています。

ーー集団免疫の成立は現実的に可能なのでしょうか?

新型コロナワクチンは非常に高い有効性が確認されているワクチンです。変異ウイルスに対して効果が薄まるのではないか、といった懸念もありますが、現時点では重症化や死亡をかなり抑制することがわかっています。

その一方で、おそらくデルタ株の影響などを踏まえると、国民の60%あるいは70%がワクチンを接種しても、集団免疫を獲得することは難しい。

ワクチンだけでこの状況を切り抜けることはできないというのが現実です。

ワクチンを接種すれば、「100%感染しません」「絶対に大丈夫」と言ってしまいたくなる誘惑にかられることはありますよね。でも、それは絶対に言ってはいけない。なぜなら、その言葉はリアリティに基づいていませんから。

ワクチンはこの状況を打開するために最も重要な要素であることは疑いようがありません。かなりの確率で重症化を防ぎます。感染予防効果や発症予防効果があることも確認されています。

しかし、ワクチンも万能ではありません。

したがって、新型コロナにはワクチンだけでなく、検査や科学技術など総力戦で挑む必要があります。当面の間はマスクの着用もお願いすることになると思います。

たとえば、職場や学校で体調が悪い人がいたら、検査を受ける。そして、仮に陽性であることがわかれば、その周りにいた人全員に検査する。

ワクチン接種が一定程度の人々に行き渡っても、感染者がゼロになることはありません。感染者が出たとしても、クラスターを食い止める。そのためにはこれからも集中的な検査が必要になってきます。

目指すべきゴールはどこか。

繰り返しますが、感染者数をゼロにする、ということは無理です。感染者を完全にゼロにする、ということはリアリティに反する。そして、リアリティに基づかない判断は必ず破綻します。

究極の目標は重症者を減らし、医療提供体制への負荷を減らすことです。

そのためには引き続き感染者数の数字を確認することも重要ですが、重症者数や入院者・療養者の数などをモニタリングすることがより重要になります。

どのラインまで、感染者数や重症者数を許容しながら、社会経済活動を回していくのか検討が必要です。

イベルメクチン待望論も根強いが…

ーーワクチン接種が進む一方、一部ではいまだに科学的に有効性が確認されていない「イベルメクチン」をコロナ患者に使用すべきとの声があります。一部の医師や政治家もこうした発信をしていますが、こうした発信をどのように受け止めていますか?

イベルメクチンもそうですし、昨年話題になったアビガンなどもありましたが、薬についてはムードで何かを決めるべきではありません。

しっかりとした研究をして、客観的なデータを示した上で議論する。

効くんじゃないか?と提案をしたり、意見をすることは歓迎すべきと思いますが、社会政策について提案や意見をするのであれば、何らかの根拠を伴っていなければいけません。

パンデミックが起きている時に、治療薬がほしいという気持ちはよくわかります。

でも、こうした議論は、まずはしっかりと科学的なデータを確認した上で進める必要があります。