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「今がこの1年半の総決算」新型コロナ収束、そして感染症に強い社会へ…尾身会長が最も伝えたいこと

「日本は成熟した社会ですから、そろそろ「感染症に強い社会」にしていく必要があるのではないでしょうか」

ワクチン接種が徐々に進む中、私たちは引き続き基本的な感染対策を続けていく必要がある。

今私たちにできること、そして「感染症に強い社会」を作るために取り組むべきこととは何か。

新型コロナ分科会の尾身茂会長はBuzzFeed Newsの取材に対し、「今がこの1年半の総決算」と語り、収束に向けた重要な時期にさしかかっていると説明した。

リバウンド回避のため、協力を

ーー先日の政府の基本的対処方針等諮問委員会後の会見では、国内のウイルスが徐々に変異株に置き換わっていると危機感を示していました。集団免疫獲得までには時間がかかる中で、私たちはどのような点に注意しながら生活していく必要があるのでしょうか?

*集団免疫:抗体を持つ人を増やし、社会全体で感染を抑制すること。なんらかの理由でワクチンをうてない人も感染から守る効果が期待できる。

ワクチンは非常に重要な要素ではありますが、ワクチン接種に関しては我々のような市民は案内が来るのを待ち、案内が届いたら、うたせてもらうことしかできません。

今しばらく順番が来るのを待ちながら、私たちにできることがいくつかあります。

栃木や大阪のようにいずれは1都3県の緊急事態宣言も解除される時が来るでしょう。

その後、リバウンド(再びの感染拡大)を防ぐためには国や自治体の努力だけでなく、人々の協力も重要です。

先日の分科会で私たちは会食する場合、同居する家族以外であれば4人まで、しかもなるべくいつも近くにいる人とお願いしました。

例えばいつも会っていない小学校の友達と何年ぶりに再会し、そのまま飲み会へ行くといったことは控えていただきたい。

具体的には、毎日物理的に近い距離で接している4人でお願いできればと思います。

いつも近くにいる人であれば、その方が感染している場合には自分も感染しているかもしれませんし、その方が感染していない場合は自分も感染していない可能性が高い。

そういった人々と、4人以内に収めていただくことが感染リスクを低くするために極めて重要です。

日本も「感染症に強い社会」へ

ーーメリハリが重要だということですね。

そうです。メリハリの効いた対策をお願いしたいのです。

全部がダメと言っているわけではありませんし、外に出るだけであれば問題ないわけです。

例えばどこかへ出かける場合は、なるべく人がいない場所や時間を選んでいただく。そして働く上ではテレワークを活用していただきたい。

これらはこの先もずっと、文化として定着させていくべきだと私は思います。

日本ではお盆や長期の休暇になると人々が街に溢れ、高速道路が渋滞し、新幹線が混雑することが当たり前となっていました。我々はこのような社会のあり方を許容してきたわけです。

これまではどこかへ行くにしても、みんながいる場所でなければ嫌だ、そう言った場所に行くことが楽しむということだという固定観念がありましたよね。

ですが、日本は成熟した社会ですから、そろそろ「感染症に強い社会」にしていく必要があるのではないでしょうか。

旅のあり方についても以前から提言し続けてる混雑していない場所、タイミングを選んで行く「小規模分散型旅行」を広げるなど工夫ができるはずです。

もしかすると、今後また「Go Toトラベル」事業が再開するかもしれません。

もしも再開するならば、みんながあまり旅行へ行かない時期に行く人に対しての割引額を大きく、みんなが行く時期に行く人に対する割引額は小さくするといったメリハリの効いた取り組みをすることが望ましいと思います。

どうしても我々はゼロか100かで考えてしまいがちです。でも、そうではなくて例えば7割くらい、もしくは8割くらいを目指し、社会経済活動の一部を再開させる。時には、そのように考え方を転換することも必要だと考えます。

ーーコロナ禍で2度目の春を迎え、これからゴールデンウィーク、お盆と恒例行事も控えています。こうした恒例行事については、どのような点を意識する必要がありますか?

分科会でも我々は、年度末の恒例行事、卒業旅行や歓送迎会、宴会を伴う花見は控えていただくよう提言しました。

皆さんに知っていただきたいのは、年末の恒例行事であるクリスマスや忘年会がきっかけとなり感染者が急増し、2度目の緊急事態宣言に至ったということです。

国や自治体にお願いし、様々な形で会食を控えていただくようお願いしましたが、なかなかメッセージが伝わりませんでした。

食事を介した場で感染が拡大したことは間違いない。2度目の緊急事態宣言発出の背景は非常にクリアなんです。

ですから、今後はより一層気をつけましょうとお願いしたい。

宣言解除する上で最も大切なものとは?

ーー人々の関心は1都3県の緊急事態宣言がいつ解除されるのかに集まっています。解除の時期についてはどのように考えていますか?

すでに我々からは解除の条件を提示しています。もちろん感染者数や病床の逼迫度合いといった数字も重要ですが、最も大切なのはリバウンドを防げるのかどうかです。

リバウンドを防ぐことができるような形での解除が望ましいということは、以前からお伝えしています。そういった点を踏まえ、いずれは意思決定されるでしょう。

その上で、皆さんにお願いしたいのはこの1年で学んだこと、知ったことを生かして生活していただきたいということです。

家庭内感染に注目が集まった時期がありましたが、家庭内感染はあくまで感染拡大の結果です。その最大の原因は飲食の機会でマスクなしで会話をしたことなどです。これを断つことが重要です。

お伝えしたいリスクの高い場面や行為は以前からお伝えしていることと変わりません。

結局はマスクをして、手洗いをし、3密や5つの場面を避けていただく。こうした対策が重要です。

「今がこの1年半の総決算」

ーー新型コロナの感染拡大から1年が経過しました。人々に伝えたいのはどのようなことですか?

今がこの1年半の総決算だということです。

1年の間に2度も緊急事態宣言を発出し、2年目にさしかかる中でようやくワクチン接種が始まった。

1年目は試行錯誤が続きますが、2年目は基本的にはもと来た道をたどるわけです。しかも、我々は以前は持っていなかったワクチンというツールを手に入れました。

ですから、同じ過ちを繰り返すことだけは避けるべきでしょう。

結局のところ、ポイントは学んだことを生かせるかどうかにかかっています。

国や自治体のリーダーシップは非常に重要です。私は選挙で選ばれた政治家の皆さんの役割は2つあると思っています。

1つが、政策をしっかりと打ち出すこと。そして2つ目がメッセージを発信すること。

我々が対峙しているのはウイルスです。このような未曾有の危機を乗り越えるためには、リーダーたちの言動が重要になってくる。

彼らの情報発信がどれだけ大事か、我々はこの1年でよくわかりましたよね。

昨年、国と自治体の足並みが揃わなかった時期がありました。やはり一体感というものがなければ、メッセージは十分に伝わりません。

我々が生きる社会に課された最も重要な目標はただひとつ、このウイルスを何とか鎮静化させたい。

その目標に向かって、我々市民が一丸となって取り組むことができるよう、政治家の方々にはしっかりとした政策とメッセージを打ち出していただきたいと考えています。