新型コロナウイルス感染症収束に向けた切り札がワクチンだ。
日本でも2月14日にファイザー社のワクチンが承認され、一部の医療従事者への先行接種が始まっている。
我々はワクチン接種をどのように判断すべきか。
政府に医療対策を提言している新型コロナ分科会の尾身茂会長に話を聞いた。
「私はワクチンを接種させていただきます」
ーーまず最初に、尾身先生は新型コロナワクチンを接種しますか?
ご質問にお答えするために、少しだけ前提をお話させてください。
今回承認されたワクチンは、私どもが当初想定していたものよりも、今のところ安全性、有効性ともに優れたワクチンではないかと考えています。
諸外国の情報だけでなく、日本国内のデータもしっかりと注視していく必要はありますが、私は期待していたよりも優れたワクチンではないかと思う。
したがって、何か特別なことでもない限り、順番が来たタイミングで私はワクチンを接種させていただきます。
私の場合、医療従事者ではあるけれども直接患者さんを診てはいないので、医療従事者の枠ではなく高齢者の枠で順番が回ってくるはずです。
今しばらくは市区町村からの案内を待ちます。
ワクチン接種、リスクの評価は…
ーーワクチン接種のリスクについて、現段階ではどのように捉えていますか?
今のところの情報を見る限りでは、副反応については比較的低く抑えられていると思います。「これではワクチン接種をストップしなければいけない」といったレベルではなく、許容範囲と考えるのが妥当でしょう。
日本でも接種が始まっていますが、これまでに重大な懸念事項は確認されていません。
一方で、海外のデータを踏まえるとワクチン接種による発症予防効果、重症化予防効果に期待が集まります。インフルエンザワクチンよりも効果が期待できると言えそうです。
現在、医療従事者の方々への先行接種が始まり、国内におけるワクチン接種者の数も毎日増えています。今後、思っていたよりも副反応の不安は少ないのではないかということが実感として少しずつ社会へ広がっていくと思います。
これまでは諸外国のデータをもとに語ることしかできませんでした。しかし、今後は接種が進むにつれて、「やっぱり副反応はそれほど多くはないんだ」「結構安全なんだな」と理解していただき、安心感を得ることができるのではないでしょうか。
このワクチンは医療従事者の方々にとって、マスクや防護具にプラスして新たに追加されるバリアです。ウイルスと医療従事者を隔てる壁がもう1つ生まれることで、働く人々の不安を解消し、安心感につながることを期待します。
集団免疫獲得への道「2〜3年かかるかもしれません」
ーー高齢者や基礎疾患のある方についてはどうでしょうか?
接種スケジュールについては、様々な不確定要素があるため難しさもあると思います。
いつ接種が可能となるのかはまだ分かりませんが、高齢者や持病のある方への接種を進めることも社会全体が安心材料を手にするために重要です。
新型コロナの感染が拡大する中で、我々の社会は非常に大変な思いをしました。その背景にあった1つの要因が重症化への懸念、そして死亡するリスクへの不安でした。
ですが、ワクチン接種が進み、発症予防効果や重症化予防効果が十分に見えてくれば、社会の中に安心感が広がっていくはずです。
ーーワクチン接種による集団免疫獲得への道筋についてはどのように考えていますか?
*集団免疫:抗体を持つ人を増やし、社会全体で感染を抑制すること。なんらかの理由でワクチンをうてない人も感染から守る効果が期待できる。
高齢者や持病のある方への接種の後に、一般の方々への接種が始まりますが、どれほどワクチン接種が感染を抑えるかは現時点でははっきりとは分かりません。
ワクチン接種で即座に感染者が減っていく、クラスター発生数がゼロになるといったことはなかなか難しいと思います。
集団免疫の獲得を目指していくことになるとは思いますが、恐らくすぐに獲得するということはない。
日本人のうちかなりの割合の人々がワクチンをうったとしても、感染がゼロになるというには当分時間がかかると思います。
今年中にそこまで到達するのは恐らく無理だと思います。
ワクチン接種が進んで、社会において新型コロナウイルスがインフルエンザウイルスのような存在になるまでには、2〜3年かかるかもしれません。
つまり、ワクチン接種が進んできたからノーガードで良い、とはならない。基本的な感染防止対策はこれからもしばらくは必要です。
それだけ、この新型コロナは大変なウイルスだということです。
ここまで「したたかなウイルス」はしょっちゅう現れるわけではない。恐らく一生に一度来るか来ないかといったレベルです。
だからこそ、皆さんにはもうしばらく辛抱していただきたい。
何も絶対に外を歩いてはいけませんということではありません。引き続きマスク、手洗いをしていただき、3密、特にリスクの高い5つの場面を避けるという急所を押さえた対策をお願いします。