衆議院で1月20日、本格的な国会論戦が始まった。
代表質問のトップバッターとなった立憲民主党の枝野幸男代表は、菅義偉首相に対し、感染拡大が続く新型コロナウイルスへの政府対応を中心に質問した。
東京五輪について、枝野代表は「希望的観測だけで走るのは、かえって無責任」と批判。今夏の開催が難しい場合の「プランB」を準備しているのか尋ねた。
菅首相から明確な答えはなく、野党からは「様々なことを想定し、将来に備えること、それが政治家の役割の1つ」との批判も上がっている。
東京五輪、「プランB」はあるのか?
菅首相は1月18日の施政方針演説で東京五輪について、「人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と改めて開催への意欲を示していた。
だが、五輪開催をめぐっては厳しい見方も広がっている。ワクチンの接種も多くの国では進んでおらず、変異株の出現による流行の拡大など、懸念材料が多いからだ。
枝野代表は代表質問でこう問いただした。
「東京オリンピック・パラリンピックについて、アスリートなど関係者の努力と期待を思えば、私も何とか開催したいと思います。しかし、ここまで目前に迫りながら、世界的な感染拡大が収まらない以上、希望的観測だけで走るのは、かえって無責任です」
「本当に実施や参加が可能であるのかを各国のオリンピック委員会や競技団体と協議するなど、万一の事態に備えたプランBはどのように検討し、準備しているのでしょうか」
これに対し、菅首相は以下のように答弁した。
「まずは、新型コロナウイルスの克服に全力を尽くします。東京大会については、安全安心な大会を実現するため、IOCや各競技団体とも相談しながら、感染対策の具体的内容を現在検討しております」
「バッハ会長とも東京オリンピックを必ず実現し、今後とも緊密に連携することで一致しており、引き続き東京都、大会組織委員会、IOCと緊密に連携しながら準備を進めてまいりたいと思います」
あくまで開催を前提に関係各所と相談していることを強調するだけで、開催が難しくなった場合の「プランB」に関する言及は一切なかった。
担当大臣も今夏の開催を強調
枝野氏のあとに質問に立った自民党の二階俊博幹事長は次のように述べ、菅首相の背中を押した。
「政府がオリンピック・パラリンピックを開催できるよう努力することは、当然のことであります。橋本オリンピック・パラリンピック担当大臣にオリパラ実現に向けた取り組み、自らの経験を踏まえてその抱負をお述べいただきたいと思います」
二階幹事長は前日の1月19日にも「ここで五輪を開催するのしないのって躊躇している問題じゃない。あらゆる困難を乗り越えて、国民の期待、世界のみなさんの期待に応えるべき」と発言したばかりだ。
二階幹事長の質問を受け、橋本聖子東京五輪担当相は「現在夏の大会に向けて関係者が一丸となって準備を進めているところ」と改めて強調し、どのような準備を進めているのか説明した。
「東京大会の新型コロナウイルス感染症対策については、各省庁、東京都、大会組織委員会における議論を重ねてきたところであります」
「具体的にはアスリートについては入国から出国までトータルな環境整備、ルール作りを行うこと。観客数の上限や外国人観客については国内外の感染症状況を踏まえ、春までに決定すること。そして、必要な対策を確実に実施すること、全力をあげて準備に取り組んでいるところでございます」
ただ、こうした政府与党の姿勢は、国民世論とも乖離しつつある。NHKの世論調査(1月9〜11日に実施)では、東京五輪を今年「開催すべき」と答えた人が16%にとどまる一方、「中止すべき」「さらに延期すべき」と答えた人は合計77%に達した。
答えないのは「仮定」だから?
「五輪が開催できない」というプランBについて触れなかった菅首相が、「仮定の質問」に答えなかったのはこれが初めてではない。
官房長官時代から「仮定の質問には答えられない」とたびたび回答。つい最近も、緊急事態宣言の延長をめぐって同様の発言をし、批判を浴びた。
最後に質問した立憲民主党の逢坂誠二議員は、「仮定の質問」に対する首相の対応をこう批判した。
「総理は仮定のことは考えないと民放のテレビの番組で答えました。私はこの発言を聞き、愕然としました。菅総理には政治家の資格はないと強く感ずるのです」
「一定の仮定のもと、様々なことを想定し、将来に備えること、それが政治家の役割の1つだからです。菅総理には仮定のことは考えないという姿勢を改めていただかなければなりません」
菅首相は「ご指摘の発言は、前日に発出したばかりの緊急事態宣言の効果が上がるために、まずはしっかりと実行することに全力を挙げるべきという趣旨で申し上げたものであります」と説明。
「一国の総理として、様々なことを想定をして対策を検討することは当然のことであり、そうした姿勢で今後とも感染対策に全力を挙げてまいります」と述べた。