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病室からコロナ禍を見つめ、感じた怒りと恐怖。 アナウンサーが「うちで過ごそう」と呼びかけた理由

「新型コロナが感染拡大した当初は僕のような血液疾患の人で亡くなった人も少なくなかった。だから、僕のような人は新型コロナを非常に恐れていたんですよ」

2019年12月19日、「悪性リンパ腫」の治療のために病院へ入院したフリーアナウンサーの笠井信輔さん。

その1ヶ月後、初の感染者が確認されたことを皮切りに、国内では新型コロナウイルスによる混乱が広がっていく。

笠井さんはコロナ禍を病室からどのような気持ちで見つめていたのか。そして、なぜブログで「うちで過ごそう」と発信し始めたのだろうか。

がんとの闘病を著書『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』に記した笠井さんに聞いた。

「僕のような人は新型コロナを非常に恐れていたんですよ」

ーーがん治療のため入院した時期が、偶然、新型コロナウイルスの流行と重なりました。病室では、何を思っていましたか?

怒りですね。

外出自粛の要請が出されて以降も、パチンコ店に並ぶ人々が報道されていたり…。

抗がん剤の治療で2ヶ月以上も外へと出られない生活が続いていましたし、周りには同じような状況にいる人がたくさんいました。

そんな中で、外出を自粛していたら息が詰まるという言葉を聞くと、何を言っているのかと思ってしまったのが正直なところです。

現在は治療法も確立されつつあり、状況は変わりました。ですが、新型コロナが感染拡大した当初は血液疾患の人がコロナで亡くなったということも少なくなかった。

だから、僕のような人は新型コロナを非常に恐れていたんですよ。

同時に病室から外へ出られず、アナウンサーとしてレポートできないことにも歯がゆい思いを抱いていました。

「うちで過ごそう」発信した理由

ーーその後、怒りをぶつけるのではなく、「Stay Home」をSNSで呼びかけましたね。

映画のレビューを書く仕事は続けていたので、ハリウッドスターたちが新型コロナを受けてどのような発信をしているのかを観察していました。

彼らは「〇〇のためにStay Homeします」というハッシュタグを生み出し、活発に投稿していました。一方で日本の著名人やワイドショー、情報番組の出演者は誰一人として「Stay Home」を呼びかけない。

報道番組を作る人や出演者は番組に出るために外へ出ているわけですから、そうした呼びかけをすると自分たちへ跳ね返ってきてしまう。だから、「Stay Home」と呼びかけることは難しいという番組製作側の声も耳にしました。

ちょっと待ってくれ、それはおかしいじゃないかと思いました。

では、誰なら「Stay Home」の呼びかけができるのかを考えた時に、コロナになる前から病院に閉じ込められていた自分だったら良いじゃないかと考えたんです。僕は新型コロナの騒ぎが始まる前、12月19日から病院にいましたから。

だから、「うちで過ごそう」というメッセージにハッシュタグをつけて、Twitterはやっていなかったのでブログに投稿したんです。3月27日のことでした。

ほぼ同じタイミングでYouTuberのヒカキンさんも動画を上げて、「Stay Home」しようという呼びかけが急速に広がっていきました。

コロナで狂った復帰の「目標」

ーー悪性リンパ腫の診断後に出演したフジテレビの番組で、治った後には東京オリンピックと10年を迎える東日本大震災関連の取材したいとお話されていました。

そうですね。このコロナ禍も、オリンピックの延期もまさに想定外でした。

特にこの10年間は東日本大震災を経験した人々とずっと交流を続けてきたこともあり、震災から10年を迎える今年は非常に重要な年だと考えています。

ですが、コロナという目の前にある危機があまりに大きすぎて、そこに向き合うだけで精一杯な部分もあるのかもしれません。地震も津波も二の次になってしまいかねない。

実際、2020年3月の震災に関する報道はこれまでに比べると少なかった。これは良くないなと思っています。

各報道機関、震災から10年を迎えるという中で大きくこのニュースを取り上げてくれることを期待しています。何が起きるかはわかりませんが、僕も可能な限り現地からニュースを届けられないかと考えています。

オリンピックについては、僕はスポーツアナウンサーではないので、簡単に取材できないことはよくわかります。ですが、当初は闘病生活を終え、復帰できるとしたら、そのタイミングでオリンピックが開催される予定でした。

なので、自分自身が復活するための目標として定めていた部分がありました。

現在、特に力を入れているのは、がんの当事者としての活動です。がんの情報サイト「オンコロ」で動画の対談企画を始めました。また、様々なイベントにも参加させていただいています。

これからは、がんと向き合う活動により積極的に取り組んでいけたらと考えています。