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このまま借金が増え続けても日本は破綻しない?「財政健全化」は本当に必要ないの? 積極財政派の専門家に聞きました

「日本の政策はバラマキ合戦になっている」との批判もある中、果たして何が正しいのか。積極財政を支持する専門家の見解とは。

10月31日に投票日を迎える衆議院議員選挙。

選挙に向け、各党は給付金や減税など様々な経済対策を打ち出している。

そんな中、財務省の矢野康治事務次官が月刊誌『文藝春秋』で「日本の政策はバラマキ合戦になっている」と寄稿したことが波紋を呼んでいる。

果たして各党が掲げる分配政策はバラマキなのか。それとも、経済再生に不可欠なカンフル剤なのか。

BuzzFeed Newsは、積極財政を支持する専門家と、財政健全化の必要性を訴える専門家の双方に取材した。

この記事では、積極財政派の経済アナリスト・森永卓郎さんの見解を紹介する。

事務次官の寄稿は「財務省の焦り」の表れ?

提供写真

経済アナリストの森永卓郎さん。著書に「なぜ日本経済は後手に回るのか」「なぜ日本だけが成長できないのか」など。

ーー財務省の事務次官が「日本の政策はバラマキ合戦になっている」と批判し、話題を呼んでいます。あの寄稿については、どのように受け止めていますか?

あれは役人としては禁じ手中の禁じ手だと思います。

本来、公務員は公僕です。あくまで政策を実行する立場であって、政策立案する側ではないとされています。

そうであるにもかかわらず、なぜあのような記事を寄稿したのか。それは、財務省が焦っているからでしょう。

ーー「焦り」とは、具体的にどのようなことについてですか?

財務省はこれまで40年以上にわたって、「古い経済学」を唱えてきました。しかし、今、その「古い経済学」そのものが存亡の危機に立たされています。

彼らはこれまで、財政均衡せずに大きな赤字が出てしまうと、国債が暴落し、株も暴落し、為替も暴落し、ハイパーインフレが日本を襲うと主張してきました。

しかし、これは「嘘」だということが、わかってきました。

アベノミクスの6年間で、日銀は国債の保有を年間60兆円ほど増やしました。しかし、インフレにはなっていません。さらに昨年度1年間では保有国債を46兆円も増やしたにもかかわらず、やはりインフレは起きていない。

こうした現状が何よりもそれを証明しています。

これまでの財務省の主張が本当であるとするならば、今頃、日本はハイパーインフレになっていないといけない。でも、現実には国債の暴落もありませんし、ハイパーインフレのかけらもありません。

実際、今回の衆議院選では与野党含めて給付金の給付に前向きです。さらに野党は消費税引き下げを打ち出しました。

これまで「当たり前」のものとされてきた財務省の論理が通用しなくなってきています。

財政健全化は必要ないの?

時事通信

財務省・国税庁

ーーしかし、財務省はじめ多くの経済の専門家は財政健全化の必要性を訴えています。

僕は20年以上前から、日本の財政状況は決して悪くないと言い続けてきました。むしろ、世界で最も健全な財政状況を持つ国のひとつです。

では、なぜ彼らは財政健全化をここまで強く主張するのか、なぜならばそもそもの統計の読み方を間違えているからです。

確かに、日本は借金が多い。これは事実です。ただし、「連結財務書類」という国全体のバランスシートを見ると、資産も多いことがわかります。

このバランスシートでは、政府だけでなく、国立大学や国立病院などの数字も反映されています。

その結果、令和元年度の負債は約1545兆円、資産は約1023兆円となっています。

これは何を意味しているのか。日本は1000兆円を超える資産を持っているということです。その7割は金融資産で3割は不動産資産となっています。

これまでは、「国民一人あたりが〇〇円借金をしている計算です」「これだけの借金をしていたら生活が破綻してしまいます。国も同じです」と説明されてきた。

しかし、実際には借金をしても、その3分の2は資産になっていたということになる。

負債総額から資産を引けば、純粋な負債は522兆円です。これは日本のGDPよりも少ない水準となっています。

ですから、日本の財政状況が悪い、なんてことはないんです。

日銀の国債購入で “借金が消える”

時事通信

日本銀行の黒田東彦総裁

もう一つ注目すべきは、日本では大量の国債を日本銀行が保有しているということです。

この論理をなかなか理解してもらえませんが、中央銀行が国債を買った場合には、買われた瞬間に借金は消えてしまいます。

例えば、日銀が国債を購入したとして、日銀が永久に持ち続けてくれれば、政府にはその借金を返済する必要はありません。

利息は発生するので、その利息については支払う必要がある。しかし、それもほぼ全額が「国庫納付金」という形で政府へ戻ってきます。

だから、実質的には利払いもしなくて良い、元本も返さなくて良い。つまり、借金がなくなる、ということです。

ーー借金が消えてしまう、という論理はなかなか信じ難い側面もあります。

ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授も同じことを言っています。

中央銀行は政府と一体であると。

つまり日本政府と日本銀行の連結決算で見れば、政府の債務は日銀の資産です。相殺されているので、何の問題もありません。

ーーそうした前提の上で、森永さんは「通貨発行益」を活用すべきとしています。

日銀が国債を永久に持ち続ければ、政府は1円も負担することなく、財政資金を手にすることができます。

これが「通貨発行益」です。

自国通貨建てで国債を発行すれば、インフレにならない限り財政赤字で破綻することはないとする「MMT(現代貨幣理論)」も同様の考え方です。

どのくらいの財政赤字であればインフレにならないのか、という点については明確にはわかりません。しかし、累計3000兆円くらいの財政赤字であれば問題ないのではないかと考えています。

まずは消費税を減税。いずれはゼロに…

Kazuhiro Nogi / AFP=時事“

ーー積極的な財政出動を行うとして、どのようなことに使うのが望ましいのでしょうか?

「MMT」では国債を発行することによる財政資金は雇用創出プログラムへと投じることが望ましいとされています。

しかし、私は日本においては国債によって、ベーシックインカムを導入することが理想的だと考えています。

毎月1人7万円を支給するとすると、必要な予算は年間100兆円。そのうち、ベーシックインカムに置き換えることで削減できる失業手当などを削っていけば、70兆円で実現可能です。

しかし、この制度の導入は現実問題としてなかなか厳しいかもしれない。政治家や国民はじめ多くの国民の理解を得る必要がありますが、こうしたロジックはなかなか理解していただけないでしょう。

であるならば、現実的には消費税撤廃が望ましいと思います。

ーー消費税は完全に撤廃するということでしょうか?

まずは一旦、消費税を下げる。そして、「やっぱり財政的にも大丈夫じゃないか」と納得が得られたところで、ゼロにまで段階的に引き下げていけば良い。

これによって生じる年間の財政赤字は27兆円です。この程度であれば、何の問題もありません。財政基盤はビクともしない。

消費税を下げることは、大きな格差縮小効果があるとされています。消費税の負担率は低所得者ほど大きい。

消費税を下げ、ゆくゆくは撤廃することが所得分配を進めていくためにも不可欠です。また、景気の刺激効果も期待されます。

今回の衆院選では、時限的な消費税引き下げを公約として掲げている党もあります。

まずは時限的でも構わないので、1回下げてみる。そうすれば、問題ないという理解が広がると思いますよ。

「アベノミクス」も「大胆な金融政策」を第一の矢に掲げ、日銀が「異次元の金融緩和」を開始したところまでは良かったんです。

でも、安倍さんは同時に財政の引き締めも行った。これはブレーキとアクセルを同時に踏むようなものですよ。

本来は大体な金融政策と合わせて、財政出動をもっと積極的に行うべきでした。

安倍政権最大の間違いは、2度にわたる消費税増税です。だからこそ、まずは消費税を下げ、将来的には撤廃する。

そして、ゆくゆくはベーシックインカムを導入すべきだと思います。

国債が増え続けたら、将来世代の負担はどうなる?

Yuichi Yamazaki / Getty Images

ーー「MMT」に代表されるこうした通貨発行益の使用については懐疑的な声も少なくありません。こうした声はどのように受け止めますか?

それだけ、日本は長年、財務省の論理によって支配されてきたということです。政治も世間も、そう簡単には変わりません。

私自身はこのような主張を25年以上前から一貫して続けています。当時は孤立無援の状態でした。

ですが、少しずつ状況が変化して、「MMT」をきっかけに一般の人にも認知されるようになってきた。

ですが、これだけ「MMT」の理論が知られるようになっても、まだ財務省や一部の専門家は「古い経済学」を守ろうとしています。

インフレに転じる予兆が見えたら、しっかりとコントロールすれば良いんです。

物価上昇率はモニタリングして、2%なり3%なり設定した基準に達した段階で止めれば良いと私は考えています。

「そんなこと、本当にできるのか?」と疑問に思う方もいるでしょう。

一部の専門家は金利が上がり、日銀が債務超過になった瞬間に機能停止し、国債の暴落とハイパーインフレが一瞬で起きると主張しています。

しかし、これはあまりに先鋭化した意見です。そもそも日銀は債務超過になったとしても潰れません。

ーーとはいえ、このまま赤字国債を発行し続けたら、将来世代への負担が増えるのではないかという不安は残ります。

ですから、国債は日銀が永久に持ち続けていれば返す必要はないんです。

通貨供給量というのは、必ず右肩上がりなんです。日本なんて、成長していないにもかかわらず、通貨供給量はどんどん増えてきた。

別に借金が増えても、それを無限に増やしていけば、どの世代も負担する必要はありません。

金融調整の時に、「日銀が持つ国債を減らさないといけない」「バランスシート調整をしないといけない」と言う人もいますが、そうではない。

金融引き締めの時は通貨供給量の増分を減らす。だから、日銀が持つ国債の伸び方を減らせば良いだけの話で、借金の残高を減らす必要は全くないんです。

ーーまだまだ、日本においては財政健全化を目指すべきだという声が主流派です。今後に向けてはどのようなことを期待しますか?

これまで財務省が唱えてきた経済理論が実は間違いであるという認識は、なかなか浸透していきません。

それほどまでに、これまで財務省が主張してきたロジックは強固なものだった。

ですが、このコロナ禍で、日本も財政支出を増やしています。どれほど緊縮派の方々であっても、今は一旦財政出動することに賛成の立場の人も少なくありません。

こうして、実際にやってみると積極財政の考え方には実はそれほど問題がないことを理解していただけるのではないかと思います。

変化は確実に訪れています。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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