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手袋の着用、学校の消毒で新型コロナ感染は防止できるの? 過剰な感染対策を減らすためのポイントとは

スーパーや飲食店では店員が感染対策として手袋を着用していることも。効果が期待できない中で続けられてる対策とは。

新型コロナウイルス感染症が日本で拡大し始めてから、半年以上が経過した。

当初は未知のウイルスとして、様々な対策が講じられたが、どのような環境や行為によって感染が広がるのか、ウイルスの性質が少しずつわかり、適切な対策が何かわかりつつある。

そのような中、効果がないにも関わらず続けられている対策や、むしろ感染を拡大しかねない対策も存在する。

聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャーで感染症対策の専門家・坂本史衣さんに話を聞いた。

まずは、どのように感染するのか経路を知って

(1)スーパーや飲食店で店員が感染対策として手袋を着用しているケース

(2)学校の校舎などを保護者や地域の人が集まり、広範囲の消毒を行うケース

(3)フェイスシールドを着用しているケース

今回、BuzzFeed Newsは坂本さんに見解を伺ったのは、この3つのケースだ。

適切な感染対策がどのようなものか理解をする上で、まずは感染経路について適切に理解することが重要だと坂本さんは指摘する。

新型コロナウイルスは目や鼻、口など粘膜を通じて感染する。そのため、手に付着したウイルスが皮膚から感染することはない。

その上で、自分自身がいる環境のリスクについて適切に理解する必要がある。

「ウイルスがその環境にいるのか、いないのかというゼロイチで考えてしまうと、少しでもいれば『怖い』と感じ、心配になるかもしれません。ですが、実際には環境表面に感染性のあるウイルスがいる可能性がどれだけあるのかという視点、つまり、リスクをグレードでとらえる必要があります」

「病院以外の生活環境、スーパーや学校などで考えてみると、自分が実際に触れる環境にコロナウイルスがいる可能性はゼロではありませんが、高くもありません。巷にたくさんの感染者がいて、周囲に大量の飛沫を飛ばしながら歩いてる状況なら環境汚染のリスクは高いでしょうが、そうではありません」

「また、身体から出たウイルスは現実世界の環境表面でそれほど長く生きていられないだろうと考えられています。ある環境表面に感染性のあるウイルスが残っていて、そこにたまたま触れた手に付着して、さらに感染力を失わないうちに手で顔の粘膜に触れ、細胞に感染するという複数の段階を必要とする接触感染は、飛沫感染に比べてとても効率の悪い感染経路です」

たとえ1%であっても、接触感染のリスクがあれば潰しておきたいという思いを抱く人もいるかもしれないが、その小さなリスクを潰すために要する労力は多大なものだ。それらを天秤にかけると、リスクに見合った過少でも過剰でもない対策を行うことの方が継続できる可能性が高いと言える。

手袋の着用は「誤った安心感」につながる?

手袋を常にはめていたとしても、何かの拍子にウイルスが付着し、そのまま顔などを触ることで粘膜を通じて感染する可能性があることには変わりはない。

では、その手袋を付けたまま、こまめにアルコール消毒をすれば良いと考えてしまうが、その場合には手袋に穴が開く可能性が高くなると坂本さんは指摘する。

「この感染症が皮膚から感染するのであれば、手袋をして皮膚を守ることが有効でしょう。ですが、新型コロナウイルスは皮膚からは感染しません。そのような中で、手袋をつけ続けることは感染防止効果よりも、ウイルスが付着したままの手袋によって感染を拡大してしまう可能性があります」

例えば、飲食店など食品を扱う場面では、手袋をつけて残飯などを片付けた後に、次の食事の盛り付けなどを行うことで食品汚染が生じる可能性がある。

坂本さんは「あちこちに触れて汚染を広げる可能性があるため、病院では手袋をつけっぱなしにしないよう言われています」と語り、こうしたポイントは感染防止を行う上で基本であるとした。

「手袋をつけて接客するたびに消毒するよりも、自分の手を食品などに触れる前には洗うか消毒するという対応を行う方が誤った安心感にはつながりにくいでしょう」

ウイルスは皮膚から感染しないこと、何かに長時間付着し続けることは考えにくいことを踏まえ、レジ打ちなどの対応であれば、接客を終えるたびの消毒も原則必要ではないと坂本さんは言う。

「こうした過剰な感染防止対策は気持ちの問題なのだと思います。心配な気持ちもあるかもしれませんし、不安だから始めた取り組みほど変えることが難しいのかもしれません。ですが、基本的な感染経路やウイルスの特性について現時点でわかっていることを踏まえて、日常生活における対策は少しずつ見直していくべきです」

学校の消毒は?「通常の掃除で十分」

東京新聞は9月12日、「保護者が校舎消毒します 府中市立府中第五小で自主組織が初出動『教員の負担軽減に』」という記事を公開し、東京のある小学校で保護者らが子どもたちの校舎の消毒活動を行っていることを伝えた。

しかし、こうした対応も感染経路や感染リスクを踏まえると、やや過剰に思える。

「感染者が多発していない限り、人がよく触る場所であってもウイルスが付着している可能性はそこまで高くありません。必要以上に広範囲な消毒を行う必要はなく、通常の掃除で十分です。これまで子どもたちが掃除をしていたのであれば、掃除後に石鹸と流水で手洗いをすれば感染するリスクは低いでしょう。手洗いはそのほかにも食事の前や外で遊んだ後、トイレの後などに行う程度で良いでしょう」

「掃除だけでなく、その前後で会話などをすることを考えると、むしろ様々な人が学校に来て、掃除をする方が感染するリスクが高くなる恐れもあります」

フェイスシールド、どのような場面で有効?マスクでは不十分?

街中を見ると、店舗で働く人々がマスクとフェイスシールドを着用している場面を目にする。

フェイスシールドはどのような場面で着用することで効果を発揮するのだろうか。

「フェイスシールドは病院で、自分が感染することを防ぐために使うものです。口から出る飛沫を抑える効果はマスクに比べて低いことが指摘されており、人に感染させないために使うものではありません。そのため、使う場合にはマスクと組み合わせて使います。単体で使う場面は病院ではありません」

「誰かと近くで会話する場面で、相手がマスクをしていない場合には目を覆うという対応は悪くはないと思います。ただ、現在は多くの人がマスクをしていますし、レジなどではビニールなどで衝立が作られていることを考えると、常に使用する必要はないでしょう」

最低限の対応として、人との距離が近いときにマスクを着用していることの方が感染防止を考える上では重要だ。

また、口元を覆う透明なマウスシールドを着用する人の姿も時折見かける。これらはどのような効果が期待できるのだろうか。

坂本さんは、(1)不織布または2層以上の布製マスクが推奨されている、(2)布製は別々の素材を組み合わせたマスクほど飛沫は出にくい、(3)顔にフィットしている方が飛沫は出にくい、こうしたマスクの有効性を上げる3つのポイントに言及した上で、マウスシールドはウイルスの排出を防ぐ上でも吸引を防ぐ上でも「心もとない」と評価する。

まずは不織布または布製のマスクを選択することが感染防止を行う上で有効であることを強調した。

情報のアップデートを

坂本さんは「新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初から時間が経過する中で、情報のアップデートが上手くできていない一面がある」と指摘する。

「どのような行為がリスクが高いのか、その理解が3月や4月の段階で止まってしまっている人もいるのかもしれません。そういう人に届くような情報発信が不足している可能性があります。接触による感染を危惧する方もいますが、それを防ぐための取り組みはそこまで過度に行う必要はありません」

むしろ、気を付けるべきなのは飛沫感染のリスクだ。

「最も感染リスクが高いのは、互いに近い距離で、対面で、マスクを外して会話をすることです。まずはこうした行為を大人が止めて、家の外で無防備に飛沫を浴びないよう対策に努める必要があります。過度な校舎の消毒などを行う前に、注力した方が良いポイントがあります」

「子どもがマスクを付けずに遊んでいるからどうにかする、学校で感染する可能性があるから消毒をするということではない。まずは全ての大人が日々の生活の中にあるリスキーな行為をどれだけ避けることができるかということです」

外食に行くことをやめる、対面で会議を開くことを避けるということではなく、安全な方法を探っていくことが必要だと坂本さんは言う。

リスクの高い行動を避けることができれば、旅行もコンサートも問題ないことは明らかになりつつある。

無症状であっても、発症直前の時期はウイルス量が多く他人に感染させてしまうことがわかっている。だからこそ、「自分の目の前で楽しそうに話をしている人、あるいは自分自身が感染しているかもしれない」ということを前提に、飛沫感染への防止策を考える必要がある。

まずは、どのような環境、行為にリスクがあるのかを理解することから始まる。

「感染対策を行う上で、難しいのは人の行動を変えることです。個人の判断と意思に依存する対策の徹底が最も難しい。どれだけ呼びかけても、100%を達成することはできません。ですが、協力してくれる人の割合は増やすことができると思います」