「日本学術会議」の新たな会員として推薦された学者6人の任命を、菅義偉首相が拒否したことをめぐる問題。
この問題について、橋下徹・元大阪府知事は「学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ」とTwitterに投稿した。
橋下氏が投稿した「税金は投入されていない」という情報は誤りだ。橋下氏はその後、自らのツイートが説明不足だったと引用リツイートで述べている。
しかし、最初のツイートが広く拡散し、1700回以上リツイートされている。
この部分に関し、BuzzFeed Newsはファクトチェックを行った。
財務報告書を見ると…
学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ。学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ。年1500円ほどの会費で今の予算は確保できる。学士院の終身年金も時代にそぐわない。文科省は何をやってきた!前川喜平が次官になるようなダメダメ役所だ https://t.co/H4XkxviQrf
「学者がよく口にするアメリカとイギリス。両国の学者団体には税金は投入されていないようだ」と述べた上で、橋下氏は「学問の自由や独立を叫ぶ前に、まずは金の面で自立しろ。年1500円ほどの会費で今の予算は確保できる」と主張する。
だが、そもそもアメリカとイギリスの学者によって組織される団体にも政府からの税金は投入されている。

アメリカの「National Academy of Science(NAS)」の財務報告書(2017年)では「NASの活動の大部分は、米国政府との実費精算契約および補助金に基づいて行われています」と報告されている。
2017年度では38%にあたる6830万ドル(日本円で約72億円)、2016年度では36%にあたる6700万ドル(日本円で約70億円)が政府との契約や補助金によるものであると報告書には記されている。
イギリスの「王立協会」は1849年から補助金を受け取り

また、イギリスの「The Royal Society(王立協会)」にも政府から税金が投入されている。
王立協会の財務状況を伝える欄には「Grants from government(政府からの補助金)」というページが設けられ、どのような補助金を何を目的に受け取っているのかが明記されている。
「王立協会は、ビジネス、エネルギー、産業戦略に関する部門からの補助金を受け取っています。これは、科学的な卓越性と技術革新、科学と数学教育、国際的な活動と科学コミュニケーション活動の仕事をサポートするものです」
1849年以来、王立協会では政府からの補助金を受け取っていると説明した上で、「合意された様々な目的のため、協会によって使用されています」としており、支出は所轄官庁と監査局による審査の対象となることが明示されている。
補助金の使い道などを申請する際に提出された資料もホームページ上で公開されている。
2011年から2016年の5年間で、イギリス政府は2億3600万ポンド(日本円で324億4941万円)の補助金を王立協会に投じている。
「各国全てのアカデミーは政府からの支援を受けている」

日本学術会議も2000年から2002年にかけてアジア、ヨーロッパ、北アメリカの43のアカデミーを調査し「各国アカデミー等調査報告書」という報告書をまとめてる。
その報告書で、日本学術会議の予算が全額、国費で成り立っていることを「比較的稀なケース」としている。そのうえで、「各国全てのアカデミーは政府からの支援を受けている」とし「その依存率は 30~80%程度で様々であり、何らかの形で政府以外から費用を賄っている」と報告している。
アメリカのNAS、イギリスの王立協会の財務報告を見ても、補助金や政府との契約などのかたちで、政府から資金を得ている。直接的、間接的に税金が投入されていることは、明らかだ。
ネット上では「税金でやっているのは日本だけ」という言説も度々拡散されているが、こうした言説も誤りだ。
橋下氏はアメリカ、イギリスの「学者団体には税金は投入されていない」とツイートした1時間後、「これは説明不足だった」と元ツイートを引用リツイートした上で説明し直した。
「アメリカやイギリスでは、日本のように税金で学者団体を丸抱えすることはないが、学者団体に仕事を発注して税金を投入する」とした上で、「日本の学術会議も同じく早く非政府組織となって政府から仕事を受ける団体になるべき」と主張した。
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。
UPDATE
この記事の対象言説は、FIJの共有システムで覚知しました。
その後、橋下氏が説明し直していることが分かったため、表現を一部改めました。