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日本の感染者激減はいつまで続く? 今年は帰省してもいいの? 感染研所長に聞く、今後の見通し

第6波は来るのか? 感染研の脇田所長は年末年始が「山場」になるとの見通しを示した。

新型コロナウイルス感染症の第5波収束から1ヶ月以上が経過した。

注目が集まるのが第6波到来を含めた今後の動向だ。

ワクチン接種率の向上や治療薬の登場など、コロナとの戦いは徐々に前へと進んでいる。

今後の見通しや年末年始に注意すべきことについて、国立感染症研究所の脇田隆字所長に聞いた。

※取材は11月24日午前に行った。情報はその時点のものに基づく。

日本の感染者激減はいつまで続くのか

ーーこの冬、第6波はやはり来るのでしょうか? イギリス、ドイツ、韓国などではワクチン接種が一定程度進んだにもかかわらず、感染が拡大している状況です。

諸外国の状況は今後の見通しを立てる上で、非常に参考になると考えています。

海外で感染が拡大している国がありながら、なぜ日本ではこれほどまでに感染状況が低く抑えられているのか。

この点について検討する上では、複数の要因について触れなければいけません。

まず1つが日本と海外のワクチン接種の開始時期の違いです。

日本ではワクチン接種のスタートダッシュが遅れが、第5波の感染拡大へとつながりましたが、その一方で接種時期が遅れたものの短期間に接種が進んだことで今も多くの国民がかなりの抗体価(抗体の量)を保有している、ワクチンの効果がかなり持続していると考えられます。

2つ目が季節的な要因です。新型コロナはこれまで冬になると、感染拡大してきました。気候を考えると、特にヨーロッパなどは日本よりも早く寒くなる。この影響も考えられます。

3つ目が規制緩和のスピードです。諸外国ではワクチン接種率が一定程度に達した段階で大幅に規制を緩和してきました。

基本的に規制を緩和するのであれば、段階的に、かつ感染状況をできる限り抑えた段階で緩和することが望ましい。しかし、海外には大胆な規制緩和を実施した国も少なくありません。

これらの要因が日本と海外との違いを生み出しているのではないでしょうか。

また、現在は夜間の繁華街の滞留人口を見ても、昨年秋のレベルよりもまだ低いことが明らかになっています。そして、多くの人がマスクを着用し、今も基本的な感染対策を続けている。

こうした要因も日本の感染状況を低く保つことにつながっていると考えるのが妥当です。

ーー年末年始には感染拡大に警戒する必要があるのでしょうか?

今後、感染拡大の要因となると考えられるのが年末年始の恒例行事です。昨年もこの恒例行事をきっかけに全国的に感染が拡大しました。

年末年始には忘年会や帰省などで、普段会わない人との交流が活発になります。となると、感染拡大のきっかけとなる可能性はあります。

しかし、巷では今年は大人数の忘年会を予定していない企業も少なくないようです。報道などでは必ずしも皆が忘年会を求めているわけではないといった声も取り上げられています。

こうした事情から、どこまで実際に忘年会が開催されるのかはわかりませんが、現在のように感染対策を継続しながら感染状況を低いレベルに維持し続けることができれば、感染拡大が起きたとしてもそこまで激しいものにはならないかもしれません。

やはり山場は年末年始です。そこを上手く乗り越えることができれば、それ以降はそこまで大きな感染拡大を起こさずに済むかもしれない。私はそのような未来を期待しています。

どのような予測が提示されるのか、どのようなメッセージが出されるのか次第で人々の行動は変化する。こうした要素も念頭に置いた上で、感染状況を注視しなければいけません。

“山場”の年末年始、帰省はどうすべき?

ーー年末年始が山場、という話がありましたが帰省は昨年よりも増えることが予想されます。その際に注意すべきポイントはありますか?

やはり昨年に比べて今年は帰省する人が増えるのは間違いないでしょう。

普段は別々の場所で暮らしている家族が一堂に会すこともあると思います。すでに2回のワクチン接種を終えていれば、なおさら今年は帰省したいという思いも強いでしょう。

その際に注意していただきたいのが、どの程度リスクの高い行動を取るのかということです。

家族と久々に会えば、食事をしたり、お酒を飲んだり…といったことをしたくなる気持ちもよくわかる。

そのような行動をするのであれば、まずはワクチン接種を受けていただくのが望ましい。

そして、日常生活ではマスク着用など基本的な感染対策をしっかりと講じていただき、少しでも感染するリスクを下げていただければと思います。

ーー脇田先生個人としては、こうした恒例行事についてどのように考えていますか? たとえば帰省するにしても、時期をずらすのか。あるいはこれだけは徹底することで感染リスクを下げる、といった工夫はありますか?

そうですね…

緊急事態宣言が解除されて県外への移動の自粛要請も解除された段階で私も一度、家族に会いに行きました。

その際には家族の家には泊まらず、ホテルに部屋を取って、そこに宿泊しました。

今年の年末年始はどうするのかは未定です。ですが、時期をずらして帰省が可能なのであれば、人の動きが多くなる年末年始以外の時期に帰るのもひとつの選択肢かもしれません。

ーー他の恒例行事としては年明けの成人式もあります。こうした場も普段会わない人と会う場となりますが、注意すべきポイントはあるのでしょうか?

基本的にはコロナ禍における結婚式などの開催と同様の考え方をとれば良いと思います。

まず第一に、感染状況に注意が必要です。

合わせてワクチン接種も重要です。どの程度の人々がワクチンを接種しているのかは考慮しなければいけません。

その上で開催をするのであれば、「ワクチン・検査パッケージ」を活用してワクチン接種証明書や検査を受けて陰性であることを確認することが望ましいと言えるでしょう。

やはり大人数がひさしぶりに集まるイベントですから、こうしたツールの活用はお願いしたいです。

まだ「終息宣言」はできない

ーーポストコロナの社会に向けて、今後はより一層、社会経済活動が活発化する見通しです。マスク着用などの基本的感染対策はいつまで必要なのでしょうか?

9月に分科会が「ワクチン・検査パッケージ」の提案をした際、京都大学の古瀬祐気准教授に今後のシナリオを分析してもらいました。

その際、60代以上の90%、40〜50代の80%、20代〜30代の75%がワクチンを接種する「目標となるシナリオ」では、接触率を40%程度減らすことで新型コロナによる被害を一定程度に抑えることができるという見通しが提示されています。

死者は発生しますが、10万人を超えるような死者や病床が逼迫するほどの医療負荷は発生しないという予測です。

この40%程度の接触率削減は、マスクなどの基本的な感染対策を実施しているという想定です。

日本国内のワクチン接種率は「目標となるシナリオ」よりも高くなる可能性があるため、感染対策は結果的にもう少し緩和できるかもしれない。

ですが、いま基本的感染対策すべてをやめてしまうと、再びの感染拡大は避けられません。

現在、国内の感染はゼロになったわけではありません。いまだにどこかで感染の火種がくすぶっています。それが時々医療機関や高齢者施設などのクラスターとして顕在化している状況です。

まだ「終息宣言」はできない。これがアドバイザリーボード後の会見などでも、基本的な感染対策を続けていただくようにしつこくお願いを続けている理由です。

ーーコロナの感染拡大開始から間もなく2年が経過します。コロナとの戦いはかなり前へと進んだと考えて良いのでしょうか?

前進したことは間違いありません。ただし、まだまだわからないところも少なくない。

これまでは流行のピークから感染者が減少しても下がりきらず、繁華街のホットスポットなど一部で感染がくすぶっていました。しかし、現在では特定の場所で感染がくすぶっている状況にはありません。東京においても非常に低レベルではあるけれど感染が継続していると考えられます。

第5波収束の要因についても、わからない部分もあります。

ワクチン接種の効果や医療崩壊が報じられることによるアナウンスメント効果など、複合的な要因による結果だと考えていますが、どの要因がどの程度寄与したのかを100%明らかにすることは難しい状態です。

このウイルスは5人に感染したとすると、そのうち1人しか二次感染を起こさないという特徴を持っています。

こうしたウイルスの特性もある中で、ワクチン接種率が高まったことにより二次感染の流れが絶たれたのか、それとも別の要因が大きいのか、現時点ではわかりませんが分析は続けています。

ーー米・NIHのファウチ所長は11月16日、ブースター接種が進めば来春にも米国内の感染は「エンデミック」になるとの予測を打ち出しました。日本も同様に「エンデミック」に向かうのでしょうか?

※エンデミック:ある感染症が一定の地域に一定の罹患率で発生すること。風土病と同義。

現在のアメリカの感染状況を見ると、本当に来年春にエンデミックになるのか?と個人的には半信半疑な部分もありますが、いつかは必ずコロナは「エンデミック」になります。

ですが、それがいつになるのかを予想するのは難しいというのが実状です。

日本ではワクチン接種が進み、抗体カクテル療法が実用化され、内服の治療薬も間もなく導入される見込みです。

コロナと戦う武器が増えてきたことは間違いありません。日本もかなり多くの人々にワクチン接種を進めたことで、かなり良い状況に持ち込むことができました。

しかし、ワクチンだけでは感染拡大を食い止めることができないということは諸外国の状況からも明らかです。

抗体カクテル療法や治療薬などの組み合わせを上手く使っていくことによって、ようやくコロナが「エンデミック」になるシナリオが見えてきます。