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コロナワクチンの接種は何回必要なの? ブースター接種はなぜ原則8ヶ月後? 感染研所長に聞きました

ブースター接種は高齢者や持病を持つ人以外も受けるべきなのか。そして、ワクチン接種はいつまで続くのか。感染研所長に聞いた。

日本国内の感染状況が落ち着きを見せる中、ブースター接種(3回目のワクチン接種)の準備が進められている。

高齢者や持病を持つ人以外も接種を受けるべきなのか。今後もワクチン接種は4回目、5回目と続いていくのか。

国立感染症研究所の脇田隆字所長に聞きました。

※取材は11月24日午前に行った。情報はその時点のものに基づく。

ブースター接種は誰もが受けるべき?

ーーブースター接種は2回目接種から原則8ヶ月以上が経過した18歳以上の希望者への接種となるという方針が示されました。高齢者や持病がある人以外の重症化リスクの比較的低い人々もやはり接種することが望ましいのでしょうか?

ブースター接種を何のために行うのか。この目的を再確認することが重要です。

新型コロナワクチンを「努力義務」として皆さんに接種をお願いした当初、しっかりと確認されていたのは発症予防効果や重症化予防効果でした。ですが、今では感染リスクや二次感染を減らすことができることも明らかとなっています。

先日のワクチン分科会でも、新型コロナワクチンの接種は「感染拡大防止及び重症化予防のため」であることが明示されました。

たしかに感染した人の多くは重症化しないのも事実です。特に若い人の重症化率は低い。ですが、自分が二次感染させた誰かが重症化する可能性は常にある。

私たちが新型コロナワクチンを接種するのは感染拡大防止をするためであり、そして重症化を防ぐためです。

ーー1回目、2回目と異なる種類のワクチンを接種する交互接種についてはどのように考えていますか?

前提として、現時点で日本国内において3回目接種の承認が下りているのはファイザー社のワクチンのみです。

ですから、まずは医療従事者や高齢者などへのブースター接種はファイザー社のワクチンで進めていくことになります。

今後はモデルナ社のワクチンも3回目接種の承認が下りる可能性があると思います。少しだけ事情が複雑になるのは、複数のmRNAワクチンが選択可能になったタイミングでしょう。

もしかすると、「3回目はファイザーのワクチンをうちたい」「モデルナをうちたい」といった希望を持つ方がいるかもしれません。

その場合には、自分が希望する種類のワクチンを選択していただく形でも構わないと個人的には考えています。

ただし、自分の希望には沿わない種類のワクチンであったとしても、ブースター接種できる順番が回ってきた場合には、接種を前向きに検討することをおすすめします。

世界のデータを確認している限りでは、mRNAワクチン同士であれば基本的には有効性に大きな差はありません。ですから、ブースター接種についても同様ではないかと考えています。

なお、ノババックス社製のワクチンなどmRNAワクチンではないタイプとの交互接種については引き続きデータを注視する必要があると思います。

5歳〜11歳の子どもへの接種、検討すべきポイントは…

ーーアメリカではCDCが5歳〜11歳の子どもへの新型コロナワクチンの緊急使用を推奨しています。また、日本でもファイザー社が5歳〜11歳の子どもに対するワクチン接種の承認申請を行いました。

アメリカやイスラエルでは、感染者の中で子どもが占める割合が高くなってきています。

子どもが他の世代へと感染を拡大しているわけではありませんが、子どもの感染者数自体が増えている。

重症化リスクが非常に低いということは事実ですが、とはいえ子どもの感染者数の母数が増えていけば、基礎疾患を持っている子どもなどが重症化する可能性も高まります。また、5歳以下の子どもについてはすでに重症化するケースも報告されています。

そのため子どもたちの間での感染拡大を抑えることが重要であることは間違いありません。

5歳〜11歳の子どもへのワクチン接種が承認されたとしても、12歳以上と同様に接種の努力義務を負う形にするのかどうかについては議論を進めなければいけません。

その際には、小児科の先生方などの意見にしっかりと耳を傾けなければいけないと考えています。

ーーHPVワクチンをめぐる前例もある中では、より慎重な検討が必要となるのでしょうか?

子どもへのコロナワクチン接種は非常に難しい問題です。

例えば長期の安全性について不安に思う方がいるかもしれません。

実際、子ども一人ひとりへのコロナの影響を踏まえると、それほど感染した場合の重症化リスクが高いわけではないのも事実です。こうした前提の上で、それでもワクチン接種が検討されているのは基本的には子ども達の家族や学校、ひいては社会全体の感染防止のためでもある。

社会全体の感染拡大を食い止めるために、子どもに接種に伴うリスクをどの程度引き受けてもらうことが妥当なのかといったことについて考える必要があります。

4回目、5回目…接種はいつまで続くのか

ーー日本ではブースター接種の準備が進む中、イスラエルは4回目の接種が必要になった場合に備えた準備を始めたことが報じられています。今後も4回目、5回目と毎シーズン接種することが必要になるのでしょうか?

このワクチンは非常に短い時間で開発され、その後臨床試験を行い、実用化されました。

有効性や安全性は確認されていますが、長期的な見通しについては手探りな状態であるのも事実です。

現在では2回目接種から6ヶ月程度経過すると効果が減退することがわかっています。そのため、3回目の接種が進められています。

しかし、3回目の接種から6ヶ月程度経過すれば、再び効果が減退するのかどうかについては現時点では不明です。

一般的なワクチンには3回の接種を行うことで免疫を獲得できるというタイプもありますが、コロナワクチンがそのようなワクチンであるかどうかはわかりません。

インフルエンザワクチンを毎シーズン接種するのは、その年によって流行する株が変わるため、コロナワクチンに比べると有効性が低いため、そして有効性の持続期間が短いためです。

コロナはインフルエンザほど株の変化は早くないと考えていますが、新型コロナワクチンも毎シーズンの接種が必要になるのかどうかは不透明です。

まずは今後の状況を注視していく必要があります。

イスラエルは他国に先駆けてブースター接種を開始しました。そのため、イスラエルの感染状況やブースター接種を受けた人々の抗体価をチェックしながら今後に備えていくことになるでしょう。

8ヶ月経過を待たずに、一部前倒しも視野に

ーーブースター接種については6ヶ月後から接種可能なのか、それともやはり8ヶ月後からの接種を基本とすべきなのか。一部で混乱も広がっています。

厚労省のワクチン分科会においては、世界各国のブースター接種の状況を踏まえて2回目接種後8ヶ月という条件で提案がありました。

医学的な知見を踏まえると抗体の減少は8ヶ月よりも早い可能性はある。しかし、今後の接種スケジュールを組む上では基本的には原則8ヶ月以上経過したタイミングでの接種で問題ないであろうという結論に達しました。

一方で、このブースター接種に使用するワクチンについては厚労省の薬事・食品衛生審議会で議論がなされました。

その審議会ではファイザー社のブースター接種について、申請があった2回目接種から6ヶ月以上の間隔を空ければ問題ないとする内容で承認が下りました。

これが議論の全体像です。

ただし、一部でブースター接種が2回目接種後6ヶ月後からの接種に前倒しされるような報道がなされ、自治体などに混乱が広がりました。

12月からは先行して初回接種された医療従事者の方たちへのブースター接種が始まります。自治体の現場では、その後に始まる高齢者の方たちへの接種券の配布準備を進めている状況です。

一度ブースター接種の受付を開始したけど、やっぱり止めますといった混乱を避けるためにも基本的には2回目接種から8ヶ月が経過したタイミングでブースター接種を行うというのが厚労省の方針です。

なお、11月19日の基本的対処方針分科会では、ブースター接種について高齢者施設などクラスターの発生が懸念される場所では8ヶ月経過を待たずに、可能であれば前倒しで接種を開始できないかといった意見も出ました。

ーーブースター接種の一部前倒しに関する意見が出たのはなぜですか?

これは諸外国の感染状況を踏まえたものです。

ワクチンの初回接種が日本よりも早く始まったヨーロッパなどでは、ワクチンの効果の減衰によってブレイクスルー感染が増えています。

日本は幸い、現在はこのような状況にありませんが、ワクチンによる抗体価が減少することによって近い将来同じ状況に陥るかもしれない。

ですから、重症化リスクの高い人々の間でクラスターが発生するといった事態を回避するためにも必要性が認められれば前倒しも躊躇しない姿勢が必要ではないか、機動的に接種を進めていく必要があるといった意見が出た形です。

もちろん、なし崩し的にスタートするのは避けなければなりません。ワクチンの確保や供給との兼ね合いもあるでしょう。そういった現実的な制約はしっかりと踏まえつつ、検討を進める必要があります。

原則的には、初回接種後8ヶ月の間隔でブースター接種を粛々と進めつつ、基本的な感染対策を続けることで、現在の非常に低いレベルの感染状況を継続することが重要です。

ただし、ブレークスルー感染による高齢者のクラスターなどの発生があれば追加接種による対応も検討すべきです。