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「やはり罰則ありきではなく…」 政府の法律改正案に感染症の専門家が思うこと

政府は感染症法や特措法を改正すべく検討を重ねている。罰則を軸とした改正も検討されていると報じられる中、感染症の専門家は何を思うのか。

新型コロナウイルスの感染拡大で改めて浮き彫りとなったのは、日本の現在の法律では強制力を持った措置を講じることができないということだ。

そんな中、政府は感染症法や特措法を改正すべく検討を重ねている。罰則を軸とした改正も検討されていると報じられる中、感染症の専門家は何を思うのか。

そして、新型コロナ対策の今後の鍵を握るものは何か。

国立感染症研究所・脇田隆字所長に話を聞いた。

【前編】このまま感染拡大続けば、「日本でも変異株が生まれる可能性はある」 感染研・脇田所長が鳴らす警鐘

外国人の入国全面停止、その評価

ーー政府は12月28日に外国人の新規入国を停止し、1月13日にはビジネス関係者の往来も停止しました。感染症対策の観点から見て、この決定はどのように評価しますか?

前提として、ビジネス関係者の往来を認めていた11か国は現在、それほど新型コロナの感染が拡大していない地域です。また変異株もこれらの国では国内での流行が確認されていませんでした。

そうした前提を踏まえると、11か国の方が日本へ入国することによる感染状況への影響は非常に少ないと考えられます。

ですが、入国を全面停止することによるアナウンス効果があることも事実ですし、あらゆるリスクを最小限にしようとする中での決断だと理解しています。

「罰則ありきではなく…」

ーーそのような中でイギリスからの帰国者が2週間の自主隔離期間中に会食し、他の人へ感染拡大したという事例も報告されました。日本では強制力を伴う感染対策を講じることはできません。

基本的人権を尊重するという法体系のもとで、どこまで感染対策を行うことができるのかについては十分に議論を尽くすべきであるという前提は非常に重要です。

その上で、今回の新型コロナウイルスの一件で我々は現在の法律や制度では、あくまで協力ベースの要請しかできないということを改めて認識しました。

様々な課題が感染対策の現場で明らかとなりました。どうすれば対策の実効性を上げることができるのか、という視点から法律のあるべき姿を考えていく必要があるのではないでしょうか。

ーー感染症法や特措法改正に向けた検討が政府の中で進められています。新型コロナ分科会は金銭的支援や罰則だけでなく、感染対策の現場で見えた課題を解消する必要性を繰り返し強調しています。

私個人の考えですが、やはり罰則ありきではなく、どうすれば感染対策の実効性を高めることができるのかという観点が重要だと考えています。

まずは感染対策への協力を義務化し、それが義務であるために様々な支援を行うという方向で議論を深めることもできるはずです。

義務化のプロセスを経ることなく、罰則を導入すべきかどうか…

ハンセン病やHIVなど、様々な感染症の歴史を踏まえた慎重な議論が国会でされることを望みます。

感染者の「異常な増え方」、背景は?

ーー1月8日の分科会後の会見では、東京や大阪での感染者数が「異常な増え方」であるとの報告もありました。

東京の感染者は12月31日に1000人を突破し、その後、1月7日には2000人を超えました。

東北大学の押谷仁先生は感染者数のベースラインが急に上がったことを説明するために、「異常な増え方」と表現したのだと思います。

たしかに12月には忘年会などに行った先で感染したという例は確認されています。また、年始では、ふだんはあまり会わない親戚が集まって会食をした例もあり、感染者数を増やす要因もありましたが、東京のベースラインは年末年始には1000人程度のところにあったのではないかと分析していました。

我々は当初、年末年始のお休みには人出が減り、その影響が年明けから見えてくると予想していました。そうした前提を踏まえると、感染者数のベースラインが押し上がっている。

そのため、あのような発信があったのだと思います。

感染者数を大幅に押し上げた要因としては、年末年始の会食の機会、民間の検査が増えた影響に加えて、年末に国会議員の方が亡くなった影響、それから自宅で新型コロナの方が亡くなっていたことなどが報道され受診行動が変化した影響などが考えられていますが、さらに分析を進める必要があります。

ーー今回の緊急事態宣言は特に飲食店に的を絞って、対策が強化されています。しかし、東京では感染経路不明の人が6割を超える中で、その大多数が飲食であると考えられるとの分析に異論を唱える方も少なくありません。

昨年1月から3月にかけては海外からの流入で感染者が増えました。しかし、その後は飲食の場を介してクラスターが発生し、感染者が増えています。そうした感染の火種が家庭や病院へと流入することで家庭内感染や院内感染が起きている。

この原因と結果の違いがこれまでのクラスター分析から見えてきています。これは時系列で見れば明らかです。

科学誌「Nature」にはレストランの再開が感染拡大に大きく寄与したという米国の研究データが発表されています。そして、日本の感染経路を追うことができている地方においては、やはり飲食を介した感染が家庭内と職場へ、さらに病院や福祉施設へ波及することが多い。

こうした実態を踏まえると、東京でも同様の傾向であると我々は考えています。

なぜ都市部では感染経路が追えないのに、地方では追えるのかと言えば、それは都市部特有の匿名性があるからです。

家庭や職場、病院や高齢者施設であれば、都会でもそこに誰がいるのか、誰がいたのかがわかります。ですが、大都市の飲食店でそこに誰がいるのか、誰がいたのかは基本的にはわかりません。

この年末年始に感染したと思われる人々の傾向を見ても、やはり会食をしたという方が多いんです。

家庭内感染を止めなければ感染拡大は抑えられないとの意見も耳にしますが、その家庭内感染を止めるためには「元栓」を閉める必要がある。それが、飲食の場が中心であるため、的を絞った感染対策強化を提言しています。

鍵は「どれだけのスピードで集団免疫を獲得できるか」

ーーやはり、今後の対策の鍵を握るのはワクチンと考えて良いのでしょうか?

そうですね、まだワクチン接種によってどの程度の感染予防効果が期待できるかは明らかではありませんが、どれだけのスピードで集団免疫を獲得できるかというところが焦点になります。

政府は2月末から、まずは感染リスクの高い医療従事者、そして感染すると重症化しやすい高齢者や持病を持っている人といった順番でワクチン接種をスタートする方針です。

副反応についてはアナフィラキシーショック(重いアレルギー反応)など、もともとアレルギー反応がある方については注意する必要があることがわかってきましたが、現段階ではそれ以外の大きな問題はないと見られています。

中長期的な影響については引き続き注視していくべきでしょう。

また、ワクチンの抗体がどれくらいの期間有効であるかはまだわかりません。できれば1年ぐらいはもってほしいとは思いますが、この点についても検証が必要です。

毎年打つ必要があるとなれば、インフルエンザのワクチン接種と同じような形になることも予想されます。

インフルエンザと同様に毎年ワクチンを製造するウイルス株の選定が必要になるかもしれません。

いずれにせよ、インフルエンザのワクチンを上回る数の接種となることが見込まれ、現場のオペレーションが非常に重要です。

医療機関はすでに手一杯なところもすくなくない。医師や看護師の方々にどのようにワクチン接種に協力していただくか、といった具体的な部分をしっかりと詰めていく必要があります。