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分科会は経済重視?政府の方針を追認するだけ? 新型コロナ分科会に関して広がる誤解にメンバーは…

東京を除外した上での「Go To トラベル」のスタート、「Go To トラベル」への東京追加など政府閣僚が分科会開催前に発表する方針。分科会は「政府の方針を追認しているだけなのではないか?」との声も上がるが、実態はどのようなものなのか。

東京を除外した上での「Go To トラベル」のスタート、「Go To トラベル」への東京追加など、度々、閣僚は新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会(以下、分科会)を開く前に政府の方針を発表する。

こうした方針は分科会開催前に発表されることもあり、分科会は「政府の方針を追認しているだけなのではないか?」との声も一部では上がる。

2月から新型コロナ対策を行う上で、医学的な見地から助言を行ってきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議)が廃止されたのは7月3日のことだ。

廃止前の6月24日には、専門家会議の構成員3名が日本記者クラブでこれからの専門家助言組織のあり方について提言を行っている。

政府と専門家の関係性は今、どのような状況にあるのだろうか。そして、どのようなものであるべきなのか。

専門家会議で座長を務め、分科会では会長代理を務める国立感染症研究所・脇田隆字所長に話を聞いた。

「事前に発表することはやめてほしい」

ーー東京を除外した上での「Go To トラベル」のスタート、「Go To トラベル」への東京追加など、閣僚が分科会に先立って方針を伝える場面が度々見受けられます。こうした点について、どのように捉えていますか?

あの発表は、イメージが悪いものでした。あのように事前に発表することはやめてほしい。

どのような思惑があるのかは分かりませんが、せめて、分科会にかけるまでは公表せず、分科会の場で議論をして、出た結論を発表してほしいというのが正直なところです。

専門家助言組織はあくまで提言を行う組織です。最終的にどのような政策、対策を行うのか決めるのは政府です。

ですが、まずは専門家が提言を行い、それを踏まえて政府が決定するという仕組みですから、そのような形で運用してくださいとお願いをしているところです。

政府からの提案を承認するための場ではありません。

ーー分科会で議論するトピックはどのように決められているのでしょうか?

分科会では、専門家の側から出すアジェンダ、政府の側から出されるアジェンダの双方について議論を行ってます。「Go To トラベル」やイベント、検査の考え方やワクチン、ガイドラインの話など、そのアジェンダは多岐に渡っています。

分科会のメンバーはこれは重要だということについて、例えば1回目と2回目の分科会後の会見で発表した検査のあり方等については、ずっと議論を続けてきました。次の分科会には叩き台を提出し、そこでの議論を踏まえて、まとめていこうという形で進めています。

そうした専門家側からの提言に加えて、当日のアジェンダに政府が検討を進めたいトピックが入ってくるイメージです。

構成員の方からは時間が足りない、資料をその場で見せられてもわからないとの声が上がる場面もあります。そのため、現在では以前よりもしっかりと時間をとって議論するようになりました。

「Go To トラベル」に関しては、政府は直前になってアジェンダにあのトピックを追加しました。ですが、政府から議論をするように要請される前から、専門家は旅行をはじめとする人の動きはどうしていくべきかと議論はしていたんです。

あの時期に、人の動きを活性化するようなことは推奨できないというのが当時の専門家の見解でした。ですから、分科会でも、我々は専門家として意見をお伝えしました。

やるならば、東京は外した方が良いということをお伝えしましたし、高齢者や若者の集団旅行や宴会を目的とした会社の慰安旅行は控えるべきだということもお伝えしています。また、この機会に新しい旅のあり方を考えてほしいということもお伝えしました。

しかし、どのような政策を行うか最終的に決めるのは政府ですから、そこをいかにして収めるか、尾身先生もだいぶ苦労されていた印象です。

報道などを見た一般の方からすれば、「何だ、分科会というのは政府の方針を追認しているだけじゃないか」と思われるかもしれません。あの出来事が、そうしたイメージを作ってしまった側面はあると思います。

でも、我々の基本的なスタンスは専門家会議の頃と変わってはいません。

分科会は経済偏重?

ーー分科会には経済の専門家も参加し、経済の立て直しに重きを置いているという意見もありますが、いかがですか?

周囲が思うほど経済偏重な議論は行われていない、というのが実状です。現在の分科会では、主に感染症対策の話をしています。

極端に経済についての議論に重きを置かれているのかと聞かれれば、そうではない。経済対策の話ばかりをしている状況はありません。

「Go To トラベル」をどうするのか、イベント開催制限をどうするのか。

こうしたトピックはもちろん経済活性化を考える上でも重要なことではありますが、分科会では、現在の状況でイベントをやるにはどのような感染症対策が必要か、どれくらいであれば観客の方を入れても問題ないのかといったことについて話をしています。

ーーイベントの開催規模の制限緩和(9月19日から5000人に設定されていた上限を緩和)については、専門家側からアジェンダに加えたのでしょうか?それとも、政府の側からの要請でしょうか?

これは、分科会で議論をして欲しいと政府の側から打診がありました。

当初、このイベント開催人数の上限は8月末まで5000人とされていました。

ですが、分科会では8月24日の段階で感染拡大状況を踏まえ、制限を緩和するのは「まだ早い」との結論に至り、その期間を延長すべきであると提言しています。

そうした中で、全国各地で感染拡大状況が下火となり、9月19日からの緩和について議論を行い、制限を緩和することになりました。

ーー安倍首相が辞任し、菅政権が誕生しましたが、分科会に影響はあると思いますか?

新型コロナ対策を担当する西村大臣は変わることなく、新政権でも担当されることもあり、どの程度影響があるのかは現時点ではわかりません。

尾身先生と西村大臣は毎日のように会って、ディスカッションをされています。ですから、西村大臣にはかなり情報がインプットされ、感染状況をどのように捉え、どのような判断を下すべきか理解されていると思います。

ですが、そうしたインプットが今後、どれだけ政策に採用されていくかはわかりません。

新しい政権は新型コロナ対策に意欲的に取り組む姿勢を見せていますし、検査を拡充する方針を示しています。

一般の方が不安に思っている課題に、積極的に取り組みたいという思いはあるかもしれませんが、どのような検査をどのように拡大するのか、様子見する必要があると感じています。

無闇やたらと検査を拡大していくことにどれだけ意義があるのか。必要となれば、専門家の立場から意見をお伝えすることになるかもしれません。

同時に、今後は海外からの渡航者を受け入れるなど、国境を少しずつ開けるための議論も必要となります。また、病院のスタッフや入院患者、介護施設の入所者や職員を対象にした検査を求める声も出てきています。

少しずつ感染が下火となり、検査体制に余裕が生まれる中で、保健所に負担をかけない形でこうした検査を実現することは可能か、検討が必要になる場面もあると思います。

地方の声が届くように。対策もより柔軟なものに

ーー分科会では地方自治体を代表し、鳥取県の平井伸治知事がメンバーに加わっています。地方の声を代弁する方が議論に加わったことによる変化はありましたか?

今回、自治体の代表の方に入っていただくのは、本当に大事だと僕らは感じています。

前回の4月、5月の感染拡大時には緊急事態宣言で完全に人の流れを止めて、全国一律で感染拡大の波を収束させました。その後、再び感染拡大する中で、見えてきたのは都道府県知事を務める方々のリーダーシップの重要性です。

ですから、彼らからどのようなことが問題で、現在の対策では何ができるのかをフィードバックしてもらうことはとても大事です。様々な地域に広がる感染拡大の火種をどれだけ把握し、消すことができるのか、それは地域ごとの感染対策にかかっています。

分科会においても、都道府県知事に、今何が必要か、何が問題か、状況はどのようなものか聞くことが重要だと思います。そして、その重要性は今後、特措法や感染症法の指定感染症のあり方を検討し、繁華街での対策を行っていく上で増していくでしょう。

指定感染症の措置を検討する上では、地域差に配慮する必要があります。東京のような地域では、若い感染者がいた場合には入院ではなく自宅やホテルでの療養で十分ではないかとなりますが、地方では自宅に置いておくなんてもってのほかという空気がある。温度差があるんです。

ですから、全国一律に進めるだけでなく、地域の実情に合わせた対策が取れるよう柔軟な仕組みが必要になるということがわかりました。

ーー平井知事の問題提起もあり、指標についても都市部と地方部で重視する項目が変化するなど、柔軟性が増してます。こうした変化はポジティブなものだと言えるのでしょうか?

分科会になってからのこうした変化は、ポジティブなものです。分科会となって良かった点だと言えます。

ーー分科会になってから、様々な個別具体の課題をワーキンググループで検討するという方法で議論が進められています。

検査のあり方、サーベイランス、そして保健所の情報を共有するためのハーシスの問題、偏見差別の問題などそれぞれの課題については、個別に検討を進めなければ、分科会の時間だけでは一向に進みません。

ワーキンググループを組織し、検討を進めるという方法は一定程度機能していると考えています。

ステークホルダーが集まり、集中的に議論をして、短期間で前に進めるということが上手く機能すれば、より実状に即した感染対策が可能になるはずです。

リスコミの課題は改善したのか?

ーー6月24日の提言では、リスコミの課題を問題提起されていました。専門家会議から分科会となり、この点は改善されましたか?

どうでしょうか…そもそも、専門家会議として発信していた形が良かったのか、悪かったのかわからないというのが正直なところです。

当時は、専門家会議の後に2時間程度の時間をかけて、様々な説明を行い、マスコミの皆さんからの質問を受けてきました。それらが生中継されることで、市民の皆さんが直接専門家の見解を知ることができたという側面がありました。

同時に、専門家から様々な話をしたことは反省点でもあります。政府と専門家助言組織は、全く違うことを言ってはいけませんし、ワンボイスでコミュニケーションをする必要があると今は考えています。

そうした背景から、提言の中ではリスコミの専門家を入れて、情報発信を行うよう求めました。

現在の西村大臣が前に立ち、尾身先生がそれを横で支える形を想定して、提言をしていたわけではないですし、分科会に参加していただいているヘルスケアコミュニケーションプランナーの石川晴巳さんが最後の記者会見を仕切っているわけでもありません。 

改善、進歩したと言えるのか。以前と比べ、ワンボイスでの発信を行うことはできていると思いますが、国民の皆さんが知りたいと思っていることに応えられているのかはわかりません。

ーー時折、西村大臣、尾身先生に加えて、脇田先生や押谷仁先生が会見に同席されることがありますが、あれはどのような狙いがあるのですか?

あの人選は尾身先生の判断です。その日、どのようなトピックがあるかを踏まえて、必要だと思ったメンバーに声をかけている状態です。

「今日は感染状況に関するトピックがあるから、脇田さん一緒に行ってくれる?」と声をかけられれば、僕が行くことになります。

突きつけられた10年越しの課題。今度こそ、感染症への備えを

ーー国の意思決定の仕組みの明確化、情報発信のあり方の見直し等は2009年の新型インフルエンザの統括会議のまとめでも問題提起されていました。そして、第一波が収束した6月24日に専門家会議メンバーからも提言されています。なぜ、ここまでこの課題は改善が進められてこなかったのでしょうか?

2009年の新型インフルエンザの流行時は、感染症の問題が本当に大きなものとして受け止められていなかった部分があったのではないかと思います。

喉元過ぎると熱さ忘れる、という言葉があるように、流行が収まれば「普通のインフルエンザだったね」という空気が広がったように感じます。そして、人間は実際に被害を受けなければその問題の重大性を認識できないことも多いのが現実です。

当時、統括会議から提言は出ましたが、その提言を実現しようというモチベーションが政府や社会にはありませんでした。結局は、絵に描いた餅になってしまった。

しかし、新型コロナは2009年のようにはならないのではないでしょうか。世界経済にこれほどまでに大きなインパクトを与えたからには、しっかりと感染症への備えを進めようとなるはずです。

韓国も中国も台湾も、SARSやMERSの経験を経て、感染症対策に力を入れました。だから、日本も今回の新型コロナをスタート地点に、感染症に本格的に備えるという方向へ進んでもらいたいです。

2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ、そして2020年の新型コロナウイルス。その間にはMERSもありました。次の感染症の流行は来ない、と考えている人がいるとすれば、それはあまりに楽観的すぎますよね。

現在の感染拡大をどう食い止めるかという対策だけでなく、中長期的な視点で見たときにどのように将来への備えを構築していくのかを考えていく必要があると思います。