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ワクチン接種後の抗体量減少、効果はどうなる? ブレイクスルー感染のリスクは? ブースター接種は? 専門家の見解は…

抗体価の低下はワクチンによって得られる効果の低下とイコールの関係ではない。現時点で確かと言えることは何か。

新型コロナワクチンによって得られる抗体価(抗体の量)の低下に度々、注目が集まる。

しかし、抗体価の低下はワクチンによって得られる効果の低下とイコールの関係ではないことに注意が必要だ。

専門家も「抗体価の低下によって予防効果が完全になくなったとは言い切れません」と語る。

抗体価低下の影響、ブレイクスルー感染、ブースター接種などについて国立国際医療研究センターの氏家無限さんに話を聞いた。

※取材は9月28日に実施した。

抗体価の低下で何が起きる?

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立国際医療研究センターの氏家無限さん

藤田医科大学は8月、ファイザー社製のワクチンを接種した209人の職員を調査。1回目から3ヶ月が経過したタイミングで、血液中の抗体価が2回目接種直後の4分の1に減少したことを報告している。

だが、抗体価が4分の1に減少しても、ワクチンの効果まで4分の1に低下したわけではない。

なぜか? 適切に理解するためには、免疫の働きについて知る必要がある。

「抗体は予防接種などにより抗原からの刺激を受けたことへの免疫反応で産生されます。こうした刺激がない状態が持続すれば抗体は産生され続けるわけではないので、徐々に減少していく。ですから、時間の経過とともに抗体が減少していくことは一般的な反応です」

私たちはワクチン接種によって免疫を獲得する。しかし、ここで言う「獲得免疫」にはいくつもの種類が存在する。

氏家さんは「抗体というのは血液などの体液中をずっと循環している『液性免疫』という免疫に分類され、ウイルスなどの病原体が体内に侵入した際に、まず最初に反応するもの」と説明する。

抗体が血液中に高いレベルで循環を続けていれば、「体内にウイルスなどの病原体が侵入した際にいち早く反応し、細胞に感染する前のウイルスの働きを抑制(中和)してくれる」という。

だが、ウイルスなどの病原体に対し、はたらきかける獲得免疫は「液性免疫」だけではない。もうひとつ、「細胞性免疫」と呼ばれる免疫が存在する。

重要なのが、細胞性免疫のキラーT細胞のはたらきだ。キラーT細胞は体内でウイルスが感染した細胞を見つけ出し攻撃する。この細胞性免疫のはたらきが、細胞に感染してしまったウイルスを細胞ごと排除することで、肺炎などの重症化を防ぐことにつながる。

抗体などの液性免疫だけではなく、キラーT細胞などの細胞性免疫の2つの獲得免疫がワクチンの予防効果を理解する上では鍵となる。

「抗体は病原体に対し1対1で対応するものなのでウイルスの変異などによって、対応しにくくなることがあります。一方で、細胞性免疫は感染した細胞そのものへの対応するものなのでウイルスの変異の影響を受けにくい傾向にあります」

Charly Triballeau / AFP=時事

ワクチン接種によって獲得する免疫に期待される効果には、様々なステップが存在している。

・無症状を含む感染自体を予防する効果

・発症そのものを予防する効果

・入院が必要となるような重症化を予防する効果

・死亡を防ぐ効果

こうした前提の上で、氏家さんは「抗体価の低下によって予防効果が完全になくなったとは言い切れません」と強調した。

「抗体がある程度減っていくことによって感染や発症の予防効果が低下してくると考えるのは自然です。ブレイクスルーによる感染が起きる可能性は高くなるだろうと思います」

「一方で、現時点での感染後の重症化予防の効果については、高いレベルで維持されていることを示す報告が複数あります。なので、抗体価の低下に対するブースター接種の適応を考える上では、何をどの程度予防したいのかという目的と照らし合わせて検討する必要があるでしょう」

ミュー株はワクチンが効きにくい? 科学的に言えるのは…

東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授らの研究グループは9月7日、新型コロナウイルスの変異ウイルス「ミュー株」について、ワクチンで獲得できる中和抗体の効果が従来株の7分の1以下だったとする査読前論文を「bioRxiv」に投稿した。

今後はワクチンの効果が期待できない変異が起きることも考えられるのだろうか? 氏家さんは次のように語った。

「ミュー株はこれまでの変異ウイルスにおいてワクチンで誘導される抗体を回避するとされるSタンパクの変異と同様の変異が見てとれます。なので、理論上はミュー株が抗体の免疫反応を回避する可能性は指摘されています。ですが、その変異が重症化予防効果などのワクチンで得られる効果の低下に直接つながるかどうかは現時点ではわかりません」

「また、実際のウイルスの広がり具合を見てみると、ミュー株が最初に確認されたのは数ヶ月前ですがデルタ株のような速度で広範に広がっているという疫学データはありません。実際の社会における流行状況で言えば、WHOの『注目すべき変異ウイルス(VOIs)』に指定されていますが、ミュー株に対応するために何か対策を変えなければいけないという段階には至っていません」

「仮にミュー株が広がった場合にはブレイクスルー感染が今よりも発生しやすくなる可能性はあります。ですが、社会全体への影響を評価するには感染性も考慮する必要があり、ミュー株自体は世界的に広がっておらず、この変異に関する臨床データは十分には揃っていないため、科学的にはこれ以上のことは言えません」

ブレイクスルー感染、分母と分子をしっかりと理解して議論を

Carl Court / Getty Images

ワクチン接種率が向上するにつれ、注目が集まっているのが「ブレイクスルー感染」だ。

ワクチンを2回接種済みの人が新型コロナに感染することを指す言葉だが、こうしたリスクについてはどのように捉えるべきなのか。

氏家さんは「第一に、分母と分子をしっかりと理解するということが重要です」と指摘する。

現在、日本国内では累計1億8000万回を超えるワクチン接種が行われた。2回の接種を終えた人の数は8400万人を超えている。

このように人口全体のうちワクチン接種済みの人が占める割合が高くなっていく中で、ブレイクスルー感染はどの程度発生しているのかを冷静に見極めていく必要がある。

和歌山県は2回のワクチン接種済み者が感染した場合、他者に二次感染させていた事例は約2割であったと報告している。ワクチン未接種者が他者に二次感染させていた事例は約5割であったことを踏まえ、「2回ワクチン接種は地域の感染拡大防止に効果がある」と結論づけている。

また、アメリカのCDC(疾病対策センター)はワクチン接種済みの人がブレイクスルー感染で亡くなる確率は0.01%未満であると報告している。

大きく報じられることで注目が集まるが、接種者全体から見ればブレイクスルー感染が起きる確率はごく僅かだ。

「ワクチン接種をすることで重症化を予防する効果が維持されていても、感染そのものを予防する効果は獲得免疫の漸減や感染性の高い変異ウイルスの感染拡大によって低下していくと考えられます。そのため、ワクチン接種が増えることで、接種後にも新型コロナウイルスに感染したブレイクスルー事例は増加することになります」

「ですが、これまでの報告例を見ると、感染源はワクチンを未接種でウイルス量が多く感染性の高い人であったり、免疫不全の方などのワクチンを接種しても正常な免疫反応が得られない人でブレイクスルー感染するといった事例も多い。ワクチン接種が進めば進むほど、ブレイクスルー感染が起きても、ウイルス量が多い期間が短くなったり、症状があまり出なかったりすることで二次感染は起こりにくくなり、感染の拡大が制御しやすくなっていきます。それに伴い、社会活動が再開されるので、また感染者の増加自体は起こりうると思いますが、重症化する人の割合は減ってくるはずです」

「ブレイクスルー感染だけを取り上げてみると、『ワクチンが効いていない』という誤解にもつながりかねません。全体における予防接種の効果をしっかりと理解した上での議論が必要です」

ブースタ接種の判断、医学だけでなく社会的議論も

Anna Moneymaker / Getty Images

3回目のワクチン接種を受けたアメリカのバイデン大統領

イスラエルでは3回目のワクチン接種(ブースター接種)が始まっている。

アメリカでも

・65歳以上の人
・18歳以上で重症化リスクの高い人
・医療従事者など感染リスクの高い職場で働く人

を対象に2回目の接種から少なくとも6ヶ月が経過した人へのmRNAワクチンを用いたブースター接種が始まった。

WHOは10月11日、新型コロナワクチンについて中程度、もしくは重い免疫不全の人たちへの3回目の追加接種を「標準化すべき」との見解を発表している。

岸田文雄首相は「早ければ12月から開始することを想定して準備を進める」とし、日本国内においても間もなく追加(3回目)接種が始まる見込みだ。

氏家さんはブースター接種について、「科学的にはリスクとベネフィット(利益)のバランスを考えた際にベネフィットのバランスが明らかに高い場合に広く使用が推奨される」と語る。

アメリカ・CDCのアドバイザリーボードは当初、65歳以上の人と18歳以上で重症化リスクの高い人のみを対象にブースター接種を推奨する見解を発表した。

しかし、その後、CDCのワレンスキー長官は医療従事者など感染リスクの高い現場で働く人に対してもブースター接種を認めるとし、対象を広げた。

氏家さんは、このCDC長官の決定は「バイデン大統領が既に追加接種に積極的な姿勢を表明し、医学的にもブースター接種をしない方が良いとのデータがない中で、いずれ必要になる可能性が高いのであれば、認めた方が良いという政治的判断だったのではないか」と指摘する。

その上で、「感染リスクが高いものの正常な免疫反応が期待できる医療従事者などに対しても現時点で追加接種を行うのかどうかは、ワクチンの安全性や有効性だけでは判断しきれない」とした。

どういうことか?

「ワクチンのブースター接種を検討する上では、まだ接種を受けられていない人々が世界にはたくさん残されているという問題を無視できません。世界を見渡せば、ワクチン接種は各国の所得状況に応じて進んでいて、まだ1回も接種を受けられない人が低所得国に多くいます。そのような中で、今、免疫機能が正常で既に2回の接種を完了している人に接種することが正しいのかどうか。医学的な正しさとは別に、社会的な正しさに関する議論も必要です」

Pool / Getty Images

日本におけるブースター接種に関する動きは、世界各国の動きを注視する中で加速している。ブースター接種の有効性や安全性に関する科学的な議論よりも先に、政治の側からの発信が活発となっている状況だ。

「他の国が既にブースター接種を開始していることを踏まえ、日本でも同じように年内には医療従事者への接種を始めるといった政治の側の声が報じられています。一方で、日本国内では、まだブースター接種することは薬事承認されていません。『海外と同じワクチンだから大丈夫でしょ?』と言われてしまうかもしれませんが、それで良いのであれば、国内の医薬品の製造販売の可否を評価するPMDA(医薬品医療機器総合機構)のような規制当局の存在意義が問われますし、具体的な追加接種の対象者の議論はこれからとされているところです」

氏家さんは「パンデミックへの対応などではスピードも求められるため、科学的な評価のみによる『べき論』だけでは語ることができない」と前置きしつつ、「先進国として一定の科学的な検討の担保は必要ではないか」と問題提起する。

「日本はここまで、新型コロナワクチンの評価に関して、多くを先行するアメリカやイギリスでの評価や判断などを参考にしています。一方で、国内での臨床研究等に基づく独自の評価や議論が少ない点は少し気になります」

「アメリカやイギリスのようにオリジナルのデータを出して評価することで、他国に参照され、議論をリードしたり、評価の基準とされたりすることに繋がります。近年、国内でのワクチンの開発や研究は決して活発ではなかったと思いますが、今後、社会環境などの条件が似ているアジア圏において、研究データに基づいた科学的な議論をリードすることが求められる立場にあるだろうと考えています」

より良い社会経済活動とのバランスを見出すためにも

時事通信

シンガポールではワクチン接種率が人口全体の80%を超えたことに基づき、社会活動を再開していく方向へ舵を切った。

現在、日本国内の感染状況は落ち着きを見せている。しかし、冬にかけて第6波が押し寄せると予想されている。

ワクチン接種が多くの人へと行き渡りつつある中で、今後はどのような舵取りが求められるのだろうか。

「感染対策と社会経済活動のバランスを模索する状態は今後もしばらくは続くことが予想されます。約100年前に世界的に流行したスペイン風邪は収束までに約2年を要しました。各国のワクチン接種率が上昇したことで、世界の社会経済活動は今後徐々に再開する方向へ進んでいくことは間違いありません」

「こうした社会経済活動再開への道筋は、新たな変異ウイルスの出現、ワクチン接種率やブースター接種の進め方、12歳未満の小児への接種の進め方などによっても変化します。制度面での問題が生じなければ、日本のワクチン接種率はかなり高い水準まで上がると予想しています。感染対策と社会経済活動のより良いバランスを模索するためにも、より多くの人にワクチンを接種してもらうための普及啓発、誤った情報への対応などが今後も引き続き重要です」