新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は5月29日、政府が出した緊急事態宣言の効果についての分析を示した。合わせて、新規の感染者が出たピークは4月1日頃だったと推測される、と発表した。
緊急事態宣言を巡っては「不要だったのではないか」という指摘が一部で上がっている。そのなかで、感染のピークが宣言が出た4月7日よりも前だったいうことをどう考えるべきなのか。
専門家会議は、感染拡大を防ぐ上では外出自粛の要請等だけでは不十分だったとし、緊急事態宣言は感染拡大と医療崩壊を防ぐ上で意味があったと位置づけた。
宣言前から減少傾向だった新規感染者
緊急事態宣言の発出と解除のタイミングについて理解をする上で鍵となるのが、「実効再生産数」だ。これは、1人の人が平均して何人に感染させているかを示す数値だ。「1」を超えると、感染が拡がっていることを意味する。
尾身茂副座長は「緊急事態宣言前から市民の行動変容によって新規感染者数は減少傾向にあったことは間違いない」との認識を示した。
また「緊急事態宣言後は下がった実効再生産数の数値が再び上がらず、そのまま宣言期間中を通じて低いままだった」と語った。
合わせて公開されたのが、東京都での実効再生産数の変化を分析した図だ。
3月25日に1.73だった実効再生産数が、4月7日にかけて大きく低下していることがわかる。
3月25日は小池百合子東京都知事が緊急記者会見を開き、「感染爆発重大局面」にあることを宣言し、不要不急の外出自粛を呼びかけたタイミングだ。
では、都知事が不要不急の外出自粛を求めて呼びかければ、緊急事態宣言がなくても感染拡大防止には十分だったのか。
データの分析と実効再生産数の算出を行う北海道大学の西浦博教授は、こう語った。
「3月25日から実効再生産数は下がっているが、1は超えている状況が続いていた。25日の対策で良いかと言われたら、十分ではないと答えます。1を超えているので」
「繁華街を含めた休業要請が出された後に、1を下回りました」
こうしたデータを踏まえ、特定の業種に対して行った休業要請がどれほど効果を発揮したのかはこれから検証するとした。
全国の緊急事態宣言解除は適切だった?
東京では5月28日、29日と2日連続で新規感染者の報告数が20人を超えた。緊急事態宣言が解除された直後に、感染者数が再び増加の傾向を見せている。
このタイミングでの、緊急事態宣言の解除は適切であったと言えるのだろうか。
尾身副座長は「緊急事態宣言を出したときから、感染者数をゼロにすることは目的にしていない」と説明、改めて、新型コロナウイルス感染者をゼロに抑えることは極めて困難であると強調した。
その上で、緊急事態宣言の発出により目指していたのは、感染拡大を食い止め、医療崩壊を防ぐことだ。
「我々は4月7日前後に盛んに、繰り返し申し上げてきましたが、問題はオーバーシュートではない。オーバーシュートが始まる前に医療崩壊が始まると言っていたわけです」
「4月の初旬から、東京などを中心に医療現場は危機状況にありました。こうしたことから、感染拡大の勢いを(再びクラスター対策ができるところまで)下げたかった」
現在、徐々に医療体制や検査体制が整えられていく中で、緊急事態宣言解除の決定が下されている。
「地域感染が静かに起きている可能性はどこの地域でもまだある。そういう中で、社会経済とのバランスをとらなくてはなりません。(解除すべきだったのは)あの日か?それとも、この日か?議論はあります」
「ですが、判断するときに経済の問題で死亡者増えることもありうる中で、これから解除した後にどう対応するかが、しばらく焦点となります。今のところは、なんとか対策ができるところまで(感染拡大の勢いが)落ちたので、解除しても良いのではないでしょうかと考えています」