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休校よりも前に「大人の飛沫の飛ばし合い対策を」 学校での変異ウイルス対策を専門家に聞きました

子どもの生活をどこまで制限すべきか。ポイントは「子どもがウイルスを広げるリスク」がどの程度あるのかという点だ。

新型コロナウイルス感染症が再び感染拡大する中、学校の休校措置が必要かどうか議論の的となっている。

きっかけはイギリス由来の「N501Y」変異を持つウイルスの感染拡大だ。

この変異ウイルスについては、旧来のウイルスに比べて子どもも大人同様感染するということがデータから見えてきている。

昨年3月の一斉休校のような取り組みは必要なのか。感染対策の専門家、聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャー・坂本史衣さんに話を聞いた。

ポイントは「子どもがウイルスを広げるリスク」

そもそもこの変異ウイルスの特徴をどのように捉えているのか。

坂本さんは、次のように語る。

「以前から危惧する声が上がっていましたが、このイギリスから広がったN501Yという変異を持つウイルスは感染力が高い。これは大阪での感染拡大や東京での変異ウイルスの置き換わりの速さを見ても多くの人が実感できることなのではないでしょうか」

「大人に関しては30代から40代の重症者が増えつつあり、入院期間も長くなっている。中には30代で、基礎疾患がない方の死亡例も報告されています。これまで重症化しにくいと言われてきた若い年代で重症化する傾向が見えており、危惧しています」

その上で、子どもの感染については「大人と同様に、子どもにも感染しやすいと考えられている」と説明。

「都内でも18歳未満の子どもが関係するクラスターがいくつか報告されており、特にマスクがつけられない状況で身体的接触の機会が多い部活動や保育園などで感染が起きている」とした。

現段階で変異ウイルスが子どもの重症化リスクを高めるといった報告は上がっていない。注視されているのは別のリスクだ。

「この変異ウイルスの影響で注目されているのは、感染源としての子どもの役割です。重症化する子どもの割合が高まっているという話は現時点で聞こえてきません。N501Yの検出頻度が高い海外および日本国内の地域で、子どもについて懸念されているのは子どもがウイルスを広げるリスクです。ただ、子どもの活動をどのような方法あるいは強度で制限するかは、地域の流行状況や流行に子どもがどの程度関与しているのかといった評価に基づいて決定される必要があると思います」

一斉休校は必要?

現在、変異ウイルスの影響が確認されている地域では一斉休校やオンライン授業への切り替えをすべきなのか?

坂本さんは2009年に新型インフルエンザのまん延を防ぐために、兵庫県などで一斉休校を行った際とは状況が異なると指摘する。

「子どもはインフルエンザに感染しやすく、学校での集団感染が地域の流行状況を左右することがある。また、特に幼い子どもに脳炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあるという点でも新型コロナとは異なります」

「いま、感染力の高い変異ウイルスが流行している地域では、確かにこれまでより子どもの感染者数が多い傾向にはあります。では、地域全体の流行を抑えるために、子どもに対してどこまでの対策を打つか…それを決めるには、果たして子どもが現在の感染拡大にどれほど影響を与えているのかを注意深く分析する必要があるでしょう」

「感染者数が爆発的に増えている状況なら、あらゆる接触機会を減らすために、大人も子どもも同様に行動を制限することはやむを得ないかもしれません。しかし、まだ猶予がある状況で、また、大人の感染対策も一部で緩みが生じている中で、子どもの行動を著しく制限してしまうのは順序が違うと私は思います」

子どもへの対策を打つならば、リスクの高い行動へピンポイントで

「変異ウイルスの感染力が高まったとはいえ、感染経路は変わってない。だから、感染につながりやすい行動は子どもも大人も大きくは変わらない。近い距離で、長時間過ごす。飛沫を抑えずに会話をする。換気の悪い空間に滞在する。これらの条件が組み合わさると感染リスクが高まります」

こうした前提を踏まえ、子どもの学習や心身への影響を最小限にしながら感染リスクを下げる方法として、接触度合いの高い活動を必要に応じて制限することを坂本さんは挙げる。

「具体的な措置について決めるのは政治の役割です。ですが、科学的な視点からコメントするとすれば、感染が拡大している地域においては、学校内で、近い距離で飛沫が飛ぶような場面を減らす努力は必要かもしれません。例えば、部活動でこれらの場面が生じうるなら、しばらくの間、そういう場面が生じる活動を休止することを検討するのがよいのではないでしょうか。」

「部活動の部分的あるいは全体的な制限によって子どもの心身への影響が全くないとは言いませんが、休校で授業や友達との交流の機会がなくなること、給食がストップすることよりも、検討の優先順位は高いと思います。もしも学校における感染対策を強化する必要があるのであれば、主な感染経路が飛沫感染であることを踏まえ、このようなハイリスクな活動から止めるということは1つの選択肢となるでしょう」

基本的には静かに授業を受け、同じ方向を向いて静かに給食を食べることには「そこまで大きな感染リスクはない」。

坂本さんは「大人の感染対策が十分とは言えない中で、子どもの日常を取り上げることには、極めて慎重であるべきだと考えます」とコメントした。

校内の消毒を徹底するよりも…

新型コロナウイルス感染症が感染拡大し始めた当初は、手を触れる場所などの消毒が多くの学校現場で行われていた。

しかし、「物や環境の表面に触れたことによって、そこに付着していたウイルスから感染するリスクは非常に低い」と坂本さんは言う。

そのため、接触感染を防ぐために、学校内の消毒を1日に何度も行うといった対策は基本的には必要ないとした。

「そのような物の表面の消毒よりも、外から戻ってきたとき、トイレへ行ったとき、食事の前などに石鹸と流水で手洗いをすることを呼びかけた方がコロナ以外の感染症を防ぐ意味でも有益だと思います」

止めるなら、まずは大人の「飛沫の飛ばし合い」から

「感染者を減らすために、最もコントロールの利くところはどこか。それは大人の『飛沫の飛ばし合い』です。何が何でも外に出るな、家にいないとだめだ、というわけではない。その代わり、飛沫を飛ばし合う行為だけは避けたほうがよい。まずは飲食の場面での対策にしっかり取り組む必要があります」

坂本さんは、このように休校措置よりも前にできることがあると強調する。

しかし、すでに2度の緊急事態宣言を経験し、その効果にどこまで期待できるのか疑問も残る。

「感染がかつてない規模で拡大する懸念がある首都圏では、大人の自主的な行動変容に期待をかける余裕はありません。だから3回目の緊急事態宣言によって、人との接触機会を強制的に減らすための措置がとられようとしている。しかし、このような措置には大きな経済的な痛みも伴います」

だからこそ、「ワクチン接種を早く進めてほしい」。それが医療現場で感染対策に当たる坂本さんの願いだ。

「一部の行動を制限することと並行して、ワクチン接種の速度を上げることが頼みの綱だと思います。各自治体によって進め方は異なりますが、できるだけ早く多くの人にワクチンが行き渡ることを期待しています」