変異ウイルスの影響が小さく、人の流れがこれ以上増加せず、五輪の影響がなかったとしても7月中に1日の新規感染者数は1000人を超えるーー。
厚労省のクラスター対策班のメンバーで京都大学准教授の古瀬祐気さんがこのようなシナリオ分析を発表した。
五輪の影響が大きくなれば、感染爆発が起きるのか。このまま感染拡大が続けば、4度目の緊急事態宣言を発出するしかないのか。
BuzzFeed Newsは古瀬さんに話を聞いた。
【後編】「これは僕から皆さんへの挑戦状です」緊急事態宣言前提のシナリオ分析、専門家が込めた願い
リバウンドがスタート、この夏の感染爆発はあり得るのか?
ーー現在の感染状況について、どのように分析していますか?
リバウンドは始まってきていると思います。しかし、このリバウンドの波が今後大きくなっていくのかどうかはわかりません。
現在はリバウンドの兆候が見えていますが、これは緊急事態宣言が解除され重点措置へと移行し、感染対策が少し緩んだことによる影響かもしれません。
現在は人流が増えつつありますが、もしかすると、ある一定のラインに達したところで頭打ちになる可能性もあります
今後の推移については、現状では判断が難しい状況です。
ーー6月30日に公表された「6〜9月東京における流行プロジェクション」というシナリオ分析では、変異ウイルスの影響が小さく、人の流れがこれ以上増加せず、五輪の影響がなかったとしても7月中に1日の新規感染者数は1000人を超えると分析しています。しかし、これは、かなり楽観的ではないでしょうか?五輪がこのまま開催された場合にはどのようになると考えていますか?
2つのポイントがあります。
1つ目が人流と感染拡大の関係性についてです。時折、「人流が増えたからといって感染者数が増えるとは限らない」という批判をされる方がいますが、これはおっしゃる通りです。
我々、専門家も人の流れが増えただけで感染者数が増加するとは考えていません。
感染症は人から人へうつります。そして、人と出会う頻度が高くなれば感染する確率も上がります。ですが、誰が毎日何人と会っているのかを知る術を私たちは持ち合わせていません。そうした動向を分析するための代替的な指標が人流です。
オリンピックについては組織委員会や東京都などが開催期間中の人流を減らす作戦を練っています。まだ決定していないものもありますが、今後様々な対策を講じるはずです。では、そのような対策によって人流が減れば感染拡大は起こらないのでしょうか?
人流はあくまで代替指標であり、感染拡大につながるのは人と人との接触機会です。例えば電車に乗る人の数など人流が減ったとしても、開催期間中に宅飲みなども含めて飲み会など接触機会が増えて感染が拡大することを専門家は危惧しています。
人流の増加が抑えられたとしても、飲み会や会食など、人と接触する頻度がどの程度増えるのかはわかりません。ですが、五輪を開催すれば、おそらく減ることはないでしょう。よって、五輪開催によって感染拡大が加速される可能性があります。
2つ目は五輪の有無よりも前にその後の感染状況は決まっているということです。
五輪を開催すれば感染拡大する可能性があることは間違いありませんが、感染状況はかけ算なのでその時点で街中に感染者がどれだけいるかが重要な因子となります。
つまり、五輪開催期間中の感染状況は、「その時点での感染状況×五輪の影響」で決まります。五輪による影響が大きく出そうだということは、五輪開催前の段階で街中に感染者がたくさんいるということを指します。
ですから、五輪が始まるその時にはこの夏にどの程度感染拡大し得るのか、波の大きさを決定する根元の部分はほぼ決まっていると考えてよいでしょう。
ーーシナリオ分析では人流の増加が7月以降も続く場合、7月下旬から8月中旬頃に爆発的な感染拡大の可能性があるとしています。6月30日のアドバイザリーボード(厚労省の専門家助言組織)では緊急事態宣言の解除前と比べて東京の夜間の滞留人口が18.1%、昼間の滞留人口が8.3%増加していると報告がされていますが、爆発的な感染拡大というシナリオに近づいていると思いますか?
可能性はもちろんあります。ですが、その可能性がどの程度あるのかということについては今後、人流がどのように推移していくか次第です。
現時点で、どの程度の確率で爆発的な感染拡大が起きるのかといったことはわかりません。
繰り返す宣言発出、4度目の宣言に効果はあるのか?
ーーシナリオ分析では五輪開催による人流増加は5%と見積もられています。これは、観客などだけでなく五輪開催によって増えるあらゆる人の動きという定義でしょうか?
はい。ただし、この5%という数字については、強い根拠があるわけではなく、あくまで1つのシナリオです。
緊急事態宣言がある場合とない場合では、人流は10%〜20%変化します。ですので、その半分くらいが妥当ではないかと考えました。ちなみに昨年8月に帰省などで増えた人流も5%程度でした。
ーーこの数字はかなり低く見積もられていませんか?
ここには市民の皆さんへ期待を込めた部分もあります。今年の夏に感染拡大するリスクは繰り返し発信されています。
このような発信を受けて、一人ひとりが行動を変えてほしい。そのような願いを込めた数字です。
ーー五輪は開催するけれども皆さんの行動は制限してください、という矛盾したメッセージの問題があると専門家有志も6月18日の提言で言及しています。この問題はどう解決していくべきなのでしょうか?
これは非常に難しいポイントです。
五輪の報道を見た人々が、感染対策を不要だと勘違いしたり、あるいはきちんと対策を守ることが馬鹿らしいと感じてしまわないような報道がなされることを願います。
ーー今年に入り、ほぼ常に緊急事態宣言もしくは重点措置、あるいは時短営業といった制限が課されています。自粛疲れのようなものもピークに達しつつあると思いますが、緊急事態宣言を再び発した場合、効果はあると思いますか?
その緊急事態宣言の内容にもよりますが、基本的には緊急事態宣言の効果はあるということが我々の研究でもわかっています。
3回目の緊急事態宣言が発出された際には、正直どこまで効果を発揮するのか不安な面もありました。ですが、どのような対策を講じるか次第でその効果も変化します。
1回目はまだわからないことが多いこともあり、緊急事態宣言が非常に強い効果を発揮しました。2回目の宣言では、1回目ほどではありませんでしたが実効再生産数は0.8程度下がっています。
3回目の宣言では、2回目の宣言の内容に加えてお酒の提供禁止という対策をプラスしたことで効果を発揮したと分析しています。
もしも、もう一度緊急事態宣言を出す場合、3回目と同じ内容でどの程度効果を発揮するかはわかりません。ですが、一定程度効果があることは間違いありません。
ーーすでにお酒の提供禁止というカードはきってしまいました。もしも、もう一度宣言を出す場合、その効果を高めるために、お酒の提供禁止という方法以外にはどのような選択肢があり得るのでしょうか?
具体的な選択肢についてはわかりません。
ただし、重点措置の中で各都道府県が実施している飲食店でお酒を提供する場合の人数制限は良い方法だと思います。
これよりもさらに強い対策となると、現在の特措法の範囲内でできることは限られています。
また、電車の本数を減らすといったことすれば、かえって人が密集してしまう可能性もあるため慎重に検討する必要があります。