南アフリカなどで確認された新たな変異ウイルス「オミクロン」。
日本政府は29日、全世界からの外国人の新規入国を停止する方針を発表した。
どれだけウイルスが広がりやすいかを左右する伝播性、どれだけ重症化しやすいかを左右する病原性、そしてどれだけワクチンが効くのかを左右する免疫回避。
これらのウイルスの特性について、現時点で明らかになっていることはない。
不明なことが多い中で現時点でわかっていることは何か。各国はこの変異ウイルスにどのような対応をとっているのか。
情報をまとめた。
(1)南アフリカの一部エリアで拡大
オミクロンは11月11日にアフリカ南部のボツワナで採取された検体から初めて検出され、14日には南アフリカでも検出された新たな変異ウイルスだ。
特に南アフリカのハウテン州というエリアで多くの感染者が報告されており、11月12日から20日までに採取された77例の検体すべてがオミクロンの感染例であったことも明らかとなっている。
南アフリカ国内ではオミクロンの感染者が増加傾向にあり、11月15日時点では検出された感染者の75%以上を占めていた。
(2)オミクロンの特徴は?
オミクロンはスパイクタンパク質に32ヶ所の変異が確認されている。また、スパイクタンパク質以外にも複数の変異が確認されている。
スパイクタンパク質とは、ウイルスの表面に存在する突起のこと。この突起がヒトの細胞の表面にある「ACE2」という分子とくっつくことにより、ウイルスが細胞の中に入り、「感染」が引き起こされる。
国立感染症研究所はこれらの変異が、
・細胞への侵入しやすさに関連する可能性
・免疫逃避に寄与する可能性
・感染性、伝播性を高める可能性
があるとしている。
なお、これらはいずれも「可能性」であり、より詳しい情報は現在進められている調査・分析の末に発表される見通しだ。
(3)周辺諸国やヨーロッパなど13カ国でも確認
オミクロンの感染者が発見されているのは南アフリカだけではない。
29日午後12時の段階で、オミクロンの感染者が報告されているのは次の国々だ。
・南アフリカ
・ボツワナ
・香港
・イスラエル
・ベルギー
・イギリス
・イタリア
・ドイツ
・チェコ
・オーストリア
・オランダ
・デンマーク
・オーストラリア
こうした中、各国ではアフリカ南部からの入国を制限する動きが広がっている。
アメリカはアフリカ南部8カ国からの外国人の入国を29日から原則禁止とした。
イギリスもアフリカ南部6カ国からの入国禁止措置を発表。カナダやオーストラリア、イスラエル、インドネシアなどもこうした規制を設けている。
日本では現在、南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ、ボツワナ、レソト、エスワティニ、モザンビーク、マラウイ、ザンビアの9カ国からの入国者への水際対策が強化されている。
(4)WHOや欧州CDC、日本も「VOC」に指定
WHOは26日、緊急の会合を開き、南アフリカなどで確認された変異ウイルスを「オミクロン」と呼ぶことを決定。
あわせてこの変異ウイルスを「VOC(懸念すべき変異ウイルス)」に指定し、最大限警戒することを発表した。
欧州CDCも26日、オミクロンを「VOC」に指定し、その動向を注視している。
日本の国立感染症研究所は当初、このオミクロンを「VOI(注目すべき変異ウイルス)」に指定していたが、状況の変化を踏まえて、28日に「VOC」に変更している。
(5)日本国内での感染者、現時点では確認なし
日本政府は26日の段階で、アフリカ南部6カ国(南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ、ボツワナ、レソト、エスワティニ)からの入国者に対する水際対策強化を発表。27日には対象国にモザンビーク、マラウイ、ザンビアの3カ国が追加された。
さらに29日には全世界からの外国人の新規入国を停止する旨が発表された。この措置は30日午前0時からだ。
こうした厳しい措置は世界各国でオミクロンの感染が確認される中で、水際対策をより一層強化するための取り組みだ。
なお国立感染症研究所によると、日本国内では27日までにオミクロンの感染者は確認されていない。
ここまでが、現時点で明らかになっていることだ。
ここからは飛び交う様々な情報について、確かと言えることは何かを確認していく。
オミクロンへのワクチン効果低下は本当か?
報道ではオミクロンに対して、新型コロナワクチンが効果を発揮しない可能性が指摘されている。
だが、これらはあくまで可能性であり、実際にそのような分析結果が提示されているわけではないことに注意が必要だ。
現時点ではワクチン効果について詳しいことはわからない。
こうした情報が拡散した背景には、香港でオミクロンに感染していることが確認された感染者が2度のワクチン接種を終えていたことがある。
また、イスラエルで確認されたオミクロンの感染者もワクチン接種を終えていた。
しかし、デルタなどでもワクチン接種を終えているのに感染する「ブレイクスルー感染」の事例は報告されている。つまり、こうした感染事例が、オミクロンへのワクチンの効果低下をただちに示すわけではないということだ。
こうした中、ファイザーと共同でワクチンを開発しているビオンテックやモデルナなど新型コロナワクチンを開発する各社は対応を開始している。
モデルナは2022年初めにもオミクロンへ対応するワクチンをリリースする可能性があるとした。
感染力はどうなる?
南アフリカでのオミクロンの感染拡大状況などを踏まえ、この変異ウイルスがこれまでのウイルスよりも感染しやすい、あるいは広がりやすい可能性も指摘されている。
だが、国立感染症研究所のレポートによると、ウイルスの特性に関する評価はまだなく、疫学的な評価を行うための情報も十分には得られていない。
南アフリカでは、デルタからオミクロンへとウイルスの置き換わりが急速に進んだとされている。これがオミクロンの感染性・伝播性がデルタよりも高いのではないかと指摘される理由だ。
これがオミクロンの特性によるものなのか、別の要因によって引き起こされているのかについては疫学的調査が進められている。
より重症化しやすい可能性は?
オミクロンに感染した場合、これまでのウイルスよりも重症化しやすくなる可能性はあるのだろうか。
WHOは28日時点で、こうしたリスクについては「明らかになっていない」と説明している。
南アフリカでは入院率の増加が見られているが、これがオミクロンの特性によるものか、感染者数そのものが増加していることによる影響であるかはわからない。
感染研のレポートによると、香港で確認された2人の感染者のうち、1人は無症状であったことが報告されている。また、ベルギーで確認された感染者(ワクチンは未接種)はインフルエンザのような症状ではあるものの重症化はしていないという。
基本的対策は変わらない
オミクロンについては、現時点ではわからないことが非常に多い。
ウイルス学が専門で米国立研究所の研究員を務める峰宗太郎さんは27日のBuzzFeed Japanの取材に対し、次のように語っている。
「もちろんデルタの例のように大きな影響を与えることはありますので、警戒をすることは悪いことではない。しかし、個々人の対策も変わらないことを踏まえると現時点で騒ぎすぎる必要もありません」
「同時に強調したいのは、どれだけ感染性や伝播性が高まったとしても、基本的感染対策は変わらないということです。対策を徹底するしかありません」
「まずは情報と冷静に向き合い、一人ひとりができる対策を続けていくことが重要ですね」
変異ウイルスに対しても、
・ワクチン接種
・会話時のマスク着用や手指消毒などの基本的感染対策
・換気の徹底と3密の回避
これらの対策を継続することが重要だ。