「クラスターが出た時は、あれだけメディアが押しかけたが、その後の復活への努力まで見届けてくれるメディアは、結局どこもない」
そんな切実な訴えがTwitter上で拡散、7000回以上リツイートされている。
この発信をしたのは大宮南銀座商店会の公式Twitterアカウントだ。
新型コロナウイルスに関しては、クラスターの発生が多くの人の注目を集める。そのような中、飲食店などが多い商店街にはどのような影響が及んでいるのだろうか。
「南銀歩くとコロナになるんでしょ?」「実家に帰れなかった」
埼玉県さいたま市大宮区の繁華街「大宮南銀座」のキャバクラ店でクラスターが発生したとさいたま市は6月29日に発表し、店名を公表した。
このクラスターは同県内では最初のクラスターと認定されたこともあり、「キャバクラ クラスター認定 大宮・南銀 感染 店長ら12人に=埼玉」(読売新聞)、「【新型コロナ】キャバクラで集団感染 『南銀』落胆」(埼玉新聞)といった形で報じられた。
商店会の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「クラスター発生から10日間ほどで多い日には1日に5社の取材に対応した」と明かす。
NHKや在京新聞各社、地元紙などからの取材が相次いだ。
様々なメディアで大宮南銀座商店会の店舗でクラスターが発生したことが報じられた。そのような中で、商店街全体が危険であるかのような報道が行われていたと担当者は苦言を呈す。
「店名公表が遅れた影響もあり、報道は『南銀でクラスター』という言い方がなされました。その日から連日、昼夜問わずメディアが南銀に集まりましたが、彼らに『南銀でコロナはやめてください』と言っても聞き入れてはもらえませんでした」
報道の影響は大きく、「南銀歩くとコロナになるんでしょ?」「南コロナ通り」
「大宮行っても『南銀だけはダメだ』と言われてる」といった声が聞こえてきたと当時を振り返る。
一般の利用客だけでなく、商店街の飲食店などで働く従業員からも「南銀で働いていると言うと『近づくな』と言われた」「実家に帰れなかった」といった声も上がり、「ここでは続けられない」と辞めていった人もいたという。
担当者は「クラスターそのものより、報道による被害の方がはるかに大きかった」と言う。
商店会の加盟店では約3割がクラスター発生とその報道の影響を受け休業。店を開けていた店舗についても、売り上げは一番良い時期と比べて5分の1から10分の1まで落ち込んだ。
対策を講じた、でも実際の被害を上回る第2波が…
大宮南銀座商店会では、クラスター発生をきっかけにフェイスシールドや検温機、アルコール消毒液などを無料で配布し、感染防止対策が浸透するよう努めたという。
また、消毒、従業員・来客への検温、3密防止策、換気などの対策を盛り込んだ「南銀安全宣言」を策定し、それぞれの項目を達成した店舗にはステッカーを配布している。
12項目をクリアできたのは当初、加盟店の3割ほどだったが、現在では9割がクリアし、ステッカーを貼っているという。
「また独自の『来客者用追跡シート』を作成、全店舗に配布し、現在、ほとんどの南銀の店では来客者は氏名、連絡先を入店後に記載せねばなりません。これにより仮にクラスターが発生しても全員の追跡が可能となっています」
こうしたコロナ対策を整えた後に、商店会はメディア各社に対し、「こんな復活策をしています」と伝えたと担当者は明かす。
しかし、彼らの改善策に注目が集まることはなかった。
「メディアに取り上げて欲しく、連絡したり、クラスター余波で南銀を訪れたメディアに口頭で伝えても『そうですか。取り組みには敬意を持ちます。ですが、伝える枠がなくて』と断られるだけでした」
このような実態から見えてくるのは、メディアの報道がもたらした被害の大きさだ。
「我々大宮南銀座と共に、歌舞伎町のクラスターが連日取り沙汰されましたが、思い起こせば我々も、歌舞伎町で本当は何が起きていたのか実態はわからないまま『今、新宿はヤバいよね』という漠然としたイメージだけが刻まれました」
「センセーショナルに報道するのはメディアの常。目や耳を向けさせるための、ある種の『煽り』ですが、その戦術の余波は、(クラスター発生による)実際の被害を上回るほどの第2波をもたらします」
大宮南銀座商店会の担当者はこう取材に語った。
「あの日、致命的な傷を負わされた」
報道によって被害受けた商店会として、メディアに何を望むのだろうか。
「伝える、ということと、届けるということ、その先の『見届ける』までを望みますが、それが我々の「見たい」に直結するとは限らないのも分かってます。
だから、今更なにかを望みはしません」
「ですが、自分たちが壊した世界を直視するくらいはしてほしい」
担当者の訴えは切実だ。
「全国の商店会、繁華街があの日、致命的な傷を負わされたのは間違いありません」