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新型コロナ、クルーズ船の「告発」をした医師が、海外メディアに訴えたこと。

ダイヤモンド・プリンセス号における感染拡大予防策が不十分であることを指摘する動画を公開した神戸大学教授の岩田健太郎医師が会見を開いた。語ったこととは。

外国特派員協会で2月20日、神戸大学教授で感染症の専門医、岩田健太郎医師が会見を開いた。

岩田医師は現在、自身を隔離中のため会見はSkypeで行われた。

会見にはニューヨーク・タイムス、ウォール・ストリートジャーナル、AFPなど多くの海外メディアが参加した。質疑応答は基本的に英語で行われ、岩田医師も英語で回答した。

18日にダイヤモンド・プリンセス号に乗船し、船内の状況を告発した岩田医師にどのような質問が寄せられたのか。会見の模様を伝える。

まず問われたのは動画削除の経緯

ーーなぜYouTubeに投稿した動画を削除したのか?


動画は非常にSNS上で拡散され、多くの人に見ていただいた。

昨日、ダイヤモンド・プリンセス号内で改善がなされたという情報があり、懸念していたゾーニングが整えられたと聞きました。

また乗客の二次感染に関するデータも示され、船内で隔離が行われた2月5日以降に二次感染が拡大していないことが明らかになったため、あのような動画で意見を広げること、注意を促す必要はなくなったと考えて動画を削除しました。

ーー動画をアップロードしたことで、誰かから圧力がかかったことは?

まず、(橋本岳厚生労働副大臣とは)一度も会ったことはありません。船の中でも、外でも。そもそも昨日昼の段階まで、知りもしませんでした。誤解が広がっているので、ここは明確にさせてください。

高山先生とは電話やテキストなどでメッセージを取り合っています。彼とのやり取りの多くは技術的な部分も多いため明かすことはできませんが、圧力のようなものを感じたことはありません。

橋本さんからも何も圧力などはありません。

ーー意見を変えた、という理解で良いのでしょうか?

ゾーニングの問題や二次感染の問題など多くのことに関して、基本的に意見は変えていません。

ただし、船内における乗客の二次感染リスクは大きく下がったと見ています。データを見るまで、その懸念を抱いていました。

これを知ることは喜ばしいことです。しかし、ウイルスが乗員から拡散する可能性はまだあります。リスクは減りましたが、まだある。なので、意見を変えることはありません。

昨日もしくは今日、下船をする人々のモニタリングは14日間は続けるべきだと考えます。人との接触をできるだけ避けて、自宅で隔離状態に置き、発症の可能性に警戒すべきです。


ーー船で目にしたことへの意見は?

変えていません。2日前に見た状況に対する意見は変わることはありません。あの状況はカオスでしたし、ショッキングなものでした。感染症の専門家の立場から言わせてもらえば、感染症の拡大を予防する意味では非常に悪い状態でした。

3000人以上の人をクルーズ船内、1つの大きな箱に留めることを決めた。そして14日間留めた結果、多くの船内での発症者が出た。

このことに関して、私の意見が変わることはありません。

ーー船内の状況は改善した。ここについてもう少し詳しく。何が改善したのでしょうか?そしてそれは誰からの情報ですか?

誰から得た情報か、答えることはできません。

ですが、ゾーニングに関する重要な改善がなされたこと、乗客における感染率は下がりつつある、このため全体のリスクは大きく変化したと考えています。

ーーデータを見て、乗客の二次感染のリスクは下がっていると。乗客以外はどうでしょうか?

2日前に船内で見かけた人々、DMATや厚生労働省の人々などには二次感染のリスクはあると思われます。これまでの感染症予防の管理の問題からです。

ですが、変化が起きたことでリスクは大きく下がりました。

最低限、今日から新たに船内で感染するということは起きないのではないかという見通しを持っています。

ーー政府からのサポートは望みますか?

常に、全ての人からの支援を望んでいます。

海外からの声にどう対応すべき?

ーーアメリカ、香港、オーストラリアなどが下船した人をあと2週間隔離することを求めています。日本はこうした措置をとるべきと思いますか?

日本はアメリカ、香港、カナダ、韓国など各国の人々が言うことに従うべきだと思います。

14日間、追加で隔離をする。もちろん、この隔離のレベルにもよるとは思います。モニタリングは最低限必要でしょう。

二次感染がもしもコミュニティで発生した場合、感染が拡大することが予想されます。

日本における感染者は非常に限定的なものです。和歌山、東京、北海道などで感染者が確認されていますが、神戸や佐賀、青森などでは確認できていません。

感染がまだ日本全国で広がっていない今、抑え込むべきです。

日本全体で感染が広がっており、もうクルーズ船に留める意味はないといった声もありますが、これには賛同しません。まだまだ抑え込む努力をすべきです。


ーー日本全体の感染拡大を防止する取り組みへの評価は?

クルーズ船での隔離が始まる前、2月5日の段階で私は日本の感染拡大防止策は概ね成功しているとお伝えしました。

いまも基本的にはクルーズ船の対応以外では、概ね成功していると言っていいと考えています。ですが、和歌山での院内感染は懸念しています。

他のエリアで感染拡大が起きない限りは、現在の感染拡大防止策は継続すべきです。


ーー和歌山での院内感染のケースについては?

和歌山に関する情報が少ないので全体的な評価は下せません。どれだけの人が感染した可能性があり、リスクのある人はどれだけいるのか、より多くのデータを見てから判断は下したいです。

ーー岩田先生はご自身をどのように隔離?他の人が参考にするためにも。

私が今、自分でやっていることを他の誰かにオススメすることはできません。発症することは恐れていませんが、自分が感染を拡大することを恐れています。

2週間、私が患者を診ることはありません。


ーーこの先、2週間が経過するまでは同じ部屋に?

その点については答えられません。どこにいるのかも秘密のままにさせてください。

ーー改めて、もう一度、なぜ動画を削除したのかを説明していただけませんか?

あの動画は特定の誰かを批判することが目的ではありません。だから動画でも特定の個人を名指しで批判することは避けました。

でも、多くの人が私が誰かを批判しようとしていると誤解していました。

あの動画が残ることで、多くの人に誤解を広げ、私と誰かという対立構造が作られてしまう。私は誰に対してもフラットに、科学的な議論をしたい。

今回投稿した動画は状況を改善することが目的でした。船内で議論を行うチャンスがもらえなかったため、投稿したものです。

動画を投稿したところ、船内でのゾーニングが適切になされたという情報が入ってきた。その段階で動画は役目を終えました。


ーー警鐘を鳴らす役割は果たせたと思いますか?また、WHOは過剰な反応をしないように呼びかけていますが、多くのイベントがキャンセルされているのは過剰な反応だと思いますか?

私自身が警鐘を鳴らす役割を担っているのかはわかりませんし、この役割を果たすことができたのかもわかりません。ですが、船内の状況が変わったこと、この変化は喜ばしいものです。

過剰な反応をすべきでないという意見に賛同します。ですが、最初から意見は変わっていません。武漢と同じ状況に陥ってはいけない。政府は最悪のシチュエーションに備える必要があります。

こうした時は1つの出来事を2つのサイドから観察するべきです。注意深く、でも落ち着いて。

イベントを止めること、外を歩くことを避ける必要は現状ではないのではないでしょうか。警戒はすべきです。ですが、パニックになるべきではありません。


ーー状況が改善した、とおっしゃっていますが何がどのように改善したのでしょうか?

私は船に入ることはできていないので、何が起きているのかを見ることはできていません。ですが、ゾーニングはされたと伝えられています。

判断軸の欠如が問題

ーー船で目にしたことは科学的な意思決定をめぐる悪い例だと考えて良いのでしょうか?このクルーズ船のケースから他のケースへ活かすことのできることは?

すでに述べたように、CDCが存在しないことがそうした疑問への答えだと言えるでしょう。

なぜ、クルーズ船の感染症予防の対策が適切になされていないのか。その理由は「Principle」(判断軸)が欠如していることによるものだと考えています。

彼らはゾーニングをし、感染予防の手順を踏み、PPEを着用した、そうすることで感染症拡大の予防のための方策はとったと捉えている。彼らは恐らく以前も、そして今も十分に対策はしたと考えているのでしょう。

ですが、私にとってこれらは十分ではありません。なぜなら、清潔なものと不潔なものを分ける必要がありますし、PPEも正確に使う必要があります。そして感染者が船内を行き来することができるような状況では二次感染に注意が必要です。

ウイルスは見えません。だからこそ、清潔なものと不潔なものを分ける必要があります。

たとえマニュアルを定めたとしても、何が清潔で、何が不潔か、その判断軸を理解することができていなければ、そうしたものが破られてしまうことは容易に予想されます。

アフリカで診療にあたったエボラ出血熱と比較して感染リスクを感じたのはそのような理由からです。

感染予防の訓練や、経験、システムがなければ、判断軸が身につくことはありません。CDCはこうした全てをカバーします。これが私が感じることです。

ーーNHKによると、クルーズ船の乗客で2名亡くなったと報道がありました。この件についてコメントは?たとえば中国や他国での死亡率や死亡数などと比較して見解は?

中国と比較した時、日本国内の新型コロナウイルスの感染者数は多くないため、死亡者数の小さな変化が全体のパーセンテージを大きく変えてしまいます。もしも100人の感染者のうち、3人が死亡したら死亡率は3%になる。このため、死亡率を他国と比較することは時期尚早と考えます。このケースについて詳細がわからないので、詳細なコメントは控えます。

ーー動画を公開したことは政府に対するプレッシャーになったと思いますか?

そう思います。でも、彼らがそれを認めるとは思いません。

どんな対応にも欠点がある

ーー隔離すること自体には反対していませんが、クルーズ船で実施された方法には反対しているという認識で合っていますか?また過去のエボラ出血熱などへの対応の経験から見て、何をすべきと考えますか?

隔離そのものを否定はしません。おっしゃる通り、隔離そのものが悪いわけではありません。

クルーズ船をめぐる意思決定は非常に難しいものです。もしも、このケースの責任者ならば、何をすべきか悲観的に捉えてしまうかもしれません。

クルーズ船というのは人々を感染から守るには、非常に難しい環境です。これは構造の問題です。

人々を下船させるのか、船の中に留めるのか。前者の選択をすれば、街中の多くの人に感染のリスクを拡大します。一方で、後者の選択をすれば船内で感染が広がる可能性があります。

どちらにせよ、欠点がある。だからこそ判断を下すことが難しい。

しかしながら、中に留めると決めたならば、14日間隔離すると決めたならば気の毒なことですが完遂される必要があります。

もしも二次感染が確認されたならば、またゼロからカウントすべきです。これは誰にとっても非常に辛いことです。

14日間の隔離の手順において、しっかりとモニタリングを行い、そこで二次感染が起きていないことを毎日確認すべきです。

昨日示されたデータはこうした二次感染が起きていないことを示していましたが、それでもそうした手順を続けて2月5日以降のデータをアップデートし続けていくべきでしょう。

そのため今回のクルーズ船に関する対応は完全に正しかったとは言えないと考えています。

北京でのSARSのケースにも対応し、シエラレオネでのエボラ出血熱への対応も現地で行いました。繰り返しになりますが、どこにウイルスが存在しうるのかを明確に区別すべきです。

病院、テント、船、車…多くのケースが考えられます。大きな船での対応と病院での対応は異なるという意見もあります。技術的には正しい、ですが判断軸が変わることはありません。

判断軸は清潔なものと不潔なものをわけ、医療従事者含めそこにいる人々を守るために適用されます。

アフリカでは多くの人はテントの中で処置が行われていました。このテントは完全にレッドゾーンとして区分されていました。人々はPPEを着用せずにこのエリアに入ることは禁じられていました。

このエリアから出る時はPPEを正確に脱ぎ、モニタリングを受けた上で外に出ていました。こうした対応は医療従事者への感染拡大を防いでいました。

グリーンゾーン、レッドゾーンという区分は医療従事者をはじめ様々な人を守る上では非常に有用です。

ーー検査で陰性という結果が出た場合でも数日後に発症する可能性はあるのでしょうか?

はい。検査に不正確さはつきものです。100%正確な検査は存在しません。そのため、常に潜在的な危険性を警戒する必要があります。

ーー昨日、下船した人の一部は12日に検査を受けていましたよね?

そうですね。でも、それは大きな問題ではないと私は捉えています。どちらにせよ、検査の結果をそのまま受け止めることはありません。

いくらでもシナリオは考えることができます。検査によって出た陰性という結果は感染していないということを証明するわけではないということは知っておくべきでしょう。

だから、必要な対応を導き出すことは容易です。検査結果、検査日にかかわらず、14日間、モニタリングする必要があるのです。

副大臣の写真には…

一方、会見中に橋本岳厚生労働副大臣がTwitterに投稿した1枚の写真が波紋を呼んでいる。

「現地はこんな感じ。画像では字が読みにくいですが、左手が清潔ルート、右側が不潔ルートです」というコメントと共に投稿されたこの画像には、ゾーニングの実効性を疑う声が相次いだ。

会見で船内の状況が改善したことを動画削除の理由として挙げていた岩田医師はこの写真をどう捉えているのだろうか。

BuzzFeed Newsの取材に対し、「あれがそもそもいつの写真なのかがわからない」とした上で、「写真を撮った位置からレッドゾーンに向かっていくので、あそこはレッドゾーンです。が、グリーンの人が入っていくのでグリーンでもあります」とゾーニングの不備を指摘。

また、「その危険なエリアにはウイルスがくっついているかもしれず、その手でスマホを触るのはとても危険なのでぼくはスマホを持って入りませんでした」ともコメントしている。