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コロナ禍で感染の恐れがあっても、10人部屋へ入居? 住まいの問題が、生活保護申請を阻む

支援団体は「今後、生活保護の申請が増加することが予想されている中で、住まいがない場合には安全な居所を確保することが難しい」と危惧する。住まいの問題が支援につながる人々にとってハードルとなっている。

住まいを失った人への支援を行う一般社団法人つくろい東京ファンドや認定NPO法人ビッグイシュー基金など9団体が7月14日、東京都福祉保健局に生活保護申請者への対応の改善を申し入れた。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京都では生活保護申請を希望する人に対しても一時住宅としてビジネスホテルの部屋を借り上げ、提供していた。

しかし、東京都は7月7日付でこの対応を取りやめた。

コロナの影響で生活保護申請が増えることが予想される中、支援団体は「現状の都の施策では、申請者が安全な居所を確保することが難しい」と危惧している。

法律上は「居宅保護」が原則。でも…

生活保護法では「居宅保護」が原則とされており、原則として路上生活をしながら保護費を受け取ることは認められていない。住まいを失った人の場合には住まいを確保した上で保護をすることが法律で定められている。

しかし、この際に用意される「住まい」には問題もある。背景には東京の住宅事情がある。

生活保護の住宅扶助基準は東京23区では月額53700円。この基準を下回る住宅の数には限りがある。また、公営住宅のストックなども十分でない。

そのため、住まいを失い、生活保護を申請する人々の受け皿となってきたのは、無料低額宿泊所だ。

無料低額宿泊所の中にはワンフロアにずらっと二段ベッドが並べられ、10人〜20人が同じスペースで生活しているようなケースも存在する。東京都や厚生労働省は原則個室の提供を要請しているものの、現場では徹底されてない。

生活保護を申請したら、相部屋の施設を紹介されたという相談は支援団体に依然として寄せられている。

コロナ禍で、東京都は12億円の補正予算を組み、住まいを失った人々への支援を行った。一時住宅としてビジネスホテルを提供することは感染拡大を予防する上でも合理的な策だ。しかし、この対応は7月7日までとなっている。

結果として改善されたかのように見えた、住まいを失った人への支援の問題は緊急事態宣言が解除されて1ヶ月が経過し、実質的にコロナ禍以前の形に再び戻ってしまった。

「生活保護は受けたいが10人部屋の施設には入りたくないから受けられない」、そうした声は路上生活者や生活困窮者の間では珍しいものではない。

住まいの問題が支援につながる人々にとってハードルとなっている。今回の申し入れはこうした状況の改善を強く求めるものだ。

法律が守られない状況が常態化

9つの支援団体は以下の3点を要望している。

(1)生活保護申請者においても、今後継続して一時滞在場所としてビジネスホテルを無料で提供し、安全に過ごすことができる場所を保障すること

(2)一時滞在場所(ホテル)退所後については、居宅保護が図られるよう区市と連携し、居宅保護の原則が遵守されるよう監督すること

(3)今後増加するコロナ禍に伴う住宅困窮者へ対応し、(2)を実現するために、都営アパートの利用や空き家を借り上げる等により、東京都としてもあらゆる手段を以って居宅確保に努めること

今回の申し入れの呼びかけ人、北畠拓也さんは「生活保護の増加が見込まれる。住まいない方が安全な居所を確保することが、難しくなる」と危機感をあらわにした。

「生活保護には『居宅保護』の原則があります。ハウジングファースト型の支援も、法改正もなく実施できる。ただ、東京都では居宅へのマッチング支援ほぼない。入居できる公的な住居のストックもないため、実現できていません」

「歴史的にシステムが整えられていない、法律が守られていない実態がありました。コロナ禍で見えてきた問題をまた元どおりにしてしまうのか、これを機にセーフティーネットを構築するのか、岐路にあります」

司法書士の後閑一博さんは東京都福祉保健局保護課の職員に対し、声を荒げた。

「今日、この要望書を読みながら、情けなくなった。こんな法律に書いてあることを、なんで民間が要請しなきゃいけないんだって」

「現場で何が起きているのか、知っていらっしゃる。なんで、生活保護を普通に適用してくださいね、なんて要望をしなきゃいけないのか。要望を出しながら、今回に関してはイラつきしか覚えない。しっかりやってください」

「まだ路上にいた方が良い」という声も

住まいの貧困の問題に取り組む、一般社団法人つくろい東京ファンド代表の稲葉剛さんは「東京で生活保護基準53700円の中で住まいを探すことは困難。なかなかアパート辿り着けない」と実状を訴える。

「これまでも困難であったのに、ビジネスホテルの提供が終わってしまうと、無料低額宿泊所に送り込む運用が復活する。それのみになることが懸念されています。劣悪な環境の施設に入るくらいなら、まだ路上にいた方が良い、ネットカフェの方が良いという方もいる。結果的に支援からこぼれ落ちる人が続出することを恐れています」

4月から5月にかけて、各支援団体の相談窓口には相談が相次いだ。6月に入り、少し落ち着きを見せているとしながらも、今後再び生活困窮に陥る人が増えることを危惧する。

「6月以降、相談件数は落ち着いてはいますが、労働問題に取り組むNPOには派遣切り、解雇といった労働相談が殺到しています。特別低額給付金が出たり、社会福祉協議会の貸付金、持続化給付金を受けてしのいでいる人もいる。でも不況の長期化で資金が尽き、住まいを失う人がが増加しかねません。住宅につながる支援を設置して欲しい」

東京都が過去に生活困窮者や路上生活者向けに仕事と住まいを提供した前例が存在する。

「地域生活移行支援事業」という2004年から2009年まで実施されていた東京都の事業では、民間の空室を東京都が借り上げ、月3000円で路上生活者や生活困窮者に提供。合わせて、入居者に対しては公園清掃の仕事も提供されていた。当時は1900人以上がこの制度を利用した。

ハウジングファースト型の支援を行う上での法的な問題は「ない」と稲葉さんは言う。住まいの問題が解決しないのは、法整備の課題ではなく、予算編成の課題だ。

都担当者「生活保護の原則は居宅保護の原則が大原則」

東京都福祉保健局の担当者は今回の申し入れに対し、以下のように見解を述べた。

「生活保護の原則は居宅保護の原則が大原則ですので、こちら、我々としても最終的にはアパート等の居宅に移っていただくのは終着点だと思っていますので、区市と連携して、そのような形が取られるようやっていきたいと思います」

申し入れに対する具体的な回答については、関係部署と調整の上で回答するとしている。