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"8割おじさん" こと西浦博教授がPCR検査について語ったこと。実際の感染者数、現在の10倍いる可能性にも言及

週1回、報道関係者に対してクラスター対策班の専門家が実施している意見交換会。「検査のキャパシティが少ないために、実際の感染者数を追うことができていないのではないか?」という指摘に、西浦博教授が回答した。

厚生労働省のクラスター対策班で、新型コロナウイルスの感染拡大状況を数理モデルで解析する北海道大学の西浦博教授は4月24日、メディアとの意見交換会を実施した。

4月15日から週1回程度で始まったこの取り組みは、メディアを通じて情報を正確に伝えるために始まったものだ。

語られたのは検査のキャパシティが少ないために、実際の感染者数を追うことができていないのではないかという指摘への回答だ。

キャパシティの低さ、どう捉える?

今回の発表はあくまで西浦教授個人としての発言であり、クラスター対策班の意を反映したものではない。

その上で、西浦教授はPCR検査キャパシティの低さから日本では感染者数を捉え切れていないのではないかという指摘はデータ分析を行う上で鋭い指摘であったと認めた。

西浦教授自身はどのようにデータを分析しているのだろうか。

「キャパシティが低めである。このことは専門家として、事実として受け止めないといけないんです」

「低めである時、流行状況に関する解釈は変わるのか。4月22日の記者会見で東京における新型コロナの流行は鈍化しているとお話ししました。ただ、本当に鈍化しているんですか?陽性率が高くなっているけど大丈夫ですか?というご指摘をいただきました」

西浦教授は発症日別の患者数のグラフを提示し疑問に答える。

ある県のこれまでのPCR検査の結果の確定日に基づく感染者数を観察すると、1日40件程度の検査キャパシティの上限があることが推測されると言及。なお、こうした傾向は、この県だけでなく複数の都道府県で確認されているとのことだ。

こうしたことからPCR検査の確定日や報告日ではなく、発症日で感染者数がどれほど増えているのかを見なければ「自然な増殖度はわかりにくい」と強調する。

感染状況をしっかりと見極めるためには、どのタイミングで発症したのかという情報が鍵となる。

PCR検査のキャパシティの上限が低いと「重症者数の全体捕捉も難しい」と西浦教授は言う。

3月末までクラスター対策班で共に分析にあたっていた北海道大学の大森亮介准教授も新型コロナウイルスの実行再生産数に検査キャパシティが関係していることが考えられると報告していることに触れ、検査拡充をしないことでデータに影響が及んでいることを明言。

軽症者の治療体制が確立し次第、早期診断が可能となるように移行できることが望ましいとした上で、濃厚接触者に関しては無症状であっても検査対象とすることは有効な感染防止策となると語った。

実際の感染者数は現在の10倍以上の可能性も

東京都が発表する感染者数のデータの信憑性を問われると、「PCR検査における偽陽性の割合はとても低い確率」であるため、「おそらく確実に感染した人であろうという人の数を表している」と説明。

その上で、西浦教授は「すべての感染に関する動態の全容を捉えられていないデータ」との認識を示した。

本当の感染者は現在の10倍以上いるのではないかという渋谷健司医師の指摘に対しては、「抗体調査などさらなるデータがなければわからない」としながら、「10倍を超えるような規模で感染者がいるという認識をしています」と回答。

この認識の根拠として示したのは、2月の段階で北海道での感染が拡大した際に日本へ渡航し、その後帰国した際に新型コロナ感染が確認された人の数をもとに北海道における感染者のリスク計算をした際の結果だ。

その数は累積で900人を超えており、その段階で実際に感染確定が判明していた患者の10倍程度の数を示していたという。

ウイルス絶滅のために「改善版クラスター対策」を

クラスター対策班は2月下旬から4月初旬まで保健師による聞き取りなどをベースとした感染封じ込めに注力してきた。

4月8日に緊急事態宣言が発令されて以降は、人と人との接触を8割削減する施策を打ち出す方向に切り替え、いまも外出自粛と同時に接触を減らすことが強く呼びかけられている状態だ。

今後、感染拡大の波が緩やかとなった際には、改めてクラスター対策を行う必要があると西浦教授は言う。

「よかった点、よくなかった点をデータ分析でまとめている。3密の場所がハイリスクであることに変わりはない。今後は、より有能であろう積極的疫学調査を実施しなければならない。携帯電話のアプリを使う等、色々と構想しています」

進むのはアプリによる追跡調査を行うための準備だ。

携帯電話にアプリをダウンロードすると、15分以上の接触が記録され、接触者の中で新型コロナの感染が確認された場合に連絡がいくようなアプリ活用が検討されている。

個人情報の保護の観点など、クリアすべき問題は多い。だが、それらを解決して急速に話を進められるよう法律の専門家や社会科学の専門家を交えた会議が既に発足しているとした。