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医療機関のために何かをしてほしいとは思っていない。でも… クリスマスにコロナ治療最前線の専門家が願うこと

聖路加国際大学の坂本史衣さんは、人々に何を願うのか。「医療現場の負担を減らすために感染予防をしてほしいのではなく、やっぱり皆さんには健康に過ごしてもらいたいんです」

「市民に対して医療機関のために何かをしてほしい、とは我々は思っていないんですよ」

「医療現場の負担を減らすために感染予防をしてほしいのではなく、やっぱり皆さんには健康に過ごしてもらいたいんです」

新型コロナ治療の現場で感染対策に当たる聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャー・坂本史衣さんはBuzzFeed Newsの取材にこのように語る。

年末年始はどのようなポイントに注意をして過ごすべきか。坂本さんに話を聞いた。

都内の1例目、2例目を受け入れてから…

この1年、多くの医療機関が新型コロナの治療に必死にあたってきた。

坂本さんが働く聖路加国際病院では、1月下旬に都内の1例目と2例目を受け入れてから、新型コロナの疑いが強い患者を含めて現在までに1000人以上を受け入れてきた。

思い返せば、中国で原因不明の肺炎が発生しているらしいという報道を初めて目にしたのは昨年の12月のこと。

年明けの1月9日に発行した院内の感染対策マニュアルは改訂を重ね、現在は第16版となっている。

秋以降は新型コロナの入院患者が30人から40人ほどで推移しているという。

患者は重症度に応じて集中治療室の個室、もしくはコロナ専用の一般病棟へ入院する。入院期間は長く、ベッドの空きは出にくい。

内科系の病棟をコロナ専用病棟にしたため、そこに入れなくなった内科系の患者を他の病棟が引き受けている状態だ。

「外来では、COVID-19 が否定できない症状のある患者さんが増えてきており、最近はひっきりなしにCOVID-19 の診察と検査をしているような状況です。外来や病棟の現状は市中での流行状況を反映するのだといつも思います」

こうした医療機関の逼迫は、全国の感染拡大が続く地域で起きている。

もしも帰省しなくてはいけないなら…

新型コロナ対応に追われる医療従事者は、この年末年始、一般の人々に何を望むのだろうか。

例年であれば年末年始にかけて帰省する人も多い。だが、今年は慎重に検討するよう専門家は呼びかけている。

「行った先に高齢者はいるのか、基礎疾患を持っている人はいるのかということは考えた方が良いと思います」

坂本さんは、もしも高齢者や基礎疾患を持つ人が帰省先にいる場合には「感染状況が落ち着くまで帰省を見送ることも1つの選択肢」と説明する。

どうしても今年帰省したい、という場合であってもお互いの体調が悪い場合は見送ることが望ましい。

その上で、それでも帰省をする人の場合はどのような点に注意すべきなのだろうか?

「どうしても今年帰省したい、あるいは帰省しなくてはならない場合は一緒に食事をする、食べ物がなくてもお茶を飲むといった場面に注意が必要です。近距離でマスクなしで会話をすれば感染リスクは高まります」

「会うとしてもマスクを外さない。そして、なるべく少人数で会うこと、短時間にとどめることでリスクは下げることができます」

「飲み会はやめておいた方が良い」

忘年会や新年会について首都圏など感染拡大地域では開催を見送るよう、新型コロナ分科会もメッセージを発している。

坂本さんも「感染者数が増えている地域では、飲み会はやめておいた方が良い」と話す。

「飲み過ぎて倒れた、意識がなくなった、酔って転んで怪我をした、頭を打った…といった飲み会に関連した救急搬送が、忘年会や新年会シーズンには見受けられます。また、冬場は脳卒中や心臓病、様々な原因による肺炎などでそもそも救急搬送される人が多いシーズンです」

「そんな中で新型コロナの患者が増えている。しかも、年末年始は例年、医療機関が手薄になりがちです。今、病床が逼迫する地域で万が一のことが起きた場合、物理的に病院がいっぱいで救急搬送できないといったことになってしまう。そういったリスクは取らない方が良いと思います」

また、感染者数がそれほど多くない地域でも注意が必要だと坂本さんは言う。

「東京都と比べてしまえば、どの地域も感染者数はまだ少ない。でも、地域ごとに医療のキャパシティは異なります。地方では新型コロナ感染者数も少ないけど、病床数も少ない。ですから、感染数が増加傾向にある地域では今年は忘年会や新年会はやめておいたほうが良いでしょう」

飲食店でなければ安全とは限らない

感染リスクは飲食を共にするという行為で高まる。そのため、自宅に人を招き、ホームパーティーを開くといったことも感染拡大地域では避けた方が良いという。

「家族に関しては、感染リスクという点では運命共同体です。高齢者などのハイリスな家族と話をするときはマスクをつけたり、食事の時間を分けることは有益かもしれませんが、家庭内感染を防ぐことは非常に難しい。それよりも、普段同居していない人たちと、どのような場面を共有することで感染リスクが高まるのかということに注意すべきです」

「屋外であっても、マスクなしで近い距離で会話をすれば感染リスクはあります。換気を図ることは重要ですが、飛沫感染のリスクを忘れてはいけません」

「そこでどれだけ飛沫の飛ばしあいが起きるのか。人数が多く、時間が長くなればリスクも大きくなる。さらにお酒が入れば、声も大きくなるでしょう。それがホームパーティーであろうが、飲食店であろうが、カラオケ屋であろうが同じです」

初詣に行くならば、どうすべき?

初詣についても注意喚起がなされている。

最も良いのは「今年は初詣へ行かないこと」とした上で、行く場合には混雑する神社やお寺を避けること、混雑する時間を避けることが必要だと指摘する。

「神社やお寺ではお札や破魔矢をオンラインで販売していたり、参拝期間を長く設定していたり、しっかりと距離を保って参拝できるように工夫されているところもあります。いつも足を運んでいる場所がどのような対策をとっているのかを調べてみるのも良いと思います」

参拝する時は感染対策を万全にしていたとしても、その前後で感染リスクが高まる行為をとってしまっては意味がない。

混雑している場所では歩きながらの飲食を控える、マスクを着用するといった工夫が必要だという。

「神社やお寺も、それから参拝する人たちも協力して感染リスクを下げることが大事です」

「現場の負担を減らすために何かしてくれというよりも…」

「医療現場は1月から、ずっと休まず動き続けてきました。この1年、新型コロナの患者を見ている医療機関も、そうでない医療機関も、気を張ってやってきた。ですから、疲れてしまった人も多いと思います」

「身体的な疲れも、精神的な疲れもあるし、医療機関には経済的な打撃もあります。でも、それらを理由に止まるわけにもいかない。これからも患者さんが出てくれば、できる限り受け入れる。そうやって小さなところから大きなところまで医療機関は自分たちの役割を果たしていくことになるでしょう」

医療従事者の1人として、坂本さんは今何を思うのか。

「市民に対して医療機関のために何かをしてほしい、とは我々は思っていないんですよ」

坂本さんの口からは思わぬ答えが飛び出した。なぜか?

「我々にいつも温かいメッセージをくださるとか、拍手を送っていただくとか、飛行機が飛んだりとか、それは素直に嬉しいですし、ありがたいです。ただ、医療現場の負担を減らすために感染予防をしてほしいのではなく、やっぱり皆さんには健康に過ごしてもらいたいんです」

「新型コロナという病気は決して楽な病気ではないんです。若い人には軽症な方が多いのは事実ですが、後遺症が残る方もいます。家庭内で家族に感染を広げてしまえば、自分は元気になっても、お父さんやお母さんが重症になることもある。自分が発端となって、家族が重症化してしまうのは辛いことだと思います」

坂本さん自身、「医療現場で働く人のために何ができますか?」と度々尋ねられるという。その度、願うのは「どうか健康に過ごしてください」ということだ。

「ご自身も家族も、そしてその周りの人にも健康に、安全に過ごしてもらいたい。それが我々の願いです。生活されている方お一人ひとりに、どうかどうか健康でいてほしい」

「感染対策を完璧にしようとして疲れていらっしゃる人もいると思います。ですから、常に気を張っていてくださいとは言いません。ですが、感染リスクが高まる5つの場面など何が危ないのかがわかってきています。そうした場面だけでも避けてほしい」

「常に100%、そうした場面を避けることは難しいかもしれません。でも、今まで50%程度しか避けることができていなかったのであれば60%か70%くらいまで上げられないか考えてみてもらえると嬉しい。まずは自分自身でとれる対策をとりながら、元気に過ごしてもらいたいです」