11月9日にリリースされ、「今年の個人的ゲームオブザイヤー」「あまりの素晴らしいシナリオに涙が止まらなかった」など各所で高評価が相次いでいるインディーゲーム『SANABI(サンナビ)』(Steam/Nintendo Switch)の、日本語ローカライズが近日中に修正されることが決定しました。
現在、ゲームに惚れ込んだ日本人ファンの協力のもと、翻訳改善に向けて作業を進めているとのこと。編集部は『SANABI』を製作したグループと、翻訳ボランティアを買って出た人物にその熱い思いを取材しました。
アクションとシナリオが完璧に噛み合った、2Dワイヤーアクションゲーム
『SANABI』は元軍人である主人公が、右腕に装着した「チェーンフック」を操り、巨大なサイバーパンク都市の中を高速で駆け抜けていく2Dアクションゲーム。
爽快感あふれるワイヤーアクションは、『進撃の巨人』の「立体機動装置」や、『スパイダーマン』がビルとビルの間を飛び回るような体験ができ、遊んだ人からは「超気持ちいい」「自分がゲームうまくなったと感じる」など高い評価を得ています。(Togetter)
しかしそれ以上に、遊んだ人が口々に「素晴らしかった」と絶賛しているのが、ゲーム体験と完璧に噛み合ったその"シナリオ"です。
ゲームキャスターの岸大河さんが自身のX(旧Twitter)で「1年分泣きました」と発言したり、シナリオライターの奈須きのこさん(『Fate』シリーズや『空の境界』のシナリオを担当)が自身のブログで「ゲームライターとして致死級のダメージを受けました」と称賛していたりと、中盤からラストにかけて加速度的に勢いを増していくシナリオこそが、このゲームの真骨頂と言ってもいいかもしれません。
唯一、日本語翻訳だけは……
その一方で、多くのプレイヤーが口を揃えて残念がるのが「翻訳の質が悪い」ということでした。
しかも"違和感"と呼べるようなレベルではなく、「ギリギリ意味が通じるかどうか」というレベルの翻訳ミスが多発していたり、主人公が突然"ですます口調"になりキャラクターが崩壊したりと、翻訳品質が気になってしまいせっかくのストーリーに集中できないこともしばしば。
幸いなことに、崩壊が激しいのは主にゲーム中盤あたりで、ストーリーが盛り上がる終盤になると再びまともな翻訳に戻るため、現状では「翻訳の質は悪いけど、その分を差し引いてもストーリーが良い」というのが大方の評価ではあるのですが……それでも「素晴らしいゲームなだけにしっかりと修正してほしい」と願う声は決して少なくありませんでした。
ゲームを作ったグループに取材すると……
BuzzFeed JAPANがゲームを制作したグループ「WONDER POTION」に日本語訳の改善について取材すると、『SANABI』に心打たれた日本のプレイヤーAshさん(@IlAshll)がボランティアとして翻訳の改善に協力しており、早急に修正予定であることを教えていただきました。
(インタビュー翻訳:編集部、翻訳協力:Ashさん)
――日本では徐々にではありますが、『SANABI』に非常に高い評価が寄せられています。今のお気持ちを教えてください。
WONDER POTIONの開発者たちは子どものころから、日本の漫画やアニメを楽しんでいましたし、私自身もそうでした。
そんな私たちが作ったゲームが日本でリリースされ、多くのゲーマーにプレイしてもらえるのはとてもうれしいです。
特に私は中学生のころ、奈須きのこ先生の「空の境界」がとても好きだったのですが、先生が『SANABI』を楽しんでくださったと聞いて、今でも信じられないような気持ちです。
――『SANABI』はどのような開発チームで作られたのでしょうか?
私たちは韓国のゲームジャムイベントで出会った5人の学生でした。私たちは一目でお互いの情熱と能力を認め、一緒にゲームを作ることを決めました。
多くの間違いや失敗がありましたが、4年という時間を経て、最終的に『SANABI』をリリースすることができました。
――高い評価が寄せられる一方、「翻訳の質だけは悪い」という声が日本だけでなく英語圏や中国語圏からもあがっています。こちらについて把握していましたか?
もちろんです。SANABIはテキストの量が多いストーリーゲームなので、より悔しく感じています。
幸いなことに、私たちは翻訳の問題を認識しており、様々な対策を講じて翻訳の品質を向上させようとしています。
特に日本語については、熱心なゲーマーであり翻訳者であるAshさんを通じて改善作業を進めています。このインタビューを通して、改めてAshさんに感謝の意を表したいと思います。
――有志のボランティアを名乗り出たAshさんから連絡をもらった際、どんなお気持ちでしたか。
私たちは、ほかの国の言語が適切にローカライズされているかどうかを把握する能力がなく、最終的にはその国のレビューから調べるしかありませんでした。
そのため(日本の評価を見た際も)途方に暮れていましたが、ボランティアで翻訳を修正してくれると聞いてとても感激しました。他の国のゲーマーが私たちのゲームのために才能を分けてくれるのはとても素晴らしいことです。ただただありがたいと感じるばかりでした。
――翻訳の改善はいつごろを予定していますか?
私たちは改善された翻訳を受け取り次第、ゲームに反映させます。
ただし、各マーケットの検収手続きがあるため多少お時間をいただく予定です。遅くともSteamは2週間以内、Switchは1カ月以内にアップデートする予定です。
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併せて、編集部では翻訳ボランティアのAshさんにも取材しました。
有志で翻訳の改善に協力したAshさんに取材すると…
――有志で翻訳を願い出た理由を教えてください。
ひとえに『SANABI』への愛からです。この素晴らしいゲームへ何かお返しをしたいと思い、無償での翻訳修正を申し出ました。
こんなに魅力的なゲームなのに、翻訳の瑕疵(かし)が原因で「いいゲームだったけど……」と評価されるのはもったいなさすぎる! という悔しさもありました。
――プレイ後は熱いものが自分の中に残りますよね……! 翻訳に関して苦労したことを教えてください。
月並みな回答になってしまうんですが、韓国語特有の表現や専門用語を訳す際にはかなり悩みました。
僕の韓国語は堪能であるとまでは言えないので、行き詰まったときにはネイティブの友人や開発者に質問して助言を頂いたり、訳文を一緒に考えてもらったりしました。
加えて、相当な量のテキストをチェックする必要があったので、修正が完了した後の校閲も大変でした。幸いにも言語感覚に優れた友人にチェックを手伝ってもらい、ミスや違和感のある箇所を短期間で修正できたので非常に助かりました。ここで、彼への感謝を述べたいと思います。
簡単な作業ではありませんでしたが、様々な語彙や表現を学べて、何よりも『SANABI』に携われて純粋に楽しかったです!
――修正された翻訳でもう一度遊ぶのが楽しみです! ありがとうございました。最後に『SANABI』への思いについて教えてください。
僕はインディーゲームが好きで、よく友人がプレイしている様子を見たり、自分でプレイしたりもしますが、『SANABI』はそれらのゲーム体験の中でもひと際異彩を放つ作品でした。学生5人がこのクオリティのゲームを創ったという事実が未だに信じられないほどです。
実際にプレイしてみると分かるのですが、「アクション」「効果音」「BGM」「演出」「グラフィック」「シナリオ」など、ゲームを構成するあらゆる要素が微に入り細を穿った出来栄えで、それらのディティールから開発側の情熱と野心、そしてゲームへの愛をひしひしと感じられるのも一介のゲーマーとして非常にうれしかったです。
そんな『SANABI』にわずかながらでも貢献できたことはかけがえのない経験でした。僕の翻訳がこのゲームをより良いものにできたなら、これ以上の喜びはありません。これから、より多くの日本人ゲーマーが『SANABI』をプレイし、感動してもらえることを心から願っています。
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クリエイターの熱い想いがプレイヤーにも伝播し、そして作品がより良いものになっていくというのはなんとも素敵なお話です。
筆者も11月にプレイし、やはり翻訳に関してはひどすぎると感じましたが、「今年1番素晴らしかった」とその面白さに打ちのめされました。今でもその余韻は冷めません。
翻訳が修正され、より素晴らしいものとなったこのゲームを、日本中の人が楽しんでくれることをいちファンとして願っています!
『SANABI』はオンラインストア(Steam / Nintendo Switch)で販売中。価格は1520円です。
取材協力:WONDER POTION(@WONDERPOTION)ユ・スンヒョンさん、Ashさん(@IlAshll)