AppleのVPが語る未来――それはまさにスティーブ・ジョブズの夢

    自由と解放のDNA。Appleのいま。

    ガラスの自動ドアをくぐると、目にはいるのは、壁に並ぶiPhoneの精彩な写真。プロダクトが鎮座するテーブル。しんと静まり返った空間は、まるで宇宙船の中のようだ。ここはスティーブ・ジョブズが生み出したApple Japan

    BuzzFeedは、AppleでMacのVPを務めるブライアン・クロールに話を聞いた。彼は「日本は、アメリカ以外で初めて独自のストアを設けた国でした」と語り始めた。

    言語の壁がある日本という市場

    「Appleにとって日本は特別な場所です。アメリカ以外で独自ストアを出すにはどこがいいか……銀座しかない。2003年のことでした」

    創業者、故スティーブ・ジョブズが師として慕ったのは日本の禅僧だった。ヒッピーやロックなどさまざまな文化を吸収してきた彼が、最終的に行き着いたのは禅の美学だった。「単純であることは、究極の洗練である」。これはAppleが生み出すモノ・コトすべてに徹底されている。

    そんな特別な場所、日本には大きな壁がある。言語だ。だからこそ、Appleは日本のローカライズには心血を注いできた。日本語フォントを独自で開発したのは1986年。今からちょうど30年前のことだった。文字の空間、余白、カーブ……ユーザーが「心地良い」と感じるには、そんなこだわりがある。

    Appleと日本の関係はそこからさらに広がりを見せた。フォントの開発にとどまらず、絵文字を世界に広め、最近では日本語に適した変換機能も開発した。

    言語の壁を越える努力のもと、日本でAppleの製品は普及していった。「PC市場は縮小しているにも関わらず、Mac販売台数は伸びています。日本国内のシェアは、ここ5年で2倍になりました」クロール氏は言う。

    最近では、東京大学清教学園など、多くの教育機関でMacが導入されている。私が学生のころ、コンピューターは難しいものだった。機械は苦手――授業を受ける度にそんな先入観は強くなった。そう思った人は少なくないだろう。コンピューターはあまりに敷居が高かった。

    しかし、今この記事を読んでいる時に見つめている「それ」、今日のランチを撮影した「それ」、Tweetを打ち込んだ「それ」は、紛れもなくコンピューターなのだ。誰もがコンピューターによって、自由を獲得できる。たとえ私たちが英語を使えなくとも。

    自由の種が撒かれたのは15年前だった。

    2001年1月。重要な宣言がなされた。デジタルハブ戦略だ

    身の回りにはビデオカメラ、MP3、テレビ、DVDプレイヤーなどあまりにモノが多すぎる。使い方はそれぞれバラバラ。専門知識がないと自分が思い描いたクリエイティブが実現できない。もちろん購入するコストもかかる。そんな枝分かれしたものを、Appleのコンピューターがハブとなり統合していく、というものだった。

    BestReviews / Via bestreviews.com

    コンピューターはエンジニアなど限られた人たちのものだった。その門戸を開いて、みんなが自由に表現できるようになる。それこそがジョブズの言う「世界を変える」ことだった。

    もうMacはハブではない。Apple製品は、ビートルズのごとし

    しかし、この構想が語られて15年。意味は変わりつつある。2007年にApple ComputerからApple Incに社名が変わったことがそれを物語っている。もやはコンピューターだけがハブになるのではない

    実際、クロール氏も「各プロダクトは素晴らしい役割を果たすように作っていますが、ひとつでは完成しない。iPhoneだけよりもMacと合わせたり、AppleWatchと合わせた方が劇的に便利になる」と語っている。

    iPhoneもAppleWatchもMacも、すべてが等しく価値ある存在なのだ。

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    TheBeatlesVEVO / Via youtube.com

    かつてジョブズは、Appleの経営はビートルズを模していると言っていた。メンバーの個性がお互いの良さを拡げる。ポール・マッカートニーやジョン・レノン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスンらの相互作用によって、音楽史を変えた。

    スティーブ・ジョブズ、最期の贈り物

    まるでビートルズのような顔ぶれのApple製品を結びつけるのがiCloudだ。2011年に発表されて以降、目に見えない形で私たちの生活になじんできた。iPhoneで書いたメモは一瞬でMacに反映される。ダウンロードした曲はMacやAppleWatchですぐに聴ける。


    制約を越えて

    Appleの構想のひとつに「解放」というキーワードも挙げられる。モノの所有、表現の敷居からユーザーを解放するのは彼らがずっと追い続けてきたテーマ。今ではその流れがさらに進み、より多くの人が自由を手に入れつつある。一流のクリエイターも中学生もみんな同じ表現手段を持っている。

    昨年リリースされたMacBookが象徴的な例だ。充電、USB、ディスプレイ、有線……コンピューターにはさまざまなコードが必要だった。しかし、MacBookにはコネクタがたったひとつしかない。

    「不便だという声は?」クロール氏に聞くと「私たちはデバイスで革命を起こそうとしているのです」と返ってきた。

    これは、「モノ」からの解放を意味しているように見える。コードは居場所を制限する鎖だった。クラウドでその鎖は解き放たれ、距離という制約から私たちを自由にする。

    スティーブ・ジョブズが他界したのは2011年。今年で5年になる。創造主を失ったAppleの行く末を心配した人も多い。確かに彼の現実歪曲フィールドはなくなったかもしれない。しかし、より多くの「解放」に向け、クラウド戦略を押し進めるAppleには、彼のDNAが受け継がれている。

    そう、彼が思い描いた夢は静かに実現されつつある。目に見えない形で。