• covid19jp badge
  • factcheckjp badge

「ワクチンで5Gに接続」こんなコロナのデマ対策に国連が総力をあげるわけ

国連が、世界規模でコロナ対策やワクチンに関するデマや誤情報に立ち向かうキャンペーンを続けている。なぜ国連は、コロナやワクチンに関するSNS上の誤情報に注目するのか。

国際連合が、新型コロナウイルスの感染対策やワクチンに関する誤情報やデマのまん延を食い止めることを目的に、2つのキャンペーンに本腰を入れている。

正確で信頼できる情報を届ける「Verified/検証済み」と、SNSでの情報の安易なシェアに注意を呼びかける「Pause/ちょっと待って」だ。米マサチューセッツ工科大がアメリカとイギリスを対象に行った研究では、キャンペーンで誤情報の伝播速度を下げる効果が出ているという。

なぜ国連は、新型コロナの問題でSNSでのデマに着目して世界規模で動いているのか。グローバル・コミュニケーションを担当するメリッサ・フレミング国連事務次長が、BuzzFeed Newsの取材に応じた。

コロナは健康だけでなく情報流通の危機

ーーなぜ国連は、コロナにまつわるSNS上の誤情報対策に乗り出したのでしょうか。

SNS上の誤情報や偽情報については、コロナがパンデミック(世界的大流行)となる以前から憂慮していました。例えばヘイトスピーチや、暴力によって大勢の人々が隣国に逃れることになったミャンマーでの反ロヒンギャ言動などです。

そして私たちは今回のパンデミックで、これは医療や公衆衛生面での対策が必要な「健康と生命の危機」だけでなく、事実ではない噂や陰謀論が広がる「コミュニケーションの危機」でもある、と早期から認識していました。人々が信頼できる情報を、グローバルに普及させていく必要があるのです。

世界保健機関(WHO)が、コロナのパンデミックに加えて誤情報やデマが広がる「インフォデミック」への警戒を呼びかけてすぐ、国連のプラットフォームをあげて、科学的に正しい情報発信に取り組むことを決めました。国連は世界中に事務所と各種の専門家を持ち、SNSで多数のフォロワーを持っていますから。

しかし、科学的に正しい情報というのは往々にして、長大で読みにくいPDFファイルに収められたりしています。一方、偽情報、誤情報をばらまく人々は、SNS上ですぐにシェアされるような短くて感情を刺激するコンテンツを作るのがうまいということもできます。

だから、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は2020年5月に「Verified(検証済み)」キャンペーンの立ち上げを宣言した時、「科学的で人々の団結を強める情報と解決策で、インターネット空間をあふれさせる」と言ったのです。

私たちが作るコンテンツは、今まで国連がやったことのないようなかたちで、ソーシャルメディア向けに多言語で展開しています。しかし、国連だけではできないことも理解しており、パーパスというコミュニケーション企業とパートナーシップを組みました。

昨年、彼らとともに約1000種類のコンテンツを作成し、世界中の国連事務所に回しました。各事務所がそれを地元の文化に沿ったかたちで翻訳して各地のローカルパートナーやインフルエンサーを通じて広めることにしたのです。

コロナはSNS時代初のパンデミック。デマ、不確かな情報やヘイトスピーチが拡散され #インフォデミック が深刻に。科学と事実と連帯に基づく国連🇺🇳の「Verified(検証済み)」キャンペーンを、日本🇯🇵も含め多くの加盟国がインフォデミックへの対抗策として支持。今ほど信頼できる情報が必要な時はない👇 https://t.co/ahiFZ1AUdn

Twitter: @KaoruNemoto / Via Twitter: @KaoruNemoto

Verifiedを紹介する根本かおる国連広報センター所長のツイート

「飲んだら乗るな」のように「シェアの前に、ちょっと待って」を新常識に

まず最初の狙いは、正確で人を引きつけ、魅力的なかたちで公衆衛生に関する情報を広めることでした。

二つ目は、人々に偽情報の問題に注意するよう呼びかけることでした。というのも、多くの人が一種のパニック状態でネットを検索し、引きつけられた情報を本能的にシェアしていたからです。

これは各種の研究結果からも明らかです。そこで私たちは、新しい社会常識を作ろうと考えました。

例えば飲酒運転対策で「飲んだら乗るな」という言葉がありますよね。

SNSでは、目についた何かをすぐシェアするのではなく、まず立ち止まって考えよう、ということです。

このキャンペーンを「Pause/ちょっと待って」と名付け、デマのまん延を防ぐため、シェアの前にちょっと立ち止まり考えよう、と呼びかけることにしたのです。

#新型コロナウイルス の今、デマは命にかかわります。 でも、私たちにできることはあります。 あなたがオンライン上で何かに反応しようとしたら、デマを広めないため #シェアする前に考えよう #PledgeToPause

@UNIC_Tokyo / Via Twitter: @UNIC_Tokyo

「シェアする前に考えよう」と呼びかける国連広報センターのツイート

さらにデジタル空間だけでなく、アフリカの一部の国のように市民がラジオだけで情報に接する地域に向け、アフリカのケーブルニュース局と組んで、ラジオや携帯のSMSでも「シェアする前に注意しよう」と呼びかけました。

国連本部だけでなく、難民高等弁務官事務所(UNHCR)やWHO、ユニセフも同様に動き、人々が検索したりして情報を探す時、正しい情報が先に出てきて誤情報を圧倒するようにしたのです。

ツイッター社がリツイートする前に、その内容をまず読むように警告するメッセージを出すようにしたことは、とても良かったと思います。もしかしたら、私たちの取り組みにヒントを得たのかも知れませんね。

最近はワクチンが世界的な話題ですが、ツイッターは様々な努力をし、反ワクチンのコミュニティを追いかけていますし、ワクチンに関する私たちのポジティティブなメッセージを広告などのかたちでも広めてくれています。

いたちごっこでもデマ潰しを続ける

こうした様々な努力が続いているのですが、今も検索すれば誤情報はどこでも見つかります。今でも巨大な問題なんです。デマを一つ潰すと、また新しいのが出てきてしまう。いたちごっこのようです。だから、本当に大変な闘いなんです。

ファクトチェック活動などを続けているFirst Draft Newsの最近の報告に、ワクチンに関する情報への需要は極めて高いのに、信頼できる情報の量が少ないというものがありました。私たちも同じ認識に立ち、このギャップを埋めようとしています。でないと、悪意を持つアクターに、このギャップを利用されてしまうからです。

ーーどこか特定の地域に焦点を当てていますか?

国連はグローバルな組織なので、常にグローバルにキャンペーンしています。そのうえで、当初からインド、ブラジル、アフリカ大陸、中東地域にフォーカスしています。特にインドとブラジルに深く注力し、コンテンツ・クリエーターが活動しています。

例えばブラジルだと、リオデジャネイロのカーニバルの時期に通りにワクチンに関する大きなバナーを飾りました。

また、有名なコルコバードの丘のキリスト像をライトアップして白衣の姿にし、コロナと闘う医療従事者の姿を映し出して感謝の言葉を贈りしました。これにはカトリック教会も協力し、メディアの大きな注目を集めることができました。

現地では、政府がコロナが脅威だと認めようとしなかった時期があります。マスクやソーシャルディスタンスの重要性などについて誤情報や偽情報が広がりました。政府は真剣に対策しようとしませんでした。

だから、我々がギャップを埋めて、市民に「コロナは大きな問題だ」と知らせる必要があると感じたのです。ブラジルでは2021年に入っても感染拡大が収まらないこともあり、ワクチンに関する正確な情報の拡散に本腰を入れています。

パンデミックの始まりから1年以上経っても、まだソーシャルディスタンスやマスクの重要性を広めなくてはいけない。信じられないことですが、世界のいくつかの国で、今もそういう活動を続けています。

インドでも、いくつもの言語でインフルエンサーや各種メディアを通じて情報を広めました。

出すべき情報はシンプル

パンデミックの中でやらなくてはいけないことは、ある意味で実は単純で、どこでもよく似ています。みんなに基本的な情報を届ければいいわけです。

その基本的な情報とは

・新型コロナウイルスは実在する脅威で、非常に危険だということ

・ワクチンを受けるまでは(ソーシャルディスタンスやマスク、手洗いといった)とてもシンプルな手段で感染から身を守ろうということ

・そして、ワクチンはまさに科学の奇跡と言っていい存在で、安全だということ。副反応があったとしてもリスクは低く、うたずにコロナに感染して死亡する危険性の方がはるかに高いこと

こうしたメッセージを、それぞれの国の文化にあったかたちに置き換えて、何度も何度も、繰り返し届ける必要があるわけです。

ニューヨークの本部からは、日本を含む各国での適切なメッセージの出し方は、なかなか把握できません。だから、各国の事務所やパートナーを通じて地元に特化した戦略を練り、実行するのです。

それでも、陰謀論に凝り固まって耳を塞いでいる人にはなかなか届きません。だからまずは、ワクチンに少し不安を感じているような、どうしようかと迷っているような中間層にまず働きかけ、科学的に信頼できる情報を見るようにしてもらおうと考えています。

ーー全てのメディアや、国連をはじめとする公的な情報は操作されていて信用に値しない、と考える人々は実在します。

メディアへの信頼感は国によって異なり、上昇している国もあります。しかし、トランプ政権時代のアメリカのように分断が拡がった国にもあります。私たちとしては、国連と国連機関を信頼できる情報源として確立したい、人々がアクセスできる存在にしたいと思っています。

また、これから「Team Halo」というプロジェクトを広めようとしています。TikTokなどさまざまなプラットフォームで、ワクチンに関する質問に答えようというプロジェクトです。

ーー怒りや憤りといった感情を刺激する誤情報、偽情報の方が、正しく冷静な情報よりも広く、早くシェアされて出回るというのが、これまでファクトチェック活動をしてきた実感です。国連の皆さんも、同じ問題を抱えているのでは無いでしょうか。

人々は、恐怖や怒りを感じたりときにリアクションを取りがちです。アメリカでQアノンの陰謀論があれだけ広まってしまったのも、多くの人々が操作された情報を信じ、しかもそれが自分たちが調べた結果だと思い込んで「あっちの世界」にはまってしまったからですが、私たちは情報操作はしません(苦笑)。

ーー誤情報を「これを知人に知らせなければ」という善意から、検証しないまま周囲の人々にシェアすることもあります。

それが「ちょっと待って」キャンペーンで食い止めようとしている事の一つです。いかにも本当っぽい書き込みを見たら、まずちょっと時間をかけて、ソースを見る。どこから来たのかを考える。その写真は本物なのか。そういうことが必要です。さらに私たちは約1600人の情報ボランティアを集め、誤情報や偽情報が地元のコミュニティで広がるのを防ぐ役割を担ってもらっています。

デマを信じて命を落とした人もいる

ーー国連で、SNSなどの誤情報や偽情報が社会に実害をもたらした例を把握していますか。

そういう例は、非常にたくさんあると思います。

パンデミックの初期、マスクやソーシャルディスタンスを拒否する人がたくさんいました。

Facebookで私が見た例としては、ある男性が「私も妻も、マスクを付けろというのは陰謀論だと思っていた。しかし私たちは感染し、妻は亡くなった」と語っていました。彼はその後、様々なメディアのインタビューに応じ、Facebookで教わったことでミスリードされたと説明していました。

コロナなど存在しないと信じた人々をはじめ、すでにとても多くの命がこうしたことで失われているのです。このほかにも、病院に行くよりもある種のお茶やハーブが効くとか、さまざまな誤情報があります。

ワクチンに関する陰謀論は、非常に危険です。

接種したら人体が5Gに接続されるとか、DNAが改変されるとか、人口を減らすための企みだとか、そういうデマでワクチンの普及が妨げられれば、大きな問題です。

私たちは科学の力によって効果的なワクチンを手に入れたというのに、供給や物流の問題、ワクチン・ナショナリズム、そして人々の誤った振る舞いなどの問題が起きるようであれば、せっかく科学の力で有効なワクチンを手にしたというのに、私たちはこのパンデミックから早く抜け出せない危険性もあるのです。