Updated on 2020年1月11日. Posted on 2020年1月8日

    イランの軍事力は世界14位。米軍をミサイル攻撃したその能力と戦略は

    米国とイランの間で緊張が高まる中東。米軍を敵に回すイランは、どれくらいの軍事力を持っているのか。米軍が殺害したスレイマニ司令官とは、何者なのか。

    イランがイラク駐留米軍の基地をミサイル攻撃したことで、緊張が高まっている。

    「世界最強」の名をほしいままにしてきた米軍に対抗するイランの軍事力は、どのくらいのものなのか。

    中東でイランが続けてきた戦略は何か。そして、米軍が殺害したイラン革命防衛隊・コッズ部隊のソレイマニ司令官とは、何者なのか。

    イランの軍事力は世界14位

    AFP=時事“

    世界137ヵ国の軍事力を比較するサイト、Global Firepowerによると、2019年のイランの軍事力は世界14位にランキングされている。なお13位はブラジル、15位はパキスタンだ。

    一方、米国は1位。2位以下のトップ10は次の通りだ。

    2)ロシア

    3)中国

    4)インド

    5)フランス

    6)日本

    7)韓国

    8)イギリス

    9)トルコ

    10)ドイツ

    イランは、正規軍(イラン国軍)とともに、より精鋭とされる革命防衛隊(写真)という軍事組織を持つ。一つの国家に軍事部門が二つ並立するという、他の国にはあまり見られない特徴がある。

    二つの軍事組織が並立するわけ

    AFP=時事

    それには、1979年に今の体制を形作ったイラン・イスラム革命が影響している。

    イランはかつて、パーレビ国王(写真)が独裁する王政国家だった。

    パーレビ国王は親米路線を採り、最新兵器を米国から輸入。強力な国軍を作り上げた。外交も米国と同調。米国の「代理人」として中東ににらみをきかせ、「ペルシャ湾岸の憲兵」と呼ばれていた。

    そしてパーレビ国王は、国内では秘密警察などを駆使して強権支配を続け、社会の世俗化(脱イスラム化)や服装など文化の西洋化、工業化など「上からの改革」を急進的に進める「白色革命」と呼ばれる政策を採った。

    その結果、インフレや貧富の差の拡大などの社会問題も激しくなった。

    イラン国民の9割はイスラム教シーア派の信者だ。多くの市民が「イスラムに基づく公正な統治」を訴えるホメイニ師らイスラム法学者らを支持。民主化とイスラムへの回帰を同時に求める動きが激しくなった。

    各地で激しい反政府デモが起きて混乱が拡がった結果、国王は1979年1月に国外に脱出。王政は倒れ、いまのイラン・イスラム共和国政府ができた。

    国軍は王政時代の軍隊をそのまま継承した組織だった。

    このため、新政府は国軍が「反革命」に回ることを警戒した。国内の治安維持や外敵の排除などを任務とし、国軍が万一、新政府に刃向かった場合は武力で対抗できる組織として、「イスラム革命防衛隊」を創設した。

    イランの憲法上、国軍は「独立の維持と国土の保安」を、革命防衛隊は「革命と、その成果を護る」ことを役割とし、相互に協力すると定められている。

    英・国際戦略研究所の推計では、イラン国軍は35万人、革命防衛隊は約15万人の兵力があり、革命防衛隊はさらに2万人の海軍部隊を保有している。

    なお、こうした経緯から、イラン国軍は今も、王政時代に購入したF14戦闘機など米国製兵器を保有し、補修しながら使っている。

    イラン革命防衛隊とは

    AFP=時事

    革命防衛隊は国軍同様に陸、海、空の部隊を持っている。

    さらに弾道ミサイル(写真)の部隊や、諜報部門などもあり、バシジというイラン国内の民兵組織も傘下に置く。

    バシジとは、兵士として軍や革命防衛隊に勤務するのではなく、普段は市民として生活し、緊急時などに召集されたり、私服のまま命令を受けて任務にあたったりする一種の義勇兵、いわば「非正規戦闘員」だ。国内で反体制派の監視なども行っているとみられる。

    国軍は「正規軍」として国家の防衛を担い、革命防衛隊は国内の治安維持や国境警備、さらにイラン内外の民兵組織などを使った「非正規戦」「非対称戦」、諜報活動と破壊工作などを担うという役割分担になっている。

    革命防衛隊は、設立の経緯から国軍とは一種のライバル関係にあるうえ、国軍をもしのぐ戦闘能力を持つことから、メディアでは「精鋭部隊」と表現されてきた。

    イラン国営通信は、1月8日に米軍やNATO軍部隊が駐留するイラク西部のアイン・アルアサド空軍基地に向けて弾道ミサイルを発射したのは、革命防衛隊だったとしている。

    米軍が殺害したソレイマニ司令官とは

    AFP=時事“

    革命防衛隊内の特殊部隊が「コッズ部隊」だ。

    1月3日に米軍がイラク・バグダッドで殺害したソレイマニ司令官(写真)は、その頂点にいた。

    ソレイマニ司令官は、イスラエルや米国などイランが「敵」とみなす勢力に対する破壊工作や、イラクやレバノン、パレスチナなど中東各地で、イランの指示で動く親イラン民兵組織を育成する任務を担ってきた。

    軍事訓練を施すだけでなく、イランが開発した弾道ミサイルなどの兵器を、こうした影響下にある民兵組織に供給している。

    イラクでも、後述する「人民動員隊」など、親イランの民兵組織を育成し、指揮していたからこそ、ソレイマニ司令官は自国イランではなく、イラクの首都バグダッドにいた。そこで、米軍の攻撃を受けて死亡した。

    今回、トランプ大統領がソレイマニ司令官の殺害を決めた経緯とその背景は、こちらの記事にまとめた。

    イランとソレイマニ司令官は中東で何をしてきたのか

    AFP=時事

    コッズ部隊とソレイマニ司令官の影響下にあった中東の主な親イラン民兵組織は、以下の通りだ。

    ・レバノン=イスラム教シーア派組織ヒズボラ(神の党=写真

    ・パレスチナ=対米・イスラエル強硬派組織ハマス

    ・イラク=シーア派を中心とする民兵組織の集合体「人民動員隊」。及びその傘下にあるバドル軍、カタイブ・ヒズボラ(神の党旅団)などの多数のシーア派民兵組織

    ・イエメン=フーシ派(シーア派の民兵組織)

    これらの組織は、その地域の中央政府に対抗できる強い武力を持ち、「国家内国家」として振る舞ってきた。そして多くの場合、イランの意向に従って動く。ハマスを除けば、いずれもイランの国教と同じイスラム教シーア派の組織だ。

    中央政府が弱い地域で、職のない青年らを戦闘員として雇い入れ、一般住民にはイランからの豊富な資金で医療や食料の無料提供などを行うことで、支持を集めてきた。

    そしてイランは、これらの組織を使い、中東各地で間接的にイスラエルやサウジアラビア、そして米国と、約40年にわたり武力衝突を繰り返してきた。

    前述の通り、イランには米軍などと正面から戦うほどの軍事力はない。

    そこで、革命防衛隊とソレイマニ司令官が育成してきた各地の組織を使い、イランの国益のためにゲリラ戦を中心とする代理戦争を行うのが、イランが続けてきた戦略だ。その狙いの中心は、イスラエルと米国を封じ込め、自国の影響力を拡大することにある。

    イラン国軍は、隣国イラクの侵攻で始まったイラン・イラク戦争(1980−88年)以降、自国領域外での大規模戦闘には、少なくとも表向き、従事していない。

    もちろん米国やイスラエル、サウジアラビアなどイランと敵対する国々も、イランと同様に息の掛かった組織を育成し、イランに対抗している。

    各地の代理戦争で、それぞれの地域の市民が犠牲となり続けている。

    中東で拡がる分裂

    AFP=時事“

    その結果、中東各地で分裂が拡がっている。

    パレスチナは、反米・反イスラエル強硬路線のハマスが支配するガザ地区と、パレスチナ自治政府が支配するヨルダン川西岸地区に分裂した状態となっている。

    イエメンではフーシ派と、サウジアラビアとアラブ首長国連邦などが支援するイエメン政府軍の内戦が続く。つまり、イランとサウジなどの代理戦争でもある。戦闘で物流網が寸断され、飢餓に苦しむ子供たちが相次いでいる(写真)。

    ヒズボラはレバノンで、レバノン国軍を遙かに上回る武力を持ち、政府の意向とは無関係にイスラエル軍との戦闘を繰り返してきた。

    ヒズボラはまた、イラン革命防衛隊やロシア軍などとともに、シリア内戦に出兵。アサド政権軍と連携して反体制派武装勢力と戦闘し、アサド政権が支配地域を大幅に回復する一助となった。

    シリアの反体制派には、サウジアラビアなどから支援を受ける勢力もあり、各国の代理戦争の現場となっている。

    イラクでは、マフディー軍などのシーア派武装民兵組織が、2003年のイラク戦争直後から米軍への攻撃を続けてきた。

    2014年の「イスラム国(IS)」による侵攻後、イラク政府はイランの支援を得て民兵組織を「人民動員隊」として統合し、IS掃討作戦にイラク国軍とともに投入した。人民動員隊はイラク版の革命防衛隊のような、国軍と並立する軍事組織となった。

    なお、イラクはシーア派が国民の多数を占めており、議会でもシーア派勢力が過半数を占める。今のイラク政府は米国が2003年にイラクに侵攻し、フセイン政権を打倒したのちに米国の支援でつくられた経緯があるものの、イランと近い関係にある。

    ソレイマニ司令官は「英雄」だったのか

    AFP=時事

    こうした功績から、ソレイマニ司令官はイランで、現体制を支持する人々からは「英雄」とみられてきた。政府は「英雄の殉教」をPRし、首都テヘランでの葬列には膨大な数の市民が集まり(写真)、圧死する人が相次ぐ騒ぎとなった。

    イランでは2019年秋から、ガソリン値上げを発端に政府に対する抗議デモが各地で相次ぐようになっていた。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、少なくとも304人が治安部隊の発砲などで死亡し、大勢の市民が拘束されて拷問の危機にある、と発表している。

    こうしたデモに参加した人々にとって、ソレイマニ司令官は弾圧を加えてくる側として恐れられる存在だった。そしてイラン政府にとって、司令官の殺害は内政面での国民の怒りを米軍に向けそらす好機となったといえる。

    かたや、レバノン南部のシーア派住民や、イエメンでフーシ派を支持する住民にとって、イランとソレイマニ司令官は自分たちを助けてくれる存在だ。

    いずれの人々も、自国の中央政府からは虐げられていると感じ、それに対抗して自分たちを庇護すると主張するヒズボラやフーシ派を支持しているからだ。

    一方、例えばシリアの反体制派支配地域で暮らす市民にとっては、アサド政権を手助けするため外国から次々と戦闘員を送り、自分たちの街を破壊する「巨悪」ということになる。

    米国政府にとっては、イスラエルとの協力を基軸とする米国の中東政策を妨害する「テロリスト」ということになる。米国政府はイラン革命防衛隊を「テロ組織」に指定している。

    評価はすべて、立場によって変わってくる。

    BuzzFeed Newsではイランと米国の対立と、その国際社会への影響を報じています。

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