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「オバマ氏がスパイ容疑で逮捕」は虚偽 以前の発表文を下敷きに作成か

「オバマ氏がスパイ容疑で逮捕された」という情報がシェアされている。しかし、その情報には根拠がなく、以前の米司法省の発表を下敷きに捏造された可能性が高い。

「バラク・オバマ元米大統領が11月28日にスパイ容疑で逮捕された」という情報が、英語圏や日本のSNS上で出回っている。しかし、これはカナダの右派サイトにアップされた虚偽の内容をもとにしたものだ。

個人のツイートやカナダの右派系サイトが逮捕を主張したが、裏付けは見当たらない。この情報を紹介した日本のインフルエンサーも当初から真偽について「要確認」と注釈を付けていた。オバマ氏本人は12月2日午前3時(日本時間)にツイートしており、自由に活動をしていることが分かる。

BuzzFeed Newsはファクトチェックを行った。

右派サイトと個人のツイートが情報源

日本のSNS上で流れた「オバマ逮捕」情報の根拠はおおむね、カナダの「コンサーバティブ・ビーバー」というサイトだ。

このサイトにリンクを張り、「要確認」という注釈付きで日本語で紹介したツイートは12月2日午後現在で2000件以上のリツイートと、8000件以上の「いいね」を集めた。

コンサーバティブ・ビーバーの記述は、「元アメリカ大統領のバラク・オバマは11月28日、極秘部分を含む情報を中国情報当局の幹部に伝達しようと、元CIA局員のビジネスパートナーと共謀したとして逮捕された」としている。

さらに「(アメリカの)裁判所が報道を禁じたため、米国内では報じられていないが、カナダには無関係」としている。

しかし、どこで、どの捜査機関が逮捕したのかについては触れていない。

リンクを張られたツイート主は「このサイトは嘘をついている」

コンサーバティブ・ビーバーの文章は「刑事告訴の内容は今朝、公開された」と続き、「刑事告訴」の部分に、以下のツイートへのリンクが張られている。

Hey, if you're here because of a C*nservative B*aver link, three things: 1. That website is lying to you 2. They're lying to you because they're making money off of your clicks 3. My tweet was a joke. I was making fun of yet another dumb Twitter conspiracy

Twitter: @NataliaAntonova / Via Twitter: @NataliaAntonova

リンク先で紹介されているのは、ファクトチェック・調査報道サイトBellingcatの編集者などを務めてきたジャーナリスト、ナタリア・アントノワ記者のツイートだ。

アントノワ記者は「速報:オバマが逮捕された。続報を待て」とだけ記されたツイートのスクリーンショットを貼り付け、「最高裁長官がまたしても攻撃」という言葉を添えている。

しかし、アントノワ記者のツイートには、自らつけたレスが続いている。

ヘイ、もしも〇ンサーバティブ・ビ〇バーのリンクでここに来たのだとしたら、3つのお知らせ:

1 あのウェブサイトは嘘をついています。

2 嘘をつく理由は、あなたがクリックすることでお金が儲かるからです。

3 私のツイートはジョークでした。ツイッターに出てきた新手の馬鹿馬鹿しい陰謀論をからかったのです。

スクショにあるツイート内容はまったく信用に値せず、単なるジョークとして引用したとしたうえで、コンサーバティブ・ビーバーは広告収入狙いのサイトであり信用に値しない、と説明している。

なお、この記者は先述の通りBellingcatの編集者だった経験があり、ファクトチェックには精通しているとみられる。ジョークのツイートにリンクを張られたことに気づき、自己レスの形で意図を説明したと考えるのが自然だ。

元ツイートも根拠不明

アントノワ記者が「ジョーク」として紹介したスクリーンショットは、「元米空軍」を自称し、「宇宙人とUFOは実在する」といった内容の著書がある人物によるツイートだ。

この人物は「オバマが逮捕された」とツイートしているものの、その情報源や根拠は示していない。さらに、「コンサーバティブ・ビーバーの内容は明らかにフェイク。司法省の発表をそのまま盗んでいる」ともツイートしている。

これは、コンサーバティブ・ビーバーの内容を否定するロイター通信のファクトチェック記事を見た上で、付け加えたとみられる。

ロイターのファクトチェックは、コンサーバティブ・ビーバーの内容が、2020年8月に米司法省が出したスパイ容疑で元CIA局員を逮捕したという発表文を下敷きにしてつくられた捏造記事、と断定している。

なお、8月の事件はオバマ氏とまったく関係がない。

注釈付きで紹介したインフルエンサーも否定

コンサーバティブ・ビーバーの記事を日本語で紹介したツイートで最も拡散したのは、11万人を超えるフォロワーを持つ男性インフルエンサーのものだ。

RTと「いいね」を合計すると1万を超えるリアクションを集めた。ただし、この男性は、当初から「これが事実なら」としたうえで「要注意情報です」という注釈も付けていた。

まとめサイト「シェアニュースジャパン」は、男性のツイートをもとに「真偽不明」の注釈をつけて記事をシェア。ツイートは2500を超えるRTを集めた。「もえるあじあ」も記事をアップしたが、間もなく削除した。

先述のインフルエンサーはのちに「オバマ逮捕の件、フェイクの可能性が高い」とツイートした。ただし、こちらの拡散は2日午後4時現在、RTと「いいね」を合わせても1800に留まっており、最初のツイートの方が広まっている。

2日午後現在、SNS上では「なぜオバマ逮捕が日本で報道されない」といったツイートや、「オバマ逮捕」というハッシュタグもある。

当初から「要確認」としていた男性の意図を離れて、確認しないまま「事実」と信じる層が出ており、完全な火消しには至っていない状態だ。

なお、オバマ元大統領は2日午前3時(日本時間)、自ら立ち上げた「オバマ財団」で若者を支援する活動についてツイートしている。


米国内外の主要メディアで、「オバマ氏逮捕」を伝える記事は見当たらない。また、ロイター通信のほか、AFP通信、ファクトチェックサイトSnopesなどが相次いでファクトチェックし、コンサーバティブ・ビーバーの情報を否定している。

We started the @ObamaFoundation to help a new generation build a better tomorrow. And many of them already are, stepping up through the pandemic and protests to demand real change. On Giving Tuesday, I'm asking you to invest in them: https://t.co/EmEqSufrBP

Twitter: @BarackObama / Via Twitter: @BarackObama



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  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。