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18才のCFOが主導した「ペットボトル全廃」。高校生の提言を受け入れた企業の決意

18歳の高校生がCFOを務める企業が、その提案を受け、主力の飲料商品からペットボトルを全廃すると決めた。なぜなのか。

藻類のミドリムシを使ったバイオ燃料や食品、化粧品などの開発を進めるユーグレナ(本社・東京都港区、出雲充社長)が、飲料の商品ラインアップからペットボトルを9月から全廃することを決めた。同社が6月29日、発表した。あわせて2021年中に、商品に使われる石油由来プラスチックを半減するという。

同社で社長、副社長に次ぐナンバー3のポスト、CFO(最高未来責任者)を務める高校3年生の小澤杏子さん(18)が、仲間8人とともに取締役会に示した提言を受け入れたという。小澤さんは同社が2019年に行った公募でCFOに選ばれた。

ペットボトル飲料は、同社の主力商品の一つ。パッケージが変われば売り上げに影響が出るリスクもある。なぜ、高校生の提言を受け入れたのか。

高校生CFO誕生の背景は

ユーグレナは2005年、東京大学発のベンチャーとして発足した。東大農学部出身の出雲充社長が、様々な可能性を持つ素材としてミドリムシの培養技術を確立。石垣島で培養されるミドリムシを使った商品の開発を進めている。バイオ技術で地球環境を改善することを基本ミッションの一つとする。

ミドリムシを使った飲料や食品、化粧品をつくり、利益をバングラデシュの貧しい人々の栄養改善プロジェクトやバイオディーゼル燃料の開発につぎ込む。企業理念を大事にし、短期的利益は追わないという、成長一辺倒型の企業とは異なる経営方針を取る。

バイオディーゼル燃料の実用化は完成し、横浜市内を走る路線バスなどで採用されている。

しかし永田暁彦副社長は、ある問題に気づいたという。

「会社と地球の未来のことを決めるのに、未来を生きる当事者がいないのは、おかしい。未来を生きる主役の子どもたちこそに、考えてもらうべきではないか」

永田さんはこれまで自ら背負ってきたCFO(最高財務責任者=チーフ・フィナンシャル・オフィサー)の看板を下ろした。CFOを「最高未来責任者=チーフ・フューチャー・オフィサー」に書き換え、18歳以下限定で公募することにした。

「行動で示せる人間になりたい」

小澤さんは高校で、友人らとともにフラボノイドと腸内細菌の研究をして学校内外の賞を受賞するなど、バイオ技術に関心が深い。そして「既に地球は危機に晒されているのに、みんなが行動できないのはなぜか」という問題意識を持っていた。

2019年夏、CFO公募の新聞広告を見た。

「環境を良くしようと訴えるだけでなく、行動で示せる人間になりたい」「高校生にしかない視点、大人になったらだん薄れてしまう視点や、身の回りから見た視点があると思う。私にしかない視点から、新しい提案を、この企業にしてみたいと思った」

公募に手を挙げ、CFOに選ばれた。

同時に選出された18歳以下のサミットメンバー8人とともに、同社の経営状況が「人と地球を健康にする」という経営理念に沿っているかどうかを調査し、未来に向けた提言を行う職務を担うことになった。

会社法上の「役員」ではないが、社内では「ナンバー3」としての地位を保障されている。任期は1年だ。

2019年10月の就任時、小澤さんはBuzzFeed Newsの取材にこう語っている。

「サミットメンバーと、日本人は問題意識はあるけど行動には移さないよね、という話をしたんです」

「何かを変えたいという気持ちがあるのかも知れないけど、私1人では変えられないという思いがあるのかもしれない。その意識改善ができていけば、もうちょっと日本全体がまとまりが持てるのかな、と思います」

増えるペットボトル飲料

飲料メーカーでつくる全国清涼飲料連合会の統計では2019年、飲料の容器の75%をペットボトルが占めた。またこの10年、瓶詰めや缶の飲料の生産量は減少傾向にある一方、ペットボトルは伸び続けてきた。

清涼飲料連合会などでつくる「PETボトルリサイクル推進協議会」によると、日本のペットボトル回収率はここ10年、年々80%を超えており、欧州の40%台、米国の20%台に比べれば、遙かに高い。回収されたボトルは樹脂シートや繊維、ペットボトルの再生産などにリサイクルされている。

とはいえ、いま使われているペットボトルがすべてリサイクル品というわけではなく、生産には新たな石油が必要だ。

また、ユーグレナ社のまとめでは、世界のプラスチック生産量は約3億トン。その3割はゴミとして処理されず、土地や海洋を汚染しているという。日本では1人あたり年間70キロのプラスチックを捨てている。

環境問題が「自分ごと化」しにくいなら、どうするか


近年の猛暑や豪雨、巨大台風などで、地球温暖化はすでに私たちの暮らしに大きな影響を与え、水害や熱中症などで多くの生命が奪われる状況となっている。

世界各国では、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさんの呼びかけに応えて100万人以上の若者が気候変動に対策を取ることを求めるデモに参加するようになった。しかし、学校側が生徒にデモ参加を薦めるまで盛り上がりを見せたカナダなど各国と比べれば、日本はまだ、静かだ。

小澤さんが学校に通うかたわら、8人の仲間と社内の状況を調べ、話し合った。その結果として浮かんだのは、日本社会では、環境問題を自分のこととして考えにくい状況にある、ということだ。

そこで、「環境問題を自分ごと化するのが難しいのであれば、『消費者が意識せずとも環境に配慮した行動をとれる仕組み』を企業が構築するべきだ」という提言をまとめ、2020年3月の取締役会で示した。

これを受け、消費者が意識せずとも、手にした商品がすでに環境に配慮されているという状況をどうつくるか、具体化を社内で検討した。

その第一弾が、9月の商品リニューアルに合わせ、飲料からペットボトルを全廃することだ。紙パックに置き換える。これにより、容器を一つ生産する時に出るCo2量を、約7分の1にできるという。あわせて、同社の通販サイトでは購入時、飲料商品にストローをつけるか、つけないかを消費者が選べるようにする。

また、売り上げを伸ばしている化粧品部門でも容器や商品ラインアップの見直しを進め、全体として同社が商品に使う石油由来のプラスチックを、2021年中に半減させることにした。

しがらみ抜きの理想が大人を動かす

社内にしがらみがない小澤CFOらによる「本当に今の経営は『人と地球を健康にする』という理念に沿っているのか」という提言は、社内でどう受け止められたのか。

ペットボトル商品はこれまで、同社の飲料売り上げの35%以上を占めていた。商品のパッケージや大きさが変われば、スーパーなどで陳列の位置が変わり、売り上げに影響が出る可能性も否定はできない。

BuzzFeed Newsの取材に応じた担当社員の1人は「主力商品が環境に良くないという罪悪感は、薄々あった。しかし売り上げのインパクトが大きく、なかなか行動に移せなかった。そこを、CFOに後押ししてもらった」と語る。

永田副社長は「私達の理念から考えれば、ペットボトルの商品をCFOの提言の結果として実行するまで販売を継続していたこと自体が、情けない」と振り返る。

「2021年のプラスチック量半減は必ず達成する。信念を持って手を上げ参加してきた彼女たちは、私達に、恥ずかしい経営はできないという意志を与えている」

環境への配慮が当たり前となる世界を

小澤CFOはこうコメントした。

「提言の結果、ユーグレナ社では、環境問題に直結した身近な存在であるプラスチックを最初のステップと考え、既存のペットボトル商品全廃をはじめ石油由来プラスチック削減に向けた施策の決定や検討に繋がっています」

「しかし、ユーグレナ社だけが環境に配慮した行動を起こしたとしても、世界は変わりません。環境に配慮した行動が他企業にも波及し、環境に配慮した行動が当たり前となる世界を実現していきたいです」