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「キャベツ枕」「キャベツ帽子」で熱が下がる?

SNSで拡散されている「キャベツ枕」。ヨーロッパの民間療法といい、子どもの熱が下がるとか、乳腺炎に効くと言われていますが、本当なのでしょうか? 医学的に検証してみました。

「子どもの熱が出たときに、キャベツの葉を頭にかぶせるといい、毒素が体外に出て熱が下る」と勧める記事がTwitterで回ってきました。

ヨーロッパの民間療法とのことですが、私は初耳だったので、「キャベツ 熱」で画像検索しました。すると、頭にキャベツをかぶった子どもや動物の写真がたくさん出てきます。

中には乳腺炎に効くという触れ込みで、女性が胸にキャベツを貼ったものも出てきます。「がんの毒素を出す」とがん患者に勧める人までいるそうです。

これは一体どういうことなのでしょうか?

陰性・陽性? アルカリ性・酸性? めちゃくちゃな説明

回ってきたサイトには、冒頭からおかしな話が並んでいます。

「キャベツの陰性(アルカリ性)が熱の陽性(酸化している血液)を中和し、熱がグングンと下がるのです。」

(It Mama「もう試した? 熱冷ましの新常識『キャベツ枕』の驚くべき効果」より)

という文言もありますが、陰性・陽性とアルカリ性・酸性は同じものではありません。ママサイトのIt Mamaはこの記事について、現在は削除した上でお詫びも掲載しています。

アルカリ性・酸性は、水溶液の性質を表すもので単位はpH。義務教育で習いますね。

pHは水素イオンの量によって変わる値で0〜14まであり、pH測定器やリトマス試験紙などで調べます。pH 7が中性、それよりも大きかったらアルカリ性、小さかったら酸性。

陰性と陽性は、一般的には電子を引きつける傾向、電気陰性度のこと。このページでは、おそらくそれではなく、マクロビオティック的な陰性・陽性ではないでしょうか。キャベツが特別電子を放出したり引きつけたりしませんからね。マクロビオティックの陰陽に、医学的な裏付けはありません。

別のママサイト「Up to you!」の記事、「子どもの急な発熱、咳…。寒い冬に備えたい、おうちでできる野菜を使った手当て法」でも、キャベツ枕について同じ説明が書いてあります。出典が書いてありませんが、It Mamaのコピペでしょうか。

キャベツで頭を包むようにキャベツを敷きます。
キャベツ枕というもので、ヨーロッパの民間療法でもあるようです。
キャベツの陰性(アルカリ性)が熱の陽性(酸化している血液)を
中和してくれます。(「Up to you!」「子どもの急な発熱、咳…。寒い冬に備えたい、おうちでできる野菜を使った手当て法」より)

キャベツで体内はアルカリ性になることはありません

ニセ医学とかトンデモ科学の本にはよく、「酸性に傾いた血液を食べ物でアルカリ性にする」などと書いてありますが、キャベツを体に当てたり食べたりしたくらいで体内環境がアルカリ性になることはありません

ICU(集中治療室)やNICU(新生児集中治療室)では、血液のpHを頻繁に血液ガス分析で測ります。患者さんの容態が生死に関わるほど具合が悪いときでないと血液のpHは酸性に傾いたりしません。

そして、医師はpHの調整にキャベツではなく、メイロン(炭酸水素ナトリウム)を静脈注射します。

どこの家庭にも常備してあるキャベツ。実は、急な発熱のときに頭に葉っぱを乗せると、葉っぱが熱を取ってくれるんです。熱があるときに、ぬらしたタオルを額にのせて熱を下げる方法と同じで、青物や葉物といわれる野菜に多く含まれるカリウムが、身体の中から熱を取る働きをします。

(S-BOX「子供も大人も発熱したらキャベツが鉄則!?安全でやさしい解熱法より)

と書いてある別のサイトの記事もありました。カリウムに熱を取る作用はありません

「発熱時には呼吸がゼーゼーと苦しいこともありますが、スッと楽になり、嘘みたいに穏やかに眠りにつくことが出来ます」(It Mamaより)

「これをすると子供も楽になって、 呼吸が穏やかになりすっと眠ってくれます。 (本当に嘘のようです)」(Up to you!より)

発熱時に呼吸が苦しいのは、呼吸数が早くなるからです。もしも、熱とともに気管支が狭くなってゼーゼーし、陥没呼吸があったり顔色が悪くなっていたりしたら、キャベツをかぶせるよりも救急外来に行きましょう。血液中に酸素がどの程度含まれているかを調べる酸素飽和度を測定したら、吸入・点滴などが必要かもしれません。

しかもキャベツの凄いところは、熱を下げるだけでなく、「体内の毒素も吸い取ってくれる」ということ。(It Mamaより)

毒素ってなんでしょう?

医学用語では、細菌が作る人に有害なものを指します。破傷風菌が作る破傷風毒素、黄色ブドウ球菌の作る表皮剥脱毒素などといったようなものです。キャベツをかぶることで、こういった毒素をどうにかできることはないでしょう。

人が熱を出す仕組みとは?

発熱は、こういった仕組みで起こります。

病原微生物が体内に一定量以上入ってくると、血管内皮細胞、単球、マクロファージなどが体温中枢に非常事態を知らせ、設定温度を上げます。寒気がして服を着たり、筋肉が震えることで熱産生量が増えたりします。

体温が高いほうが、免疫機能がよく働きますし、風邪を起こすようなウイルスは高い温度に弱いためです。

風邪などで熱が上がるときは、体温中枢が設定した体温になるまでは寒気がします。お子さんが、寒そうにしているときには温めてあげて下さい。

でも、熱が上がりきって顔が赤くなり、暑そうにしていたら温めては苦しくなります。衣類や掛け物を減らし、嫌がらなければ水枕や保冷剤などをタオルで包んで首の後に当てましょう。

解熱鎮痛薬は、熱のせいで頭痛や関節痛がするとき、熱が高くてつらいときに使います。「痛い」と自分で言えない子は、機嫌が悪くなったり、哺乳力や食欲が落ちたりします。そういう際には、眠って安静を保つために解熱鎮痛薬は有効です。

乳房の痛みにも当然、効果なし

最後に、乳房の痛みにキャベツ、ジャガイモやサトイモの湿布が効くと勧める助産師や保健師がいるようですが、医学的根拠はありません。

生の野菜には、リステリア菌などの細菌が付着しています。キャベツでついたその菌を授乳の時に赤ちゃんが口にして感染する恐れもあります。

また、かぶれたりすることもあるので、保冷剤のほうが安全です。抗菌薬でないと改善しない場合もあります。

DeNAのWELQが問題になり、医学的に根拠のないことを書いたサイトは以前に比べ減りました。でも、まだ育児や子どもの医療に関しては正しくないページが放置されています。

以前にBuzzFeedで書いた、その母乳情報、大丈夫ですか? ママサイトにはご用心」、「「サイレントベビー」とは?その真実と診断、大人になってからなどに関するデマ情報もまだありますね。

初めての育児中、突然の発熱はとても心配なものです。前述した発熱時にどうしたらいいか、鼻水、嘔吐・下痢のときの対処法などは、『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』 をぜひご覧ください。

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【森戸やすみ(もりと・やすみ)】 小児科専門医

1971年、東京生まれ。1996年、私立大学医学部卒。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。主な著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(同)、共著に『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(同)など。ツイッターはこちら